《シャッフル》★★(2007年,アメリカ)


 途中までは「おっ,結構面白そう」という感じでしたが,映画のメインテーマが明らかになるにつれ,「この程度のことをいうためにここまで凝った構成にしちゃったの? つまんねぇ!」と白けてしまいました。何というか,全体に薄っぺら感が漂っているんですね。主演のサンドラ・ブロックの熱演がむしろ気の毒に感じられるくらいです。

 メインテーマは要するに,危機にあった夫婦が愛を取り戻すという陳腐なやつです。それならそれで別に構わないのですが,問題は,そういうテーマを描く手段としてタイムスリップ(?)を持ち込むか,という点にあります。
 タイムスリップという大技を持ち出すんだったら,戦争とか革命とかケネディ暗殺の謎解きとか,そういうレベルのものを扱って欲しいのに,この映画で扱われるのは夫婦の間の感情のすれ違いとその修復だけなんですよ。
 おまけに主人公は予めわかっている運命(?)に従って行動しているだけで,運命に抗うわけでもなければ,自分でどうにかしようというわけでもないんですよ。タイムスリップという大技を全然生かそうとしません。

 しかも,「時間軸バラバラ型ストーリー提示映画」であるなら,全ての出来事の整合性に一番気を配らなければいけないはずなのに,いろんなところに矛盾点があるし,説明不足な部分が多すぎるのです。ここは絶対にミスしちゃだめだよ,という部分に限ってミスしています。


 ストーリーはこんな感じ。

 愛する夫ジムと二人の娘とともに郊外の一軒家で幸せに暮らしているリンダ(サンドラ・ブロック)が主人公。そんな彼女の家に保安官がやってきて,出張中の夫が交通事故で亡くなったという知らせます。いきなりの出来事に事態を受け入れられないリンダでしたが,母親の手助けもあり,何とか平静を保ちます。

 そして翌朝,目覚めたリンダはキッチンに夫が立っている様子を目にします。そして彼女が朝目覚めるたびに,夫は死んでいたり生きていたりして,やがて彼女はある出来事を知らされ・・・という感じです。


 なぜ,夫のジムが死んだり生き返ったりするのかというと,日曜から土曜日までの7日間が,リンダにバラバラに訪れるからです。最初は木曜日(=夫は死んでいる),次が4日前の月曜日(=夫は生きている),その次が6日後の土曜日(=夫は死んでいる)・・・という感じなんですね。そして,リンダ以外の登場人物には普通に時間が流れていて,彼女だけがタイムスリップ(?)していくわけです。

 映画としては,こういう設定はありだと思います。しかしそれなら,適当でも口からでまかせでもいいから,「なぜ」を説明してくれないと困るんですよ。最低限,なぜリンダにだけそういう現象が起きたのかは説明すべきだと思うのですが,この映画では全くしていません。


 また,娘がガラス戸に突っ込んで顔に多発裂挫創を受傷するという事件があるんですが(このサイトをみている人からは,「こんなキズ,デュオアクティブを貼っておけば数日で治るじゃん。貼ってやれよ」とツッコミが入ると思いますが),それがまたお粗末至極で笑っちゃいます。この「娘の怪我」事件が起きるのは映画では4日目にあたる火曜日です。土曜日の時点でも傷は治っていませんから,映画冒頭の木曜日ならまだ傷が残っていなければいけないのに,なぜか,木曜日の娘には傷跡一つありません。これは,この映画を見た人は全員気がつくミスです。

 しかも,冒頭の木曜日,リンダはそのガラス戸に「衝突防止用のシール」を張っているじゃないですか。火曜日にケガをしてなぜ木曜日にシールを貼っているのか意味不明です。

 というか,このガラス,いつ入れたのでしょうか。娘がガラスを突き破るのが火曜日で,木曜日にはガラスが入っていますから,水曜日に入れたとしか思えませんが,水曜日は旦那が交通事故で死ぬ日で,しかも彼女はその近くまで行っていて,事故を目の前で見ているのです。じゃぁ,ガラスをいつ入れたんだよ?

 というか,この事故を見て,彼女は警察に連絡しなかったのでしょうか。そして,なぜ保安官は一日置いて木曜日に彼女に夫の死を告げたんでしょうか。このあたりは考えてもしょうがないところなんでしょうが,あまりに不合理すぎます。


 それと,夫の事故死の原因って結局は,リンダからの電話なんですよね。あそこで無理やりUターンさせなければ事故は起きなかったような気がしてなりません。というか,おまえが交通事故の原因かよ!

 あと,土曜日にリンダは精神科医によって精神異常として病院に連れて行かれるんですが,その後どうなったんでしょうか。このあたりはきちんと説明してくれないと困るんですよね。そういう説明なしにいきなり「リンダ妊娠」と言われてもなぁ・・・。これが神父さんのいう「奇跡」なの?

 それと,神父さんに相談するシーンも何が言いたいのかよくわかりません。神父さんは17世紀に起きた未来を予知した女性の出来事を例に出し,「信仰のない人間は中身が空っぽだから,奇妙な出来事に巻き込まれるんだよ」という感じでリンダに説明するんだけど,この映画に信仰を持ち込むのはおかしいというか,無理矢理すぎませんか? というか,なぜここで宗教が登場するの?


 それにしても,リンダ奥さん,毎日寝坊ばかりです。もちろん,寝て起きたら別の曜日という設定のためには必ず寝なければいけないんだけど,既に3日目あたりで異変に気がついているんだから,徹夜して眠らないようにするとかいくらでも工夫できたはずですよね。それなのに,なぜ君は寝込んじゃうの?

 それにしてもリンダさん,未来に起こる出来事がわかっているのに,それをどうにかしようという行動を一切していないのはなぜ? あの破いた電話帳のページにしても,精神科医のロス先生のオフィスを訪れるシーンにしても,事前にわかっている通り,予定通りに行動するんでしょうか。こういうタイプの映画の登場人物なら,運命に逆らうような行動するのが務めってもんでしょうが。普通なら,運命に抗うように行動し,しかしそれでも運命は変えられなかった・・・というようなストーリーにするはずなんだけど,そういう工夫をする余裕もなかったみたいです。というか,未来を知っているならなぜその知識を活用しない?


 要するに,タイムスリップ映画にするならタイムスリップにつきもののパラドックスを極力回避する努力が必要なのにそういう努力は一切していないし,夫婦愛の物語とするには内容があまりに薄っぺらで陳腐です。こういう凝った構成にするならストーリーとエピソードの整合性には細心の注意が必要なのに,そういう努力もしていません。

 というわけで,全てにおいて中途半端な感じの映画でした。

(2010/04/09)

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