《サバイバル・オブ・ザ・デッド NIKOS THE IMPLER》(2003年,ドイツ)


 アンドレアス・シュナース監督というドイツ人の名前を聞いて,ああ,あの人ね,とわかった人はよほどのホラー映画好き,しかもB級以下のスプラッター系ホラー映画好きでしょう。この人,これまでも幾つか作品を世に出していますが,そのどれもが「箸にも棒にも引っかからない」級の駄作ぞろいという,マイナスパワー全開の映画監督なんですよ。私も確か一つくらいは見たことがあるはずなんですが,全然記憶に残っていません。というか,この作品も見た途端に内容を忘れちゃうような内容ですけどね。
 その彼の作品の中では,この《サバイバル・・・》はまだ多少でもマシ,という評価されていますが,普通の感覚で言えば「ゲロとウンコ,どっちも嫌だけど,無理に選べと言われたらウンコの方?」みたいな選択ですから,あてにしない方がいいです。


 まず,舞台は西暦1002年のルーマニア。300人を殺し,国王まで殺した罪でニコスという男が処刑されますが,ニコスは最後まで「俺は死なないぞ! 俺は甦ってお前たちの子孫を殺しまくってやる!」なんてほざいております。

 で,舞台はいきなり現代のニューヨーク。中世美術だったか中世ヨーロッパの教授がニコスの授業をしていて,学生たちに「週末のルーマニア恐怖美術展を手伝ってくれたら50点上げよう」なんて言っています。そして舞台は展覧会場。点数欲しさにやってきたアホ学生2名,美術が好きでお勉強も好きなメガネっ子女子学生などが集まります。

 そこで何故か殺人事件が起こり,負傷した犯人の血液が「ニコスの鉄仮面」に染み込み,ニコスが地獄から蘇ってしまいます。そして,美術館の中の客を大剣で斬って斬って斬りまくり,美術館の外に出てさらに大暴れするのでありました・・・ってな映画でございます。


 映画の冒頭,洞窟の原始人が出てきます。「片方の肩を出した毛皮姿」なんで,どう見ても新石器時代人にしか見えません。しかしこれが,1002年のルーマニアなんですよ。ドイツ人(シュナース監督)がルーマニア人をバカにしまくっています。この,開始2分でこの映画が「箸にも棒にもかからない愚作」であることがわかってしまいます。

 なんといっても,登場人物の演技がすごく下手というか,学芸会レベルです。おまけに,日本語吹き替えが異様に下手,日本語訳もムチャクチャ変です。時々,会話が成立していません。この程度で商品にする根性が素敵です。


 大学教授,中世ルーマニアの歴史についていろいろ教えてくれます。いわく,

 このあたりの情報が全て正しければ,「クズ映画だったけど,歴史の勉強ができたからいいや」となりますが,情報は殆ど間違っています。ヴァイクは確かに西暦1002年頃にいた実在の人物だけどマジャール人であってルーマニアとは無関係。ちなみに,後にハンガリー王イシュトバーン1世になったのは史実です。一方のご存知ヴラドは15世紀半ばにトルコと戦い,殺した敵兵の死体を串刺しにして野ざらしにしたことで有名な実在の人物で,もちろん,ドラキュラ伝説の元になった御仁ですが,少なくともあの「洞窟のヴラドの曾孫」が15世紀に登場するのは絶対に無理ですね。


 ちなみに,現代ニューヨークに甦ったニコスを演じるのはシュナース監督ご本人です。そんなにこの役をやりたかったんでしょう。要するに,剣を振り回すだけの演技しかしてませんが,演技以前のレベルなんで見て見ぬふりをしてあげましょう。

 美術館で大暴れした後のニコスは街に繰り出しますが,DVDショップの転倒に並んでいるDVDに手をかざすと,何故かヒトラーや忍者が蘇ってきます。なぜヒトラーと忍者? 理由はシュナースさんにお聞き下さい。

 ヒトラーさん,確かにヒトラーっぽい顔をしていますが,メタボがかなり入っていて普通のデブです。お墓の中でよほど美味しいものをお食べになったものと思われます。一方の忍者はどうみても「忍者タートルズ」にしか見えません。ドイツ人の考える「忍者」ってこうなんでしょうか。


 スプラッター映画なんで内臓はドバドバ,血はビュービュー,首はちょん切れるし,人体2枚おろしはするし,もうやりたい放題です。しかし,あまりに類型的な表現と造形のため,怖さもなければお笑いにもなってません。B級ホラーといえばお約束の「シャワーシーン」もあり,カメラがオッパイやら下半身を舐めるように撮影していますが,肝心の女優さんが普通すぎるため(超美人でもなければ巨乳でもない),見せてくれなくてもよかったです。

 そういえば,《ザ・デッド》というタイトルを付けていますが,ゾンビさんはワンシーンにちょっと登場するだけで,すぐに倒されるザコキャラです。なんでこんな邦題をつけちゃったんでしょうか。


 というわけで,21世紀に作られたことが信じられない映画です。映像のセンスもメイクも1950年代に近いです。そういうノスタルジーに浸りたいという人,ホラー映画ならなんでもいいや,という人だけ見て下さい。

(2010/05/04)

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