新しい創傷治療:宇宙戦争

《宇宙戦争》 (2005年,アメリカ)


 トム・クルーズ主演でスピルバーグ監督による総制作費141億円の駄作映画。大絶賛する人もいるけど,こんなクズ映画を誉める人の気が知れません。この主人公の設定にトム・クルーズはそもそも向いていないし,トムの二人の子供役はやたらと騒いでいるかブーたれるかのどっちかでただただうるさいばかりだし,宇宙人の造形は「あの映画」のパクリとしか思えません。

 もちろん,映像的には「さすがはスピルバーグ」というシーンが連続しますが,「家族愛の物語」を盛り込んだものだから,物語全体がこじんまりというか無理矢理感がたっぷり漂ってしまいました。どうせH.G.ウェルズのSF小説を原作にしたのだから,それをストレートに描けばよかったのに,なんで「家族愛」なんて余計なものを入れちゃったかなぁ。

 それと,こういう100年以上前に書かれたSF小説の映画化の難しさが,もろに浮き彫りになった感があります。確かにウェルズの原作は傑作だと思うけれど,それは「19世紀末のイギリス社会」を背景にして書かれたものであり,その当時のイギリス社会の問題点をウェルズは「未来」を舞台に鋭く指摘したわけです。だから,設定はそのままに舞台を21世紀にしただけでは,必ずどこかに無理で不自然な部分が生じてしまうし,かといって,19世紀末の社会に宇宙人を登場させるのもさらにおかしなものになります。このあたりについて,スピルバーグはどう考えていたのでしょうか。


 と言うわけで,ちょっとストーリーを紹介。

 舞台は現代のアメリカ東部の町。主人公は港湾で働くレイ(トム・クルーズ)で,妻と別れ,二人の子供は妻が引き取っている。ちなみに妻は再婚し,既に臨月に入っているようだ。そんなレイの元に元妻が子供を預けに来る。新しい夫と一緒に実家のあるボストンに行くためらしい。息子のロビー(ジャスティン・チャットウィン)は10代後半でレイを「自分勝手で自分のことしか頭にない父親失格野郎」として毛嫌いしているし,娘のレイチェル(ダコタ・ファニング)は一応「パパ」と呼んでくれるが,別れた妻にますます似てきたようだ。

 そんな,ぎくしゃくした3人を異変が襲う。テレビで「世界各地で嵐が発生し,停電騒ぎとなっている」と報じた直後,空は暗くなって稲妻が光り,突然の暴風が吹き荒れ,家は停電し電話も通じない。そして町ではすべての車が止まっていて,落雷が直撃した道路には大きな穴が開いていた。そして,穴の周囲に突然地割れが広がったかと思うと,中から巨大な3本足の「トライポッド」が出現し,怪光線を発射するが,その光にふれた人間は瞬時のうちに蒸発し,建物は破壊されていく。

 圧倒的な大きさと破壊力を持つ侵略者を前に人類文明は余りに非力であり,人類はただ逃げまどうしかなかった。果たしてレイは,息子と娘を無事にボストンの妻の元に送り届けられるだろうか,果たして人類に未来はあるのだろうか・・・という映画だ。


 このように映画のストーリーを要約してみるとよくわかりますが,要するにこの映画は「宇宙人の攻撃から逃れながら子供たちをボストンに連れていく」映画です。つまり,例の最終目的地はボストンで,ここに無事にたどり着ければ「あがり」です。そのため,映画の中では何度も「ボストンのおばあちゃんの家」という言葉が登場します。しかし,見ている方には「なぜボストンに行けば安全なのか」が全くわかりません。世界中がトライポッドで破壊され尽くしているのに,なぜボストンだけ安全だとレイが信じているのか,それは最後まで不明です。宇宙人がボストン・レッドソックスのファンだから・・・程度のこじつけでいいから説明して欲しかったです。

 そしてさらに駄目なのが,レイと二人の子供を主人公に据え,さらに家族愛をテーマにしてしまった点です。だから,いくらレイチェルが泣き叫ぼうと,ロビーが自分勝手に暴走しようと,「どうせ最後まで3人は無事で,ボストンのおばあちゃんの家で元妻に再会できるんでしょう?」とミエミエなのです。パニック映画なのに最後まで安心して見ていられるのはこのためです。「安心して見られるパニック映画」ってのもなんだかなぁ・・・と思ってしまいます。

 そして,そういう3人を助けるように,宇宙人の怪光線はレイとレイチェルだけをうまく避けて発射されます。「何が何でも,意地でもこの二人に当てちゃ駄目だぞ」という命令が宇宙人の間で完璧に伝えられていた模様です。おかげで,吹っ飛んだ車がレイたちのそばに落下しても,3人が乗ったフェリーが沈没して他の人たちがどんどん死んでいても,3人だけは無傷で助かります。このあたりは,映像を見ていてあまりの不自然さに笑いこけてしまいます。


 レイとレイチェルが「恐怖で発狂寸前のおっさん」の小屋にたどり着きますが,そこで宇宙人の探査ロボット(?)が入り込むシーンがあります。誰がどう見ても《アビス》のパクリです。映像的には《アビス》の方が圧倒的に美しいです。第一,これが手斧で壊せるわけないと思うんですけど・・・。それにしても,宇宙人の皆さん,なんでこんなボロ小屋を念入りに執拗に探索したんでしょうか。こんな小屋に隠れている一人や二人を捜すより,世界の大都市を破壊した方が効率がいいと思います。

 さらに失敗したのが宇宙人の設定。この「小屋探索シーン」で宇宙人君が初めて登場するんですが,小屋の壁に立てかけていた自転車に驚いたり,車輪を回して遊んだりと,どうみても「すべての攻撃を無力化するシールドで守られた宇宙船を作る」ような高度な科学文明を持っているように見えないのです。何しろ,自転車の車輪に驚いているくらいですから・・・。何でこいつらが宇宙船を作れたんでしょうか。
 おまけに,こいつらの手の形をみると,器用に何かを作り出せる手の構造はしていません。恐らくスピルバーグは,「地球にいる動物にちょっと手を加えて宇宙人を作ればいいんだろ?」と考えたと思うのですが,それが今回は裏目に出たようです。

 大都市を破壊し尽くすトライポッドですが,これって巨大ロボットですよね。映画の初めの方で「稲妻に乗って宇宙人が降りてき・・・」と説明があったと思いますから,ガンダムみたいに宇宙人が乗り込んで操縦するものでしょう。このトライポッドについては,「100万年くらい昔から宇宙人が地下に隠していたされていたと説明していますが,こんな巨大なものが地下に埋まっていたら地下鉄工事で既に見つかっているはずです。見つからないように深く埋めておいたら100万年の間に地殻プレートの移動で既にマントル層に飲み込まれているはずだし・・・。
 というわけで,なにもわざわざ100万年前に埋め込んでおかなくても,いきなり宇宙空間から巨大ロボを送り込んだ方が効率よくないかと地球人は思っちゃうわけですよ。


 結局,この宇宙人を倒したのは人間ではなく,地球上のバクテリアだったかウイルスなんですが,これはさすがに説明が無茶苦茶です。ウイルスが宇宙人の感染するためには,ウイルス自身の遺伝子を宇宙人の体細胞で増やしてもらい,ウイルス増殖に必要なタンパク質は宇宙人の細胞が作ってくれない限り,ウイルス感染で宇宙人が病気になることはあり得ないからです。また,感染したのがバクテリアだとすると,宇宙人の細胞膜が人間の細胞膜と同じ構造でなければ細胞内に侵入できないはずです。このあたりの設定も「19世紀末の科学を元にして書かれた19世紀末のSF小説」なんですね。

 もっとわからないのが,この地球侵略宇宙人御一行様の目的です。地球を我が手に・・・というのであれば,どうせ100万年前からいるんだから,その頃から地球制服をすればもっと楽だったろうと思いませんか。100万年前のホモ・サピエンスなんて簡単に制圧できるはずです。


 今回のトム・クルーズは「妻にも見放され,子供たちにも愛想を尽かされ,宇宙人を前にして逃げまどう」だけの役柄です。要するに,ダメおやじキャラです。しかし,トムちんの爽やか笑顔は絶対に「ダメおやじ」には見えないし,それどころか,「宇宙人の弱点を見つけて宇宙人を倒すヒーロー」にしか見えないのですね。ここらも配役ミスだと思います。

 このトムちんよりもっと駄目だったのが,トムちんの二人の子供です。どちらも演技そのものはうまいのですが,やたらと意味もなくトムちんに文句をブー垂れるか絶叫するかなんで,こいつらが画面に登場するとそれだけでうんざりします。離婚してもこんなクソガキ2人に振り回されるトムちんが可哀想になってきます。


 そういえば,すべての車が止まってしまったのに,軍用車と軍用ヘリと戦闘機だけは止まりません。この説明もなかったですよね。

 そしてなにより最大の謎は,世界の大都市がトライポッドで破壊されているのに,「ボストンのおばあちゃんの家」が全く無傷だったことです。


 というわけで,トム・クルーズが出ているならどんな映画でも好き,という人にのみお勧めします。

(2009/10/16)

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