《ブラッド・フィースト 血の祝祭日2》(2002年,アメリカ)


 ハーシェル・ゴードン・ルイスという映画監督がいます。1970年頃に《血の祝祭日》というスプラッター映画を公開し、一部でカルト的人気を獲得し、スプラッター映画の始祖と言われていた人です。その彼が30年間の沈黙を破って発表したのがこの《血の祝祭日2》なのです。私は第1作目は見ていませんが、血がドバドバ、内蔵グチャグチャ映像のオンパレードで、良識ある映画ファンは眉をひそめ、ごく一握りの愛好家がその即物的な表現のセンスに喝采を送った、という伝説的怪作のようです。

 というわけで、この30年ぶりの新作なんですが、まぁ、普通の映画ファンにとってはクズ映画の見本みたいな作品で、同人映画レベルの出来なんでよほどのスプラッター好きでなければ見ない方が無難でしょう。一応、第1作目の続編という形を取っているんで、どうしても見たいという人は第1作目から見た方がよろしいかもしれません・・・そういう物好きな人がどれだけいるかは不明ですが・・・。


 映画は第1作目の惨劇(イシュタル神の石像を崇拝していた男が神に捧げるために若い女性を殺しては人肉料理を作った)の舞台になった料理店に若い料理人ファド(実は第1作目の惨劇を起こした男の孫)がやってきて多国籍料理の店を作るところから始まります。しかし、その店の裏で浮浪者2人が奇怪な状態で死んでいるのが発見され、警察官のマイヤーズは30年前の惨劇を起こした男の孫という理由からファドを疑いますが、証拠は見つかりません。

 そのファドの店にある一家が訪れ、娘のティファニーの結婚式の料理をファドに注文します。ちなみに、ティファニーの婚約者は警官のマイヤーズです。料理の準備をしようとファドは店の奥の扉を開けます。するとそこにはあのイシュタール神の石像があり、目が怪しく光ったかと思うとファドは悪霊にとり憑かれたようになり、祖父ちゃん同様、イシュタール神に捧げる人肉内臓料理作りを始めちゃいます。

 そして数日間のうちにティファニーの友人たちが次々と行方不明になって死体が発見されるという事件が起きます。マイヤーズは最初ファドを疑いますが、同僚は「爺さんが殺人鬼だからといってファドを疑うのはおかしい」と相手にしません。そしてマイヤーズとティファニーの結婚式が開かれ、ファドの人肉内臓料理は大評判となり・・・という映画です。


 なーんてストーリーをまとめてみると普通のホラー映画かなと思ってしまいますが、最初の数シーンを見ただけでこれがクズ映画であることはすぐにわかります。

 まずなんといっても、日本語吹き替えがすごいです。マイヤーズ刑事(マネキンみたいな顔をしたハンサムさんです)の吹き替えが大阪弁なんですよ。マネキン顔で「わいが犯人捕まえたる」とか「ほな、さいなら」って言うんですぜ。このギャップと違和感がたまりません。この映画を借りてみようと言う酔狂な人はほとんどいないと思いますが、レンタルした人がいたら絶対に一度は日本語吹き替えを聞いてみてください。これだけで悶絶するはずです。

 全編通じて漂うチープ感がとてもいい味を出しています。何よりイシュタール神の石像がすごく安っぽく、どこから見ても安物のハリボテです。しかもそのハリボテ神様の目が光るんですよ。どう見ても豆電球を光らせているとしか思えません。

 登場する女の子は普通に可愛いですが、ティファニーちゃん以外の全員が殺されます。しかも、殺される前に意味もなくオッパイを披露してくれます。このチープさがナイスです。おまけに、この女の子たちが「下着パーティー」をしてくれるのですよ。「みんな、パーティーなんだから思いっきりセクシーな下着を着てきてね」ってなことでパーティーが始まるんですが、なんで下着でパーティーするのかはルイス監督に聞いてください。いずれにしても、余りに即物的なエロシーンのため、エロさは皆無です。

 このように、すべてがチープでいい加減な映画なんですが、スプラッターシーンだけは気合いを入れて撮影しています。生きたまま腕をミンチにするわ、お腹を裂いて内臓を取り出すわ、目玉は抉るは、肝臓を取り出すわ、頭と顔の皮膚をはぎ取るわ、はぎ取った後の頭蓋骨を電動鋸で切るわ、脳味噌に手を突っ込むわ、やりたい放題です。子供が捕まえたトンボの羽をむしったり、花びらや葉っぱをむしりとるのと同じ感じですね。私は「目玉はスプーンで抉りとれないぞ」とかツッコミを入れながら笑って見ていたんですが、普通の映画ファンにとっては「正視に耐えない」感じかもしれません。ルイス監督って、こういうシーンが撮影したくてしたくて30年間、ウズウズしていたんでしょうね。

 映画の中で「男の死体があるんだけど誰も気がつかない、気にしていない」、というのが数シーンあります(例:ティファニーちゃんの結婚式パーティーのシーンで床に男が倒れている)。どう見ても不自然なんですが、監督によると「この映画がいかにくだらない作品かを象徴するシーンとして挿入した」のだそうです。どうやら、確信犯らしいです。


 こんな映画、誰が見るんだよ、というレベルの映画なんですが、スプラッター映画を極めたいという人なら見るべき作品かもしれません。でも、それ以外の人は絶対に見ちゃダメだよ。時間と金をドブに捨てるような映画ですから・・・。

(2010/03/25)

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