《地球が凍りつく日 "THE LAST WINTER"★★ (2006年,アメリカ/アイスランド)


 映画タイトルを見ると地球温暖化じゃなくて地球が寒冷化し,全部凍りついちゃうパニック映画かなと思ってしまいますが,全然違います。地球温暖化でアラスカの永久凍土が溶け,その氷の中に閉じ込められていた「悪霊(みたいなの)」が出てきて,登場人物が次々と死んでいくというホラー風の映画です。

 なんでこんな邦題にしたかというと,キアヌ・リーヴス主演でちょっとだけヒットした《地球が静止する日》の人気にあやかって付けたからなんですね。あやかろうとした相手がしょぼい映画だというのがちょっと情けないです。ちなみに,DVDジャケットのようなシーンは全くありません。この壮大なジャケットをデザインした人,いい仕事をしていますね。

 ちなみに原題は “The Last Winter” ですから、《地球最後の冬》とか《地球に冬が来ない日》というタイトルでよかったんじゃないでしょうか。


 舞台は北極圏のアラスカです。以前そこでは原油採掘調査が行われていましたがその計画は途中で中断していました。そこで別会社がその仕事を引き継いで調査のための基地を作ったわけです。しかし,地球温暖化のために北極圏だというのに最高気温が0℃より高い日が続き,重機を移動するための氷道が作れず作業は遅れ気味。

 この基地の責任者がエド・ポラック(ロン・パールマン)で仕事最優先男です。その基地で働く環境調査員のホフマン(ジェームズ・レグロス)はかつて経験したことのない異常気象に作業の中止を進言しますが,もちろんポラックは聞き入れません。

 そんなある日,油井に向かった一人の作業員が異常な行動をするようになり,夜,全裸でビデオカメラを持って吹雪の中に走りだし,彼は翌日,凍死体で発見されます。そして彼の撮影したビデオには不思議な陰が写っていたのです。そしてその夜から,不気味な事件が相次ぎ,隊員は一人,また一人と怪死します。ようやく到着したセスナ機も異常気象に見舞われて操縦不能となって基地に激突し,炎上します。

 ポラックとホフマンは助けを求めるために近くの基地に向かいますが,到着したその基地は無人でした。一方,基地に残っていた3人にも恐ろしい現象が・・・という映画です。


 見終わった後に何も残らないというか,印象が全般的に薄いのでまとまった感想を書きにくいため,思いついたことを順不同で書いていきます。

 彼らを襲ってきたものの正体について,一人の女性が「‘シヌー’かしら、悪の精霊よ。ウィンディゴとも呼ばれているわ」ってな説明をします。ウィンディゴというのはこの地方の先住民が信じている悪霊で,いつもは永久凍土の中に封じ込められていて,それ何かのおりに外に飛び出して人間に取り憑いて狂わせる,というものだそうです。ただし,この映画の中ではそういう説明は一切ありません。一応ウィンディゴは準主役なんですから,映画の中で説明すべきだったと思います。でないと、見ている方は何がなんだかわかりません。
 そのため,最後の方でカリブーみたいな形をしているウィンディゴがCGで登場するんですが,見ている方としては「何じゃ,こいつは?」という感じなんですね(第一,このころにはウェンディゴという名前も忘れちゃってるし・・・)。しかも,こいつの姿は凄みもなければ恐くもありません。幻なんだか実在しているものなんだか,それすら定かではありません。

 ウィンディゴは全然怖くないのですが,途中に登場する死体の顔が結構怖いです。特に,最初の犠牲者の顔がすごいです。また,セスナ機の炎上事故の犠牲者の丸焦げの顔も妙にリアルです。ここらは気合いを入れて作ったな,という感じですので,ホラー系が苦手な人は目を伏せておいてね。

 この映画は一応,地球温暖化をテーマにしているんですが,映画製作スタッフはそれについて全然真面目に考えていません。単なる一つのネタという感じです。地球温暖化が進むと永久凍土に閉じ込められている悪霊が解き放たれ,それにとり憑かれて人間は狂っていくんだよ,恐ろしいよね温暖化って,というノリで作っただけですね。まぁ,「地球温暖化」自身(?)もこういう形で取り上げられるとは予想もしていなかったでしょうけど。

 ポラックを演じるのロン・パールマン,いい味を出しています。この俳優さん,《ヘルボーイ》の主役を演じていますが,一度見たら絶対に忘れられない独特の風貌をしています。ご存知のように,とにかく顔が長いです。要するに馬面(うまづら)ってやつです。その彼が,傍若無人で誰の意見も聞かない頑固者を演じているのですが,こんなヤツが上司だったら絶対嫌だな,という強烈キャラで圧倒的な存在感でございます。
 最初の犠牲者はともかくとして,途中でホフマンらの意見を入れていたらその後は誰も死なずに済んだはずです。特に,セスナ機の炎上事故のあとに「15キロ離れたところの村を行って助けを呼ぼう」という至極まともな意見に反対して,独断で30キロ離れた基地を目指してスノーモービルを走らせるところなんざ,ムチャクチャでございます。なんでお前は近くに行かないの? ポラック隊長の頭の中がまるっきり理解できません。
 しかもポラック隊長,やたらとうるさいです。「嫌な上司」の要素を寄せ集めるとこういう人物になるはずです。

 そういえば、カラスが重要なアイテムとして登場します。アラスカに本当にこういうカラスがいるかどうかは不明ですが,よほど寒さに強い種類と思われます。人間が凍死するような寒さでも平然として死体を突っついたりしています(凍死体でも食っちゃうというのが凄いです)。カラスは不気味な雰囲気を出すための小道具として見事に使われていますが,なぜカラスなのかは最後まで不明です。最初はウィンディゴが形を変えたものかな,と思っていましたが,どうもそうではなさそうです。

 意味が分からないといえば,ラストシーンでしょうね。女性隊員がなんであそこにいたのか,それは現実なのか幻覚なのか,そして彼女は最後に何を見たのか・・・と,さんざん期待を煽っておいて,いきなり終わっちゃいます。オイオイ,なんでそこで終わる? どうせここまで来たんだから,最後くらい「驚愕の真相」を見せるのが観客に対する礼儀ってものですよ。


 というわけで,何を描きたかったのか,イマイチよく分からないホラー映画でございました・・・というか,B級ホラー映画を作ろうとしたのか,真面目な作品を作ろうとしたけど結果的にB級になっちゃったのか,それがよくわからないんですよね。ま,そういう映画です。

(2010/02/16)

Top Page