《REC/レック》★★★(2007年,スペイン)


 ハンディカメラで撮影された画像で全編作られたスペイン製ホラー映画。ハンディカメラによる映画と言えば《ブレアウィッチプロジェクト》や《クローバーフィールド》なんて作品があり(私は残念ながら,どちらもまだ見ていないが),この映画は基本的に同じ路線らしい。この作品は傑作と言うほどではないが,ちょっと面白くて目新しくてしかも怖いホラー映画が見たいな,と言う時にはいいかもしれない。なにより,70分ちょっととコンパクトにまとまっているため,暇つぶしくらいにはちょうどいいはずだ。


 主人公は女性テレビレポーターのアンヘラ。彼女は「眠らない街」というシリーズを担当しているらしく,今回は消防隊員がテーマだ。隊員たちの署内での生活を追いかけているうちに緊急通報が入る。あるアパートの住民から「ものすごい悲鳴が聞こえた」と連絡があったのだ。

 アンヘラとカメラマンも同行してそのアパートに入るが,悲鳴の聞こえた2階(?)に行くと,下着姿で血だらけの老女が立っていて,いきなり一人の消防隊員に襲いかかり,首筋に噛みついてきた。何とか老女を振り払い,1階に戻るが噛みつかれた隊員は重傷で出血が止まらない。彼らはアパートの外に出ようとしたが,なぜかアパートのドアは封鎖されて建物を警官隊が囲み,一歩も外に出られない。そして外から「このアパートは封鎖された。安全が確認されるまで外に出すわけにいかない」と告げられ,アパートの住民が持っている携帯電話も繋がらなくなっていた。

 何が起きているのか全くわからないまま,アンヘラはアパート内部で起きていることをレポートし,録画し続けるが,次第に事件の真相が明らかになっていく。噛まれることで感染し,人間を凶暴化させる恐るべき伝染病がそのアパートで発生したための封鎖だったのだ。そして,噛まれたアパートの住民が一人,また一人と凶暴化していき・・・という作品である。


 言うまでもなく,〔感染症+ゾンビ(みたいなの)〕という映画であり,設定自体は珍しくもないし,ちょっと食傷気味である。そういう「よくあるパターン」の映画をいかに面白く,いかに怖く作るかが作り手側の腕の見せ所であるが,この映画では最初から最後までハンディカメラの映像に徹する,という方法論を選んだわけだ。
 何しろこの映画では,最初から最後まで一台のカメラしか使わないと言う徹底ぶり(貧乏ぶり?)である。カメラマンが逃げまどう場面では映像はぶれまくりだし,警官に「撮影するな!」と命令された後は画像は真っ暗で音声だけになったりする。面白いと言えば面白いし,臨場感たっぷりと言えなくもないが,全編がその連続なので次第に飽きてくることも確かである。おまけに画像のブレと揺れがハンパでないため,画像を見ているうちに船酔いのような気分になってくる。これはさすがに見ていて辛いものがある。

 観客の視点もカメラマンの視点と同じになっているため,「明かりをつけたらいきなり目の前に!」なんてシーンや,天井裏に何かいるようだとカメラを回したら,いきなり○○の顔がアップになり,なんてシーンはやはりかなり怖い。部屋の中の全体像が見えないため,通常のホラー映画のような「このカーテンの裏から何かが出てくるのかな?」というような心の準備が全くできないためだ。その意味では,作り手側の「新感覚のホラー映画が作りたい」という狙いはかなり成功したと言えるだろう。


 それにしても,うるさい映画である。主人公のアンヘラは終始,喚いているか叫んでいるか怒鳴っているかである。検疫官が入ってきて奥で何かをしていて,それを窓の隙間からカメラマンが隠し撮りするシーンがあるが,脇でアンヘラはヒステリックに「何が起きているの,どうなっているの,早く教えて!」と喚きたてるが,これじゃ,隠し撮りにも何にもならないよ。少し黙れ,と言いたくなる。

 登場人物はこのアンヘラと二人の消防隊員,警察官一人,そしてアパートの住民である。この住民は研修医(?),中国人家族,発熱した子供を抱えた女性,日本人と結構多彩なのだが,どいつもこいつも何か起こるとギャーギャー騒ぎ立てるだけで,冷静に状況を判断するタイプが一人もいないのだ。要するに,自分の都合だけまくし立てるタイプばかりだ(その典型がアンヘラちゃんだ)。だから,登場人物は多いが行動のパターンは同じであるため,こんな数の登場人物に同じようにスポットを当てる必要はなかったと思う。
 また,登場人物の人間像が全く描かれないため,感情移入したくなる登場人物がまるっきりいないのも難点だ。主人公を含め,こいつだけは最後まで助かってほしい,というのが一人もいないのである。これはホラー映画としては設定ミスだろうな。

 それにしても,このアパートの住人たち,本職の俳優さんなの,と思うほど華のないメンバーだけを集めている。「パニックに遭遇した普通の人間たちの姿を描きたかったから」と説明できるかもしれないが,たぶん本当の理由は,単に人件費を浮かすためじゃないだろうか。


 そして,いくらカメラマンにとってカメラは命の次に大事,とはいえ,あの状況でも撮影し続けるというのは,何が何でも無茶でしょう。どんな危険な状況でもカメラを回し続ける理由というか説明が必要だったのではないだろうか。

 それと,アパートの電灯が展開に都合よく点いたり消えたりするのも気になった。ゾンビさんたちが電気を消したわけでもなさそうなので,ここも何らかの説明を付けるべきだったと思う。

 映画の最後の方で,そのアパートの最上階で何かの実験をしていて,それで生み出されたウイルス(?)がアパート住民の飼い犬に感染し,その犬から・・・という謎解きがちょっとあるが,事件の全体像は全くわからないままに終わるといっていい。
 カメラマンが撮影した画像とアンヘラの言葉だけで映画を作り上げようと言う初期設定が足かせになり,手がかりになる新聞記事のタイトルをアンヘラが読み上げるだけになってしまい,観客がその手がかりを消化できないまま置き去り状態だからだ。やはり,アンヘラが見た映像だけで映画を作るのは面白い試みだが無理があったようだ。

 とはいっても,怖いシーンはかなり本格的に怖いので,ホラー映画好きなら見て損はないと思う。

(2009/11/17)

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