閉鎖空間に殺人期と一緒に閉じこめられて逃げ回る,というよくあるタイプのサスペンス映画です。ただ,外部から絶対に侵入されないハイテクビルに閉じこめられるという設定は面白いし,陰湿ストーカーがターゲットにしている女性を閉じこめるというのも,いかにもありそうな話です。
一部に残虐シーンがあるためRー18指定となっていますのでお子さま向けではありませんが,騒ぐほどのひどさでもありません。主人公は基本的に「絶対に諦めないわ! 絶対に生きてこのビルから出てやる」というタイプの強い女性であり,最後の反撃シーンも極めて爽快。見て損をしたという気分にはならない作品でしょう。
舞台はクリスマスイブの晩のニューヨークのハイテクオフィスビル。次々と自宅に急ぐ同僚たちをよそに遅くまで残業していたアンジェラはようやく仕事も終わり,地下二階の駐車場(P2)に向かい,車に乗り込みますが,なぜかエンジンがかかりません。そして携帯電話も圏外です。1階のロビーでタクシーを呼び,タクシーが来ますが1階のドアが開きません。完全にロックされているのです。そして警備を呼んでも姿を見せません。
携帯電話の光を頼りに地下2階の車までたどり着きますが,そこで彼女は何者かに襲われ気を失います。気がつくと彼女の目の前にはサンタの格好をした若い警備員が立っていて,しかも彼女の足は鎖でつながれ,足下では犬が唸り声をあげているのです。そして警備員は「ずっと君が好きだった。今日はクリスマスだし二人で楽しもう」と語りかけてきて・・・という映画です。
この「僕には友達が一人もいないんだ。君が大好きだ。僕は何も悪くない」とジコチューの固まりのような警備員がすごくキモいです。基本的にアンジェラに対しては直接傷つけるようなことはしないので(精神的にはネチネチと追いつめていくだけ。とはいっても,最後の方では犬にアンジェラを襲わせるけど),相手の言うことを聞くふりをして安心させ,隙を見て逃げ出すんだろうな,というのは最初の時点で予想できますが,こいつがアンジェラに話しかける言葉の嫌らしさと不愉快さは一級品です。こんなサイコ・ストーカー野郎に狙われたらたまったもんじゃございません。
ストーカー君の行動はどんどんエスカレートしていきます。アンジェラにセクハラを働く上司を監禁してアンジェラを助手席に乗せた車でグチャグチャになるまでひき潰すし(このシーンは車で潰される様子がかなりグロい),逃げたアンジェラがエレベータに閉じ込められるのを見ると(何しろ,監視カメラはこのお兄ちゃんが全て見ている),そのエレベータを水責めにしてくるし,やりたい放題のクソ野郎です。
対するアンジェラを演じるのは,正統派美人金髪巨乳のお姉さんのレイチェル・ニコルズですが,なかなかよろしいです。胸の谷間が深く開いた薄手のワンピース一枚で手錠をかけられたまま,素足で逃げ回ります。水責めシーンはほとんど裸寸前です。しかし,ほとんど裸同然の無防備な格好をさせられ,もうこれでダメかも,という窮地に何度追いつめられても,決して諦めません。こんなクズ野郎,ゲス野郎の言いなりに死んでもなるもんか,と常に反撃の機会を窺っていますし,地下駐車場にあるちょっとしたものを次々に武器にして反撃を試みます。だから,最後にストーカー野郎に引導を渡すシーンは爽快で痛快! 十分なカタルシスがあります。地下駐車場でのカーチェイス・シーン,そして警備員とのチキンレースもかなりいいです。
それにしても,外に絶対に出られない建物という設定がうまいです。セキュリティを高くしようとすれば,出入り口の数を最小限にしてそこでのガードすることになります。逆に言うと,そこをロックしてしまえば絶対に出られません。しかも,アメリカのクリスマスイブです。この日は家族や恋人を一緒に過ごすのがアメリカ社会の常識ですから,広大なオフィスビルといえどもこの夜ばかりは警備員以外は無人になります。おまけにそこかしこにある防犯カメラは警備員室にあり,ストーカーの警備員がそれを常に見ているのです。しかも,アンジェラが外の世界と唯一の連絡手段である携帯電話は圏外です。これは,どんなホラー映画より怖い設定と言えます。この映画を見たOLさん,絶対に残業拒否するだろうな。
というわけで,この映画はかなり低予算と思われます。台詞のある登場人物はせいぜい5,6人(と犬一頭)ですし,有名俳優はアンジェラ役のニコルズだけだし,おまけに彼女の衣装はワンピースみたいなの一枚だけだし,舞台になるのは地下駐車場だけだし,CGは使ってないし,特殊メイクもありません。それでこのくらいの映画が作れるのですから,やはり映画はアイディア次第ですね。
(2009/07/29)