《リボルバー》★★ (2005年,イギリス/フランス)


 主演ジェイソン・ステイサム,脚本リュック・ベッソン,そして監督ガイ・リッチー(マドンナの元旦那様)という顔ぶれで,さらに一癖も二癖もある俳優がゾロゾロ出てくるという豪華な映画なんですが,完全に狙いを外してしまった映画です。ステイサムとベッソンといえば「アクションは派手だけどご都合主義で笑っちゃう」映画ばかり作っていますが、これはアクション映画でもなければ,謎解き系サスペンス映画でもありません。というか、どちらかと言わなくても「なんじゃ,こりゃ」系の珍作・怪作でございます。最後まで気合を入れて見たんですが,何が何だかよくわからないまま,映画が終わっちゃいました。なんでこんな映画を作っちゃったんでしょうか。それがこの映画最大の謎です。


 ストーリーを以下の通りですが、前半はそれなりに分かるのですが,後半は展開をまとめるのが困難になります。

 凄腕のギャンブラー,ジェイク・グリーン(ジェイソン・ステイサム)は暗黒街を仕切っているマカ(レイ・リオッタ)の罠にかかり,7年間監獄生活をする羽目になり,ようやく出所してきたばかりです。マカへの復讐心に燃えるジェイクはマカが仕切る賭場に出現しては次々と大金をせしめていきます。実はジェイクは獄中でチェスの天才と詐欺の天才に会い,彼らから騙しの極意を学んでいたのです。

 しかし,逆上したマカは配下の殺し屋サーターらにジェイク殺害を命じ,ジェイクは窮地に陥りますが,それを謎の二人組高利貸し,ザック(ヴィセント・パストーレ)とアヴィ(アンドレ・ベンジャミン)に救われます。そしてこの二人はジェイクに,「全財産を俺たちに寄越し,命令には絶対服従を誓え。そうすれば守ってやろう」と申し出ます。そして同時に,ジェイクは不治の血液疾患に罹っていることがわかり,余命3日と告げられ,ジェイクはザックらの申し出を受けることにします。

 ザックらはマカ所有する建物をぶち壊して巨大金庫を持ち出すという荒業に出ます。そして、その金庫には大量の麻薬(?)が入っていました。それは,暗黒街の真の支配者,サム・ゴールド(人前に絶対姿を見せたことがない謎の人物)がマカに麻薬取引を命じて渡したものでした。サムに逆らえないザックは,商売敵のジョン卿(中国系の麻薬ディーラー)から麻薬を仕入,急場をしのごうとします。ところがザックらはジョン卿の麻薬まで盗み出してしまったのです。どうやらマカとジョン卿の抗争を狙っているようです。その抗争にジェイクが巻き込まれることになり,ついにマカの魔手はジェイクの兄一家に及び・・・という映画です。


 とにかく,登場人物が濃ゆいです。マカもジョン卿もゴールドの手下の謎の女性もザックもアヴィも,主役級の濃ゆい役割を演じ,どいつもこいつも怪しさ全開です。

 逆に,主役であるはずのステイサムがちょっと霞んでいます。なぜかというと,長髪姿だからです。ステイサムといえば「格好いいハゲ俳優」ですが,見慣れない長髪のために最初はステイサムだと気がつかないくらいです。そしてステイサムも「ハゲでない」という理由からか(?),いつものようなアクションをさせてもらえません。これだったら,ステイサムを主演に据える必要はなかったような気がします。おまけに,「ジェイクは凄腕ギャンブラー」という設定なのに,なぜかそれがわかるシーンはほとんどありません。なぜ,マカがあれほど逆上したのか,全然理由がわかりません。


 映画の最初の方で,ジェイクは「不治の血液疾患で余命3日間」と告げられます。普通なら「マカに狙われて殺されるのが早いか,病気で死ぬのが先か」ですから,何もザックたちの助けを借りる必要はないし,全財産を彼らに渡す必要もありません。兄一家に渡すのが常識じゃないでしょうか。いずれにしても,なぜ「余命3日」の人間が殺し屋を恐れるのか,意味不明です。

 それ以後は,話が細切れで進み,時間軸を無視してエピソードが提示されるため,何が本当に起きているのか,なぜそんな行動をしているのか,観客には全く伝わりません。途中でアニメシーンと実写シーンが重ね合わされる部分があり、試みとしては面白いのですがそれが全然生きていません。というより,なんでこんなシーンを挿入したんでしょうか。意味不明です。


 意味不明といえば,ジェイクがエレベータに乗るのを躊躇するシーンが繰り返されるのも,説明不足ですね。閉所恐怖症? 映画の最初の方で,エレベータを嫌って階段で降りようとするジェイクにザックが「階段でなくエレベータで行け」みたいなメモを渡し,その直後にある事件が起こるんだけど,あれって何? なぜザックにわかったの?

 後半,ジェイクとマカの独白というか自問自答が続くシーンがあるんだけど,これも意味不明。ストーリーとほとんど関係がなく,しかもこの部分だけモタモタしてしまうため,逆効果ですね。こういうシーンをどうしても入れたかったのかも知れないけど,意味ないぞ。

 どうやら,麻薬取引を中心とした暗黒街の支配者たちを同士討ちさせるために,背後で罠を仕掛けているやつがいるらしい,というのは見ていればわかります。となると,黒幕は誰なのか,マカも恐れるサム・ゴールドとは実在するのか,実在しないとすれば皆は何を恐れているのか,という謎解き部分が気になり,それ知りたさに最後まで映画を観たのに,それすら謎のままに終わっちゃうのですよ。もちろん,「真相はなんとなくこうかな?」というのは推察できるのですが,サスペンス映画なのですからこのあたりはきちんと描くべきじゃないでしょうか。

 ストーリーはやたらと穴が多いくせに,音楽はやたらと凝りまくっております。ジェイクが意識を失うシーンではモーツァルトの「レクイエム」の“キリエ”が使われ,その後もフォーレの「レクイエム」の“天国にて”,バッハの「ロ短調ミサ」の“キリエ”などが流れ,最後の「真っ黒エンドロール」で流れるのはサティの「グノシェンヌ」と,意表をつく選曲のクラシック曲が使われています。まぁ,そのシーンにピッタリと言えなくもないんだけど,音楽に凝るより前に,観客にストーリーを伝える努力をすべきだったと思いますね。


 というわけで,訳が分からないサスペンス映画が好きな人にだけオススメとしておきます。それ以外の人はスルーしていいです。

(2010/01/26)

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