《ヴァンパイア・ハンター "THE FORSAKEN"》★★(2001年,アメリカ)


 絵に描いたような箸にも棒にもかからないヴァンパイア映画です。見所もないけど,低予算映画の割にはちょっと頑張っている方かな,程度の作品です。見ても得した気分にはならないけど,見なくても損した気分にもならない,という感じですね。

 まぁ,新鮮味のあるヴァンパイア映画を低予算で作れという方が無理なんでしょうが,もうちょっと捻りがあってもよかったんじゃないでしょうか。


 ハリウッドの小さな映画会社に勤める青年ショーン(カー・スミス)は,親代わりに自分を育ててくれた姉の結婚式に出席するため,1週間の休みを取り,マイアミまでの足代を稼ぐためにベンツの高級車をマイアミまで届けるというバイトを引き受けた。車を運転しながら客にベンツを届ければ,運び賃がもらえ,しかも片道の運賃を出さずに済む。「絶対にヒッチハイクなんかを乗せるんじゃないぞ。絶対に車を汚すんじゃないぞ」と命令され,彼はマイアミへの道を運転するが,途中でタイヤがパンクし動けなくなる。何とか修理工場までたどり着くが,タイヤが届くのは翌日であり,おまけに車の中においたはずの財布も見あたらない。

 翌日,修理の終わった車に乗ってショーンは出発しようとするが,ニック(ブレンダン・フェア)という青年に声をかけられ,ヒューストンまで乗せていってほしいと乞われる。最初渋っていたショーンだが,ヒューストンまでのガソリン代を出してくれるというニックの申し出に負け(何しろショーンは財布をなくしている),彼を同乗させることにする。

 二人は途中の町の酒場に立ち寄るが,ヤクでもやっているかのようにふらついて呂律の回らない若い女性ミーガン(イザベラ・マイコ)を助ける羽目となり,彼女を伴ってモーテルに入るが,彼女の状態はさらに重症化する。するとニックはショーンに「車の中のバッグを持ってこい」とただならぬ調子で命令する。バッグを持って戻ったショーンはニックがミーガンを裸にしているところに出くわす。しかし,ミーガンの腹部にはヴァンパイアに噛まれた傷があり,ショーンも暴れるミーガンを押さえる途中,彼女に噛まれてしまった・・・という映画である。


 ヴァンパイアについては映画の中でニックが丁寧に説明してくれます。どうやらウイルスで感染してヴァンパイアになるそうです。起源は12世紀のトルコへの十字軍遠征までさかのぼり,200人のうち9人しか生き残らない戦闘があり,その生き残りに「悪魔」がやってきて「永遠の命をやろう」と持ちかけ,8人がその提案に乗って命が助かったが彼らはヴァンパイアとなり,人の生き血を飲み太陽光を恐れるようになったんだとか。

 その後,彼らは世界中に散らばります。彼らに噛まれた人間は1週間かかって完全なヴァンパイアに変貌します。そして20世紀に入り,一人の医者がヴァンパイア・ウイルスに感染しますが,彼は「発病を遅らせる薬」を開発します(このあたりはHIVに似てますね)。しかし,根本的な解決法(=噛まれた人間がヴァンパイアにならずに済む方法)は,自分を噛んだヴァンパイアを「聖なる場所」で殺して首をはねるしかないのです。

 これがこの映画のヴァンパイアについての説明です。

 ニックはヴァンパイアのキット(ジョナサン・シェック)に噛まれ,予防薬を飲みながらキットを探し回っていたというわけだったのです。もちろん,ミーガンも噛まれて感染していたわけです。ヴァンパイアは自分が噛んだ相手をテレパシーで感知できるため,ミーガンを囮にしてキットをおびき寄せようとニックは考えていたのですよ。なるほどなぁ。


 という具合に,ヴァンパイアについてはかなり緻密に説明していますが,あまりにも明確に説明しすぎてしまったため,かえって不自然さが目立ってしまったようです。たとえば,12世紀に発生した8人の「ヴァンパイアの始祖」は現代まで数人が生き残っていて,そのうち2人がアメリカにいるらしいのですよ。どうやらヴァンパイアさんたちは血を吸った相手を殺してヴァンパイアが増え過ぎないようにしているらしいのですが,なぜそこまで用心深く活動しているのか,理由が不明です。普通なら,どんどん人間を噛んで仲間を増やしますよね。

 しかも,ミーガンの場合のように血は吸ったが殺すのを忘れてしまうと,途中で絶対に病院にかつぎ込まれ,ウイルスが見つかっちゃいます。おまけに,噛まれた医者が「発病を遅らせる薬」を開発したのは数十年前で,その薬をニックが入手している以上,薬は市販されているか,少なくとも成分が公開されていると考えるしかありません。となると早晩,ヴァンパイア・ウイルスの存在が明らかになり,「そんな危ないのがアメリカ国内をうろついているんなら,見つけだして捕まえてしまえ! こいつらはアメリカの平和に対するテロリストと同じだ」となるはずです。
 このあたりの不自然さについては,見た人なら誰も感じるはずです。


 ヴァンパイアさんたちは伝統に従って太陽光に弱く,日光を浴びると燃えて爆発しちゃいます。当然,活動できるのは夜だけとなり,広い範囲を逃げ回りつつ人血を吸うことは不可能になります。そこでこの映画では,人間の従者がいて,日中は車のトランクに隠れて従者が運転して移動する,という設定にしています。

 こういう「人間側の協力者がいる」というのはヴァンパイア映画ではたまに見る設定ですが,なぜその人が従者になったのか,従者になっているメリットは何なのかが説明されてません。ヴァンパイアに従っていると大金持ちになれるようでもないし,せいぜい,ヴァンパイアが襲った家の金品を盗むくらいしか経済的メリットはありません。しかも,いくらヴァンパイアといっても日光に当たった瞬間に爆発炎上しちゃうんですから,車のトランクの蓋を不意に開けたらヴァンパイアさんたちはイチコロです。となると,なぜヴァンパイアの従者になっているのかの理由がわかりません。


 映画のヒロイン役はたぶんミーガン(イザベラ・マイコ)ですが,全然役に立ちません。最初から最後までヘロヘロしているだけで足手まといになっているだけです。ちなみに,映画の冒頭で意味のないオッパイシーンがあったり,途中のモーテルでニックにブラもパンティーも脱がされて全裸になるシーン(もちろんエッチ目的じゃなくて,ヴァンパイアの噛み傷を探すためでございます)がありますので,はっきり言うと「オッパイ要員」でしかありません。

 最後の方でショーンたちを助けて自宅に招き入れる初老のばあちゃんが気の毒です。彼らを入れたために外からは銃弾が雨あられと撃ち込まれるわ,車がつっこんできて家をメチャクチャにされるわ,最後ではガスが漏れて家が爆発炎上してしまいます。このばあちゃん,その後どうなったのかが気になると夜も眠れません。

 さらに気の毒なのがベンツの持ち主です。あの高そうなベンツがガス爆発で吹っ飛んじゃうのですから,すごい損害です。こういうのって,保険がおりるんでしょうか。気になってしょうがありません。

 映画の最後の方で,ショーンは無事に姉の結婚式に出席できたようですから君はそれでいいのかもしれないけど,ばあちゃんとベンツの持ち主と修理工場のオーナーにはきちんと謝っておいた方がいいぞ。


 とまぁ,こんなヴァンパイア映画でございました。余程のヴァンパイア・マニア以外は見なくてよろしいかと・・・。

(2010/04/13)

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