《地球外生命体捕獲》★★ (2006年,アメリカ)


 SF風味のホラー映画なんだけど,なんだかかなり変な作品であり,映画の作り手が一体どういう映画を作りたかったのか,いまいちわかりにくい。エイリアン映画としては設定そのものは斬新だと思うし,登場人物の人物描写は詳しくされているし,登場人物の心理的葛藤もかなり深く描きこまれていて,そういう意味では丁寧に作られた映画である。
 ところが,説明不足のために映画の全体像がつかみにくいし,おまけにグロい描写と残酷描写がこれでもかこれでもかとちりばめられて(?)いるため,どういう映画にしたかったのか,焦点がぼけてしまうのだ。とてもじゃないけど普通の映画ファンには絶対にお勧めできないな,と思ってしまう。


 内容はこんな感じ。

 暗い森の中で3人の男が何かを追っている。大男のデューク,刑務所から出所したばかりのキレやすい男のコディ,そしてオーティスだ。そして「何か」が襲ってくるが,間一髪で「何か」は落とし穴に落ちてしまい,3人はなんとかそれを捕獲できた。鎖でグルグル巻きにした「何か」を3人が向かった先は,仲間のワイアットの自宅だった。恋人のホープと暮らすワイアットの家に持ち込まれたもの,それは息も絶え絶えのエイリアンだった。

 デュークら3人とワイアットにはおぞましい過去の出来事があった。10代の頃,コディの兄のティミーと5人で森で遊んでいてエイリアンに捕まえられたのだ。3人は2日後に返されたが,ワイアットとティミーは釈放されず,様々な実験を彼らの体に対して行われ,苦痛に耐えられなかったティミーは死に,ワイアットは体に発信機を取り付けられて解放された。それ以後,ワイアットは人里離れた家に隠遁生活を送るようになり,いつ,あのエイリアンたちが襲ってくるのかと不安に駆られていた。一方の3人はあのエイリアンに復讐の炎を燃やし,痛めつけて恨みを晴らそうとそればかり考えていた。そしてついに,デュークたちはエイリアンを捕えることができたのだ。

 積年の恨みをはらすため,コディらは動けないようにしたエイリアンの腹部を切り刻み,徹底的に痛めつけ,凄惨な拷問を行う。しかし,彼らは同時に,エイリアンを殺してはいけないことを知っていた。人間がエイリアンを殺したことが知られると,エイリアンが総攻撃をかけてきて,そうなったら人類に勝てる可能性はゼロだからだ。人間が動物を殺すのは構わないが,動物が人間を殺したとき,皆殺しの対象になるのと同じだ。

 エイリアンの扱いをめぐり,ある者は怒りに任せた行動をとろうとし,ある者は冷静に行動しようとし,ある者は困惑してどう行動していいかわからなくなる。その混乱のわずかな隙を突いてエイリアンは逃げ出し,今度は彼らに容赦ない攻撃をしかけてくる。そして,暗闇での惨劇が始まる・・・という映画である。


 要するに,少年時代にエイリアンに拉致されて凌辱された人間が,15年後にエイリアンを拉致して復讐する,という物語なのだが,15年前に何が起きたのか,どういう経験だったのかはほとんど説明されない点が問題だろう。本来なら回想シーンを挿入するなどしてそれを説明するのが定石だが,この映画では登場人物たちのセリフでした説明されないため,15年もの間,復讐の炎を燃やし続けるのはなぜかが観客側に伝わりにくい。同様に,4人がその経験をだれにも話さないまま15年が過ぎた,という理由も納得できる説明はない。これは明らかに制作側のミスだと思う。

 「エイリアンを殺したとエイリアンに知られると報復され,人類は滅亡する。だから,宇宙人を痛めつけても殺してはいけない」という理由付けはなかなか面白いが,そうなると,ラストでワイアットが,家ごとエイリアンを吹き飛ばすのはおかしくないか? 確かに,「カエル型宇宙船」が爆発で吹き飛ばされて逃げて行くんだけど,この程度で逃げ出すんなら,実はたいしたことがないエイリアンじゃないの,という気がしてしまう。


 前述のようにグロ描写はかなり本格的というか,こういうのに弱い人は絶対に見ない方がいいよ,というレベルである。捕まえたエイリアンの腹を切り裂いて腸(?)を引きずり出すわ,人間の腹部から腸をズリズリ引きずり出すわ,半端でないシーンが連続する。なぜ腸を引きずり出すのに執着するかという理由は,見てのお楽しみ。
 とはいえ,解剖学的には腸を引きずり出そうとしても腸間膜付着部が邪魔をして出てこないし,腸間膜付着部を引きちぎったら大出血してすぐに死んじゃうだろうなとか,そういうツッコミはありますけどね。

 エイリアンに噛まれて感染症にかかり,生きたまま腐っていくコディの変化の様子も凄惨そのもので,そこらのゾンビ映画の比ではない変な迫力である。特に,エイリアンに操られてワイアットに殴りかかっていくコディの腕がグチャっと折れる様はちょっとすごいというかかなり痛いシーンである。この映画の監督(《ブレアウィッチ》の監督として有名)は多分,こういうシーンを撮りたくてこの映画を作ったんじゃないだろうか。


 全体としてみると,チープ感たっぷりの低予算映画であり(登場人物は少ないし,暗いシーンが多いし,舞台は森の中かワイアットの自宅の中だけ),展開も荒っぽいし,最後は明らかに考えるのが面倒になって放り投げた感じだ。一風変わったエイリアン映画が見たいんだけど・・・という人以外は近づかない方がよさそうだ。

(2009/12/16)

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