フィリップ・K・ディック原作の短編SF小説の映画化らしいですが,ディックの原作は読んだ記憶がないので,どの程度この映画に生かされているのかは不明です。
一言で言えば,2分後の自分を予知できる能力を持った男が,その特殊能力を駆使して核テロリストの計画を阻止しようという映画です。設定としては非常におもしろいです。
しかし,冷静になって考えると,2分先のことしかわからないのに,どこにいるかもわからない核テロリストの計画を未然に防げと言われても,そりゃあ,ちょっと無理でないか,と思いますよね。そして,そういう根本的な疑問が最後まで解けないまま終わっちゃいました。おまけに,テロリスト側が一体何を計画しているのか,何のために核を持ち込んだのかが全く不明のため,事件の全貌が観客に伝わってこないんですよ。そういう意味では,基本設定の部分に無理があったような気がします。
というわけで,暇つぶしに笑ってツッコミを入れながら見るにはいい映画,というあたりでしょうか。
ストーリーはこんな感じ。
主人公のクリス(ニコラス・ケイジ)はラスベガスの小さなクラブのマジシャンですが,実は自分の未来が2分間だけ予知できるという特殊能力を持っています。しかし,幼い頃から予知能力の実験台にされてすっかり嫌気がさしてしまい,その予知能力を隠して下手なマジックをしたり,カジノでちょっと賭けてはせこく儲ける(派手に勝つとイカサマと思われるか,超能力者だとバレてしまうから)という生活をしています。
一方,ロサンゼルスのどこかにテロリストによって核爆弾が持ち込まれたという情報がFBIに入ります。そこで,FBI女性捜査官のカリー(ジュリアン・ムーア)はクリスの特殊能力を知り,彼に未来を予知してもらって爆破を未然に防ごうと考えます。しかしクリスは,自分の身辺に関することしか予知できないから無理だと告げ,逃走します。そして逃走の途中で「運命の女性」リズ(ジェシカ・ビール)と恋に落ちます。
しかし同じ頃,テロリスト側もクリスに目を付けます。未来を予知されては爆破計画の邪魔になるからです。そしてテロリストたちはリズを拉致します。さあ,クリスは核爆発を未然に防ぎ,リズを助けられるでしょうか・・・ってなお話だ。
と,内容を要約してみると,一段と「無理矢理感」の強いストーリーだと言うことが改めてよくわかります。
2分間先のことがわかったからといって,テロリストの計画を阻止できるか,と素直に考えると,やはりそりゃあ無理ですよね。2分じゃ,カップ麺もまだ堅くて食べられません。核爆弾がそこで2分後に爆発するとわかったからといって2分では安全な所に逃げ出せるわけもありません。せいぜい,2分後に交通事故に遭うから車に乗るのを止めようとか,こいつに2分後殴られるようなのでさっさと逃げようとか,そういう利用法しか思いつきません。
やはり2分じゃ無理だよね,と作り手側も途中で気がついたらしく,リズに関連することでは数時間後(?)まで予知できる,という新設定が加わります。なぜリズがらみのことなら・・・という理由は定かではありませんが,「運命の人」だからということで何となく納得してあげましょう。
それにもまして「無理矢理」なのは,クリスが予知能力を持っていたとしても,彼にFBIが「原爆テロ計画阻止の切り札」と目を付け,テロリストグループも「こいつが我々の計画の最大の障害だ」と目を付けたことです。だってクリスは,自分が超能力者であることを極力隠して生きてきたわけですし,この程度のマジシャンならラスベガスに掃いて捨てるほどいます。それなのにFBIのカリーさんは「以前から彼に注目していた」なんて言うんですよ。オイオイ,「いつか原爆が国内に持ち込まれる事件が起きるかもしれないから,その解決のために予知能力を持つ超能力者の力が必要になるだろうし,そのためにはアメリカ中のマジシャンを見張る必要があり・・・」っていうのかよ,って笑っちゃいました。
さらに,テロリスト集団はロサンゼルスに原爆を持ち込んでから「どうやら予知能力者がいるらしい」という情報を得,それから独自にアメリカ中のマジシャンなどを調査し,そこでクリスに目を付け・・・となると,どう考えても数日じゃ無理だろと思いますね。そんな超能力者の心配をするより,私ならさっさと爆破させちゃいますよ。
それにましてダメなのが,原爆テロリストがどんな集団なのか,どれほど大きな組織なのか,目的は何なのか(金が目的なのか仲間の釈放なのか)が全く描かれていない点です。戦う相手の規模が不明なので,戦いそのものが絵空事に見えてしまいます。
また,リズの体にダイナマイトを巻き付けるシーンにしても,何のためにこんなことをするのかがわからないし,リズを爆死させた場合にテロリストたちはそれで何を得るのかも不明です。
画面を見ているうちは,こんなことを考える間もなく次々とシーンが変わるのであまり気になりませんが,感想文をまとめようとすると途端に綻びが目についてきます。
映画の中でも,このシーンがクリスの予知した未来なのか,現実の世界で起こっていることかの見分けがつきません。これがリズに声をかけるシーンや格闘シーンでは生きてくるんだけど(相手がどこから殴りかかってくるかわかるクリスは強いぞ),最後のシーンであそこに戻るのは反則です。
そして何より,事件そのものは解決していません。要するに尻切れトンボです。もしかしたら,続編でも作るつもりなんでしょうか?
そうそう,一番の収穫は「刑事コロンボ」役のピーター・フォークさんがちょい役で出ていることです。クリスが盗んだ車を運び込むところで登場するおじいちゃんです。フォークさん,確か80歳を越していると思いますが,矍鑠とした演技でお元気そうです。そして,「刑事コロンボ」のちょっととぼけた味の演技がそのままで,いい味を出しています。「刑事コロンボ」ファンにとっては感涙モノでしょう。
(2009/07/09)