新しい創傷治療:スーパーストームXXX(トリプルエックス)

《スーパーストームXXX(トリプルエックス))》★★ (2007年,アメリカ


 皆様,ダークマター(暗黒物質)ってご存知ですか。詳しくはWikipedia なんぞを参考にしていただきたいのですが,要するに,観測できている物質だけでは銀河や宇宙が形態を保っているのに必要な質量が足りないため,「存在しているがまだ人間の観測手段には引っかかってこない物質(=光を出さない質量だけの物質)があるに違いない」ということから考えられたものです。これとダークエネルギー(いまだ観測できていないエネルギー)を組み合わせると宇宙は安定して存在でき,宇宙全体の物質・エネルギーのうち74%がダークエネルギー,22%がダークマター,そして残りの4%程度が水素やヘリウムなどの「人間が観測できている物質」と考えられています。要するに,「ダーク」「暗黒」と言っても,邪悪な物質でもなければ邪悪なパワーを授けてくれるものでもございません。

 しかしこの映画,そのあたりのことを根本的に勘違いしちゃっていて,「ダークというからには邪悪なパワーの源だよ」と勝手に解釈し,このお馬鹿映画を作っちゃったようです。要するに「シマウマってさ,島に住んでいる馬のことなんだ」というのと同程度の間違いでございます。ほんとにお馬鹿さんでございます。


 と言うわけで,紹介するのもアホらしいクズ映画でございました。

 舞台はもちろんアメリカです。宇宙空間にのみ存在する謎の素粒子「ダーク・マター(暗黒物質)」を極秘研究しているアメリカ政府関連機関があり,そこで働いているのがダニエル博士。どうやら,暗黒物質には物質の原子構造そのものを変えるパワーがあり,これを自由に操れれば究極の兵器ができる,というのが彼らの目的らしいです(もちろん,人のいいダニエル君はその真の目的には気がついていません)。ちなみに、西暦2000年に「地上で暗黒物質を集める実験」をしていますが,「宇宙にしかない物質を地球に集めることができない」という理由で,うまく制御できなくて失敗しているらしいです(これが映画の冒頭になります)

 そして6年後(?),地上で暗黒物質を集めて「コア」に封じ込める技術の開発にダニエルが成功し,それを増幅器で宇宙衛星(宇宙空間だから暗黒物質をいくらでも集められるんだってさ)めがけて照射するとその反射波を地球のある一点に集めて,瞬時のうちに消滅させるという実験をして,「お払い箱になったが解体作業には金と手間がかかる原子炉」を瞬時に消滅させます。しかし,この実験の最中に事故が起き,ダニエル君は暗黒物質に被爆してしまい,手を触れずに物を壊したり,天候を変えたりできる能力を手に入れます。一方,宇宙空間の「暗黒物質が詰まった宇宙船」ですが,どっかから飛んできたネジみたいなのが直撃して穴が空き,そこから暗黒物質が漏れ出し始めます。

 そして,この計画を仕切っているアメリカ軍のお偉方は,実はその技術を他国に売ろうと企んでいて,暗黒物質の詰まったコアを盗み出し,某国のエージェントの目の前で照射実験を行い,シアトルのビルかなんかを消滅させちゃいます。

 一方,宇宙船から漏れ出した暗黒物質は地球の周りに漂い,地球のあちこちで「暗黒の雲が降りてきたと思ったらビルが瞬時に消滅」事件が頻発するようになります。その頃,盗人将軍は事件の真相を知るアメリカ軍の研究施設(もちろん,ダニエル君が勤務している研究所だ)を消し去ろうと,盗んだコアを使って宇宙に照射し,この研究所に暗黒物質のエネルギーを集中させますが,既に暗黒物質に被爆して超能力を得たダニエル君はそのエネルギーを吹き飛ばし,難を逃れます。

 吹き荒れる「暗黒物質嵐」に対し,「暗黒物質パワー」を持っているダニエル君は地球存亡の危機を防げるでしょうか,ってな感じの映画でございます。


 という感じに,ストーリーを要約してみましたが,何が何だかよくわかりませんよね。「これじゃ判らないよ」というのが正解です。映画を見ていても何がどうなっているのか,全然判らないからです・・・説明がいい加減すぎて。

 まず,映画の分類に困っちゃいますね。どう考えてもパニック映画なんですが,暗黒物質嵐でビルが壊れているのに,パニックが起こる様子が描かれるのはワンシーンのみで,あとは「○○市でビルが消滅し,人々がパニックに陥っています。死者は数千人に及んでいます」とテレビニュースで説明されるだけです。つまり,パニック映画の要素は皆無です。

 しかも,暗黒物質というSF的にいかにも美味しそうなネタを振っているのに,それを集める機械もチャチなら,増幅する機械も人工衛星もチャチです。暗黒物質の雲はCGでそれっぽく描いていますが,何度も同じものを使いまわすので途中で飽きてきます。つまり,SF映画にもなっていません。

 と言うわけで,この映画は途中から「超人映画」になってしまいます。手のひらに元気球・・・じゃなくって暗黒物質を出して敵に投げつけるところなんて,まんま,ドラゴンボールでございます。

 ちなみに,映画の主演の太っちょお兄さんはスティーヴン・ボールドウィンという人でして,B級映画ばかり作っているボールドウィン兄弟の四男らしいです。どうせお馬鹿映画なんだから,せめて主演だけでももうちょっとスリムで見るからに頭のよさそうな科学者に見える役者を使って欲しかったですね。おまけにヒロイン役の奥様も美人じゃなかったし・・・。そのくせ,なくてもいい二人のベッドシーンはあったりするし・・・。


 それにしても,地球の周囲を取り囲んで次々と世界各地に「宇宙竜巻」を起こすダークマターが,なんで「あれ」で消せるのか,何度考えてもわかりません。説明がムチャクチャならまだしも,全く説明すらしていません。嘘でも適当でもいいから,理由付けをするのがSFパニック映画の最低限のルールなんですが,それすら面倒になったみたいです。

 すまん,もうこれ以上書くことがないよ。

(2009/10/07)

Top Page