《ソーラー・ストライク》 (2006年,アメリカ)★★


 科学の知識がちょっとある人なら最後まで楽しめる映画でしょう。なぜかというと,科学的説明部分がムチャクチャで破綻しまくっていて,おまけにストーリー展開は強引で無理矢理,これで問題は何一つ解決していないよね,と誰しも気がついているのに主人公の夫と元妻がよりを戻して大円団を迎えるというお馬鹿映画だからです。
 頭の切れる小学生ならもっとましなストーリーを考え付くんじゃないの,という気がしますが,逆にそれがなんともいえない絶妙な魅力となり,あまりにひどさに最後まで目を離せない作品になっています。さすが,アメリカお馬鹿映画の凄まじい破壊力と常識のなさは他の映画の追随を許さないものがあります。

 というわけで,暇な休日にレンタルショップから借りてきて,昼間っからビールを飲みながら「馬鹿な映画だねぇ」と笑いながら見るのに最適な作品の一つじゃないかと思います。


 映画は冒頭,ナイスなCGで描かれる太陽とそれに近づく人工衛星が映し出されたと思うと,突然太陽表面が爆発し,人工衛星は飲み込まれます。CME(コロナ質量放出)と呼ばれる現象です。そうです。この映画はCMEをテーマとしたSFパニック映画なんですね。

 航空会社を経営する大金持ちのルーカス・フォスター(マーク・ダカスコス)は環境破壊に関心を持ち,大気圏のメタンガス濃度を測定するために一億ドルの私財をなげうってスペースシャトルのような探査測定機を打ち上げますが,機体からの連絡が突如途絶えます。そして近地球宇宙研究所に勤める元妻であるジョアンナからの連絡(だったかな?)でそれがCMEによる高エネルギーを浴びての爆発事故であることを知ります。

 ルーカスはCMEがさらに地球を襲って人工衛星を破壊することを予言し,北極上空のオゾンホールから侵入したCMEが大気圏に高濃度に存在するメタンガスを爆発的に燃やして大気圏は火の海となり,地球の大気がすべて失われる可能性があると予想します。しかもタイムリミットは48時間!

 そして,ルーカスはその恐ろしい事態を回避する手段を考え尽きます。北極に核爆弾を打ち込んで大量の水蒸気を上げ,それでオゾンホールのメタンの炎を消そう(だったか,大量の水蒸気でオゾンホールを塞ごう)というもので,大統領にすぐに実行するように進言しますが,大統領は決断を渋ります。そうしている間にも,アメリカの大都市には破壊された人工衛星が降り注いだり,オゾンホールから降り注ぐCMEはニュージーランドを焦土と化します。地上からICBMを北極に打ち込もうにもCMEの影響(?)で標的に正確に打ち込めなくなり,北極圏に配備された核搭載の原子力潜水艦に連絡を取ろうにも通信衛星は破壊され,連絡が取れなくなります。

 事態に業を煮やしたルーカスは,地球を人類を救うために立ち上がり,北極海のロシアの原子力潜水艦に乗り込みます。ロシア原潜の艦長が以前からの知り合いだったからです。そしてジョアンナからの連絡から目標に関する情報を得て核ミサイルを発射しようとしますが,その時,アメリカの原潜が近づいていて・・・という映画でございます。


 さて,どこからツッコミ始めたらいいか,嬉しくなっちゃいますね。思いついたままにツッコミを入れます。

 えーとまず,CME(coronal mass ejection)Wikipediaにあるように,高温プラズマなどの高エネルギー物質の放出です。それが直接地球に降り注いだら,もちろん人工衛星は影響を受けますし,地磁気変動を起こします。一方,オゾン層が防ぐのは紫外線であって,紫外線はCMEで問題になる高温プラズマとはエネルギーレベルが比べ物にならないくらい低いのです。ということは,この映画で問題にしている巨大なCMEがあったら,オゾンホールがあろうとなかろうと高エネルギーの塊が地球に降り注いでくるわけですよ。というわけで,映画の最初の設定自体がナンセンスということになります。


 ルーカス君,大気中のメタンガス(二酸化炭素の数倍の温室効果を持っているのは事実)増加に関心を持っているとして,それを調べるだけなら気球でも打ち上げるだけでいいような気がしますが,なぜかスペースシャトルを個人で作って打ち上げます。思いっきり無駄使いというか,努力の方向を間違えています。

 このルーカス君,一体何者なんでしょうか。政府関係者でもないし,アメリカ軍の関係者でもないし,宇宙研究機関の関係者でもありません。単なる金持ちです。それなのに,大統領に電話をかけて「ルーカスです」ってタメグチ口調で言うと,大統領も「おう,君か」ってな感じでお知り合いのようです。しかも,ロシア原潜の艦長とも個人的知り合いなんだそうです。どうやら,世界を股にかけた超有名人のようです。しかし,いくら超有名人といっても単なる一般人,単なる素人なんですから,こいつの無謀計画をそのままアメリカ・ロシアが実行に移すわけないだろ,そりゃ,何が何でも無理だろと言いたくなります。


 えーと,大気圏にメタンガスが増加しているとしても,それで大気圏上空でメタンが燃えて空が炎に包まれる,というの科学をちょっと囓った人ならとても考え付かない設定です。無知なるが故の無茶ストーリーです。というか,大気圏に燃えるくらいの濃厚メタンガスが溜まっていたら,ルーカス君でなくても世界各国の大学や気象台がまず最初に異変に気がつくって。ちなみに,燃える大気はCGですが極めてチープです。

 そして,その「燃える大気」を消すのが核兵器,ってのもアメリカ人好みですね。ヒロシマ・ナガサキ以来,アメリカ人は「平和目的のための核の使用」が大好きです。確か,地球の真ん中にあるコアが回転を止めるという映画でも,核弾頭を打ち込んでましたね。しかし,北極に核爆弾を打ち込んだらどうなるかっていうと,「氷⇒水⇒水蒸気」でおさまらないんですね。水分子も分解されてプラズマ化するはずです(ちょっと自信ないけど)。それで「燃えるメタンガス」を消せると言われてもなぁ・・・。おまけに,5発の核弾頭を至近距離,水深700メートルから打ち込んでいるわけですよ。当然,潜水艦にも衝撃波などによる影響があって,哀れ潜水艦は深海に没す,ということになるはずなんですが,ロシアの原潜はよほど丈夫にできていたらしく,傷一つつきません。

 しかも,CMEはまだまだ地球を襲ってくるのですから,一回だけ「燃えるメタン」を消したとしても問題解決にならないんですよね。しかも最初は「燃えるメタンを消すなら水だ。水なら水蒸気を上げれば」って説明していたのに,途中から「水蒸気でオゾンホールを塞ぐんだ」と,説明が変化しているような気がしますが,気にしないようにしましょう。

 そうそう,途中でニュージーランドがCME直撃を浴びて焦土と化すというのもすごいです。だって,一番最初に「北極上空のオゾンホールからCMEが」って説明していたのに,ニュージーランドって南半球じゃないですか。いつからニュージーランドは北半球に移動したの?


 いくらルーカス君を個人的に知っているからいって,アメリカの一般人を原子力潜水艦に乗せちゃうロシア軍艦長もすごいですねぇ。あとで軍法会議にかけられてないか,心配になります。

 ルーカス君は以前,近地球宇宙研究所(すごいネーミングだけど,一体何を研究しているんでしょうか)に勤めていて,何かトラブルがあって辞めて飛び出したらしく,別れた妻はまだその研究所に勤めている,というのはお約束ですね。
 ということは,ルーカス君は勤めていたときは普通のサラリーマン研究者で,研究所を辞めて奥さんと別れてから大金持ちになったとしか考えられません。
 とくれば,元妻は大金持ちになった元旦那とよりを戻したくなるわけで,映画の中でも未練たらたらの様子がアリアリです。でもジョアンナさん,「美人度数」が低めだし,おまけに若くもないし巨乳でもございません。最後に二人はよりを戻し,ジョアンナさんは大富豪の妻の座を獲得した模様ですが,ルーカス君,それでよかったのでしょうか。もしかしたらこれが純愛,ってやつかもしれません。

 そうそう,低予算映画の常として,主要登場人物(台詞がある人ね)は少ないし,近地球宇宙研究所の作りはチープだし,大統領執務室(?)もすごくチープです。このあたりも,なるべく気にしないように注意しながら鑑賞する必要があります。「なんか登場人物,すくなくね?」なんて思ってしまうと興ざめですから。


 というわけで,カウチポテトでご笑覧いただけたらと存じます。

(2009/08/20)

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