《アストロノーツ・ファーマー 庭から昇ったロケット雲》(2007年,アメリカ)


 いつかは宇宙に行きたいと夢見ていたテキサスの農場のお父ちゃんが,自力で宇宙ロケットを組み立て,家族の協力で宇宙に旅立ち,地球を13周くらいしてまた無事にテキサスの自宅近くに着陸する,という映画でございます。宣伝文を見て面白そうだなと思って借りてみた私が馬鹿でした。近来稀に見るクズ映画でした。

 これを見て感動する人もいるんだろうけど,私から見れば単なるアホ馬鹿クズ映画。最初の15分で見るのを止めようと思ったくらいひどい映画です。一応,評論を書くためには最後まで我慢して見ましたが,ラスト10分で堪忍袋の緒が切れました。
 「願えば必ず望みはかなう,諦めなければどんな望みもかなう」と信じている人にはいい映画かもしれませんが,それにも限度があります。

 これは宇宙を舞台としたファンタジー映画です。だから,妖精さんでも宇宙人でも火星人でも好きなだけ登場させればいいし,宇宙空間を生身の体で飛びまわってもいいのです・・・どうせ,ファンタジーだから。
 そして,そういうファンタジーと最も相性が悪いのは科学技術です。「宇宙空間を宇宙服なしに飛べるわけないだろ」というのは純然たる科学なんだから,そういう映画にはリアルな宇宙ロケットや発射台や宇宙服を登場させてはいけません。ロケットが登場したとたん,それは科学の範疇に入ってしまうからです。


 しかし,この映画はガチの科学技術系SF映画とファンタジー映画をくっつけちゃったのです。しかも,映像はバリバリ科学系なのに,技術的な部分はすべてすっ飛ばし,都合の悪い部分はファンタジーに逃げちゃっています。なぜかと言うと,夢を追いかけることの大事さ,夢を諦めないことの大切さ,家族が団結することも素晴らしさを描くためです。要するにこの映画を作った監督にとっては,宇宙なんてどうでもよくって,とにかく家族愛を描きたかったんでしょう。だから,宇宙なんて隣町に行くのと同じさ,程度の知識でこのクズ映画を作っちゃったんでしょうね。これだからアホは困ります。

 とにかく最悪なのは,大学と空軍で宇宙工学を学んだだけの素人が,自宅の納屋で友人ロケットを組み立てた,という一番肝心な部分が全く描かれていないことです。だって,無人の50センチのロケットをまっすぐ打ち上げるのだって,大変なんですぜ。ちょっとやそっとの知識では無理だし,まして,納屋で溶接機を駆使した程度なんですから,打ち上げ実験の時点でまず爆発炎上で,いくら情熱と夢があったって打ち上げられる確率は鉄板で0%です。このあたりが,高校生がロケットを打ち上げようと悪戦苦闘する《遠い空の向こうに》と決定的に違います。要するに,宇宙工学とか宇宙と言うものを舐めきっているのですよ,この馬鹿映画は。

 ましてや,素人の手作りロケットで大気圏再突入ですか? 馬鹿も休み休み言え,寝言は寝てから言え,って感じですね。こいつら,大気圏を舐めきってます。さっさと燃え尽きちゃえ,こんな馬鹿親父。


 最初の打ち上げで失敗するのも当たり前です。打ち上げ実験してないんですから。北朝鮮のテポドンだって,何度も打ち上げ実験しないと狙ったところに当たんないのです。それをいきなり,お父ちゃんが乗り込んで打ち上げですぜ。案の定,ロケット打ち上げは失敗するんですが,そのあとロケットは地上すれすれを暴走し,崖から落ちます。取材陣10人くらいを殺し,主人公も死亡,というのが当たり前です。私はこのシーンを見て,この馬鹿親父,ようやく死んだかと思いましたが,肋骨6本を折っただけでしぶとく生きています。だから,「馬鹿」は治りません・・・死んでませんから。これだから体力馬鹿は困るんです。

 奥様も馬鹿すぎます。この馬鹿親父,息子を無理矢理学校から連れ出すんですが,その理由は「ロケット打ち上げの管制官だから」だとさ。15歳の子供が管制官? 冗談かと思ったら,マジなんですよ。ここで,これまで「夫の夢をかなえるため」についてきた妻もようやく眼が覚め,「学校を辞めさせるなんて,あなた,異常よ!」って三行半を突きつけるかと思っていたら,「あなたの夢を追求するほうが大事」ってさらにけしかけるんだよ。お前がけしかけてどうする? かくして,このアホ一家は歯止めをかける人もなく,宇宙馬鹿親父の妄想実現に一家一丸となって突き進むのでありました。アホは伝染性疾患であることがよくわかります。


 宇宙のシーンもお笑いの連続。途中でヘルメットを脱いでますけど,それなら宇宙服は最初から要らなかったのでは? 手袋も脱いじゃったしね。打ち上げのときに,奥様が「あなた,夕食までには帰ってきてね」と声をかけて宇宙船のハッチを占めるシーンにしても,これじゃ漁船の甲板のハッチよりチャチじゃん,という感じのチープな扉を手動で閉めるだけ。普通のアパートのドアのほうが機密に作られている感じです。この安っぽいハッチでも宇宙空間で機密を保っていられるなら,日本の安アパートをそのまま宇宙空間に打ち上げられそうです。

 アホ映画ならアホ映画でいいです。アホに徹して作ってくれれば,私は文句を言いません。しかし,アホのくせに頭がよさそうに見せかけようとする映画は大嫌いです。この映画はそういうクズ作品です。

(2009/09/09)

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