《ヒーロー・ウォンテッド》★★★(2008年,アメリカ)


 面白くない訳じゃないんだけど,すごく微妙というか,主人公の行動に最後まで納得がいかないと言う感じなんですね。「たったこれだけの目的のために,銀行強盗を計画しちゃうのっておかしくない? 素直に一言しゃべればいいのに,なぜにここまで大事にしちゃうんだろう?」という疑問しか感じないんですよ。要するにこの映画は,主人公の独りよがりで行動して皆が巻き込まれ,おまけに皆を不幸にしていくだけの映画なんですよ。

 それと,前半の少女を命がけで救うという話と,後半の銀行強盗がらみの事件の話がどうもうまく繋がっていないような気がするんですよ。何だか別々のお話を無理矢理一つにまとめたような気がしてならないんですね。つまり,これは人情話のいい映画なのか,悪い話の映画なのかがよくわからないまま,映画のストーリーだけがどんどん進んじゃう感じなんですね。映画の作り手の頭の中では,この二つの話がシームレスで繋がっているらしいんだけど,見ている方には「無関係の二つの話」にしか思えないんですね。

 多分,自分が助けた少女に今度は自分が助けられる,というストーリーにするか,あるいは,少女を助けるエピソードをなしにして,軽い気持ちで仲間に持ちかけた悪ふざけがちょっとした手違いから大きな事件になった,というシナリオにした方がいい映画になったような気がします。


 ゴミ収集作業員のリーアム(キューバ・グッディング Jr)は妊娠中の妻とのドライブの途中に交通事故に遭い,目の前で妻と子供を死なせてしまったという過去を持ち,常に罪の意識に苛まれていました。その彼の目の前で突然,交通事故が起き,一台の車が炎に包まれ,一人の少女マーリー(サマンサ・ハンラティ)が閉じこめられるという事件が起こります。リーアムは命の危険を省みずに車から少女を助け出し,自身は大ヤケドを負いますが,彼は一躍町のヒーローになります。

 そんなある日,リーアムはある銀行に立ち寄りますが,いきなり銀行強盗事件に巻き込まれます。犯人たちは銃を構え,一人の女性窓口係に近寄ります。実は,リーアムはその女性ケーラ(クリスタ・キャンベル)は心を寄せていました。そして犯人の一人がケーラの頭を銃で撃ち,それを助けようとしたリーアムも撃たれてしまいます。そしてケーラは一命を取り留めたものの昏睡状態に陥ってしまいます。実はその銀行強盗はリーアムの顔見知りでした。そしてリーアムは彼らに復讐を企てますが,少女マーリーも彼らに捕らわれてしまい・・・という映画です。


 このようにストーリーを要約すると分かりやすい映画かと思ってしまいますが,映画はすごくわかりにくいです。時間軸をバラバラにいろいろなエピソードを脈絡なく提示していくからです。もちろん,こういう作り方の映画は珍しくありませんし,作り方さえよければ非常に効果的な手法なのですが,この映画は失敗作ですね。

 その原因は,バラバラのエピソードの提示の順番が悪すぎるためです。うまい作り手だと観客に各エピソードの間の関連性を推理していく手がかりを映像や台詞の中にそれとなく示し,全体像がわかりかけていって最後に感動の結末を迎える,という作り方をするんですが,この映画の作り手は単にぶつ切りにエピソードを示しただけに終わっています。


 それと,リーアムがケーラに自分の思いを告げられずに思い悩むのはいいとしても,その解決策として銀行強盗計画を親友に持ちかけるのか,という疑問が最後まで残るんですね。いくら友達でも,一歩間違うと本物の銀行強盗として通報され,駆けつけた警官隊が銀行を囲み・・・となってしまう危険性は高く,逮捕されてから「実はこれは友達のためのお芝居で」と言い訳してももう遅いのです。そんな危ない橋を渡るくらいなら,帰宅途中のケーラにチンピラに扮した親友が因縁を付け,困っている彼女をリーアムが助ける,なんてお芝居で十分なはずです。

 それと,リーアムが少女を助けてヒーローになったのは事実としても,なぜその後「ケーラに告白するためにヒーローを演じなければいけない」と考えたのかが,さっぱりわかりません。要するに,最初のヒーローと次のヒーローの間の関連性が全く感じ取れません。この部分はこの映画の核心部でなければいけないはずで,ここに説得力がないと映画全体が駄目になったと言えます。


 個々の役者さんでは,リーアムの父の戦友であり,父親代わりであるコスモ・ジャクソン(ベン・クロス)が最高に格好いいです。最後の銃撃戦のシーンではリーアムを援護するのですが,相手側を撃ち殺すのではなく命に別状はないが戦闘能力を失わせるポイントに的確に一発ずつ弾を撃ち込んでいきます。どんだけ凄いんだ,この爺さんは!
 いずれにしても,この銃撃シーンは最高にクールでした。


 映像的によく工夫しているシーンも少なくないし,銃撃戦のシーンは素晴らしかったですが,ストーリー作りとその提示の仕方が画像センスに追いついていない気がします。

 というわけで,ちょっと残念な作品でした。

(2010/05/01)

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