《スーサイド・マーダー》★★ (2008年,アメリカ)


 故人である知人のサスペンス小説の原稿を無断で出版社に渡して出版されたら,なぜかその小説の通りの殺人事件が次々と起こっていく,という火曜サスペンス劇場的なサスペンス映画。設定そのものは面白いんだけど,ジャンケン後出し的な犯人判明はちょっとなぁ。80分と長くない映画のため仕方なかったのかもしれないけど,映画の観客が犯人を推理できるように,もうちょっと伏線を張ってくれないと困るんだけどなぁ。もうちょっと丁寧に作っていたら,もっと面白い映画になったはずなのに,惜しいよね。


 で,とりあえずストーリーはこんな感じ。

 主人公のジュリア・ロンドンは1年前に作品を発表したきりスランプに陥っている女流作家だ。出版社のエージェントからは「原稿料を前払いしているんだからさっさと原稿を書いて!」と矢の催促を受けている。

 彼女は未来の小説家を目指す素人作家の集まりにも参加していたが,その会の参加者アンジェラから「まだ誰にも見せていない私が書いた小説なの。読んで感想を聞かせてくれない?」と原稿を渡される。その小説は「自殺に見せかけて殺人を重ねる男」の物語で恐るべき内容だった。しかし,ジュリアがその原稿を読んでいたその時,アンジェラはガス自殺に見せかけて殺されていた。翌日,アンジェラが自殺したと知らされたジュリアは「この原稿を誰にも見せていない」というアンジェラの言葉を思い出し,自分の作品だとして出版社に渡す。その小説はすぐに出版され,話題になりベストセラーとなる。

 出版社は契約しているサスペンス小説の作家たちのサイン会ツアーを企画し,ジュリアもそれに参加する。会場のルーズベルトホテルでサイン会とパーティーが始まるが,そこに初老の男が紛れ込み,ジュリアに向かって突然,「俺をずっと見張っていただろ! 俺を盗聴していただろ! そうでなければこの小説は書けないはずだ」と騒ぎ出す。そして,その騒ぎが起こっている時に,ミステリー部門の担当者がホテルの浴室で死体で見つかる。それはまさに,ジュリアのミステリー小説の第2章に書かれている死に方と同じだった。

 それでもサイン会ツアーは続けられたが,タクシーから降りたジュリアの目の前で,ビルの屋上から一人の女性が飛び降り絶命する。それは出版社のジュリアの担当編集者であり,ジュリアの小説に書かれていた死に方と同じだった。警察はジュリアが何かを隠しているのではと疑い始めるが,ついにジュリアにも・・・という映画だ。


 ジュリアとアンジェラしか知らないはずのミステリー小説の原稿なのに,その原稿の通りに現実に殺人事件が起きていく,というのはとても面白い設定だ。おまけに,ジュリアが原稿を自宅で読んでいるその時にアンジェラが自殺を装って殺されるのだから,その原稿を事前に読んだ人がいたか,あるいは,アンジェラ以外の人間が書いたとしか考えられない。もちろん,犯人はこいつに決まっている。

 しかし,観客側がその「こいつ」が誰なのかを推理するのはほぼ不可能である。手がかりがほとんどないに等しいからだ。もちろん,犯人が誰かがわかってから,「実はあのシーンでこういうことをしていて」という謎解きはあるのだが,「実はあのシーンで」というシーンが映画の中にはないため,オイオイ,それは反則じゃん,という気がする。確かに「こいつ」は登場シーンは多いから,犯人候補の一人かなとは思っていたけど,もうちょっと何かヒントがあってもよかった気がする。

 一番不自然なのは,この「こいつ」がなぜ,○○の仕事に就いているかということ。アンジェラが自分の書いた原稿を持ち出したとわかったから殺した,というのはいいとしても,その時点ではジュリアが出版社に持ち込むのは予見できないし,ジュリアの小説(=自分の原稿)がベストセラーになることも分からなかったはずだ。となると,どう考えても,ジュリアの小説がベストセラーになってから「あの仕事」に就職したとしか考えられないことになる。通常,出版社が「あの仕事」を任せるとしたら,その仕事に精通している人間のはずだ。相手は気難しい「あの人たち」だからだ。


 それと,アンジェラの「まだ誰にも見せてないの」という言葉をジュリアが無邪気に信じちゃう,というのもなんだかなぁ・・・。映画の冒頭,アンジェラには恋人がいるのはわかっているわけで,恋人に話したり見せたりしている可能性は高いはずだ。ましてアンジェラは小説家志望の会に参加しているのだから,その誰かに大雑把なプロットや構成を話していないとも限らない。だから,普通だったらジュリアは出版社に「死んじゃった友達の遺稿なんだけど」って持ち込むんじゃないだろうか。ま,魔がさした,というやつかもしれないけどね。

 それと,犯人がジュリアを犯人に仕立てて殺そうとする,という最後のシーンにしても,ジュリアが頑として遺書を書くことを拒んだら,犯人はどうするつもりだったんだろうか。ジュリアにすべての殺人の罪をかぶせて殺す,というのは悪くないけど,それはすべて,彼女が自筆の遺書を書くことが前提である。つまり,彼女が遺書を言われたとおりに書くまで,犯人は彼女を殺すわけにもいかないわけで,「私は絶対に遺書なんて書かないわ!」って開き直ったらどうするつもりだったんだろうか。


 さらに言えば,この映画がサスペンス映画として魅力がない最大の原因は,ジュリア役のクリスタルさんに女優としての魅力がないためだろうと思う。別に熟女女優を差別するわけではないが,やはりサスペンス映画のヒロインや若い美女であって欲しいと思うのだ。クリスタルさんじゃ,若さも美しさも魅力も「そこそこレベル」のため,彼女がどんどん追いつめられた状況になっても,見ている方には緊迫感がまるっきり伝わってこないのだ。しかもこの人,やたらとびっくりしたり,不安がっているだけで演技もイマイチなのである。なぜこの人をヒロイン役に据えたのか,それがこの映画最大の謎である。

 というわけで,アイデア倒れ賞を進呈しようと思う。

(2010/01/15)

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