《サイコ・シスター 呪われた修道女》★★★(2006年,スペイン)


 スペイン製の亡霊系佳作ホラー映画。緻密に組み立てられたストーリー,最後の最後に明かされる驚愕の真相,妖しくも美しい映像と,最後まで楽しめた。何より,作品として完結していて,あらゆる伏線や謎にきちんと決着をつけている点がいいし,画像の怖さやおどろおどろしさに頼っていない点にも好感が持てる。ちなみに,以前紹介した傑作スペイン製ホラー映画『機械仕掛けの小児病棟』の監督,ジャウマ・バラゲロが脚本を手がけている。


 映画はまず,20年ほど前(?)のスペインの修道院の場面で始まる。ここで6人の女子生徒(年齢は10代後半かな?)はシスター・ウルスラに指導されているが,厳しい体罰で生徒たちを正しい道に導くことが教育だと信じているシスターを,彼女たちは煙たがっている。

 そして舞台は現代のアメリカへ。女子高生のイヴはパーティーが終わって自宅に戻るが,シスターのような格好をした何かが窓から飛び出しているところに出くわす。そして浴室では母親のマリアが首を切られて死んでいた。母親はバスタブから飛び出してきた亡霊に殺されたのだが,もちろん,刑事はイヴの目撃したものを幻覚だろうと相手にしない。

 母親の葬儀の日,母の知人と名乗る女性が近づいてきて,話したいことがあるので夜に連絡してほしいと告げる。彼女が泊まっているホテルにイヴが出向くが,その時すでに女性はシスター姿の亡霊に教われ,無惨な死体で見つかる。

 母親の遺品を整理するイヴは,その女性と母親がスペインの修道院の同級生だったことを知り,親友とその彼氏とともにスペインに向かい,修道院のあった町に到着する。イヴは図書館で修道院の記事を探すが,ここで英語の話せる神学を学ぶ青年と出会い,修道院は1988年に閉鎖され,その直前,シスター・ウルスラが失踪するという事件が起きていたことを知る。

 そして4人は修道院で起きた事件を探りに,今は廃墟となった建物にはいるが,母親と同級生だったスーザンとゾーイとその建物で出会う。彼女たちは同級生たちの奇怪な死に怯え,何かを隠していた。イヴたちはシスターの亡霊と対決することを決めるが,次第に過去の忌まわしい事件の真相が明らかになり・・・という映画である。


 この作品の「陰の主役」は水だ。タイトルの部分から既に「水の中のシスター」が映し出され,母親のマリアが殺されるシーンでは,床を這うように水が忍び寄り,足に絡みつくように上ってきて,同時にバスタブから水滴がスローモーションのように上がったかと思うとそれは奔流になり,シスターの亡霊が飛び出してくる。見事なCGである。同様に,水中を泳ぐように宙を漂うシスターの姿も不気味でありながら美しい。

 この手の映画では犠牲者の様子は映しても犯人(この映画では亡霊)の姿はなかなか見せないのが常套手段だが,この作品では冒頭から亡霊をがどんどん出てきて,出し惜しみしない。普通なら,犠牲者の数が増えるたびに同じような「水のシーン」が繰り返されるために飽きてくるのだが,一人一人,殺され方が違っているし(理由は映画を見ればわかる),何より映像の作り方も十分工夫しているため,単調な感じがない。このあたりは凡庸なホラー映画とは一線を画している。


 殺人事件を起こす犯人が誰かは,映画のタイトル画面で既に明らかにされている。水に沈んだシスター以外にはあり得ない。次の修道院のシーンで狂信的なまでの厳格さを生徒に求めるシスターの様子を見ていると,こいつが生徒に殺されたんだろうな,というのもこの時点で察しがつく。そして案の定,最初の犠牲者のマリアはシスターの亡霊に殺されるわけだ。その意味で,最初の10分で事件の真相はわかっているわけだ。ここまで明らかにして,残りの80分間,どうやって持たせるんだろうと見ている方が心配になるくらいだ。

 ところがその心配は杞憂に終わる。大きな「なぜ」が常に残されていて,それが徐々に解明されていくからだ。なぜ,20年近く前の事件でいままで何ともなかったのに,いきなりシスターの亡霊が甦って復讐するのか,なぜマリアはイヴが3歳の時に自殺未遂を起こしたのか,なぜイヴにはそれ以降の記憶がないのか・・・といった謎は徐々に明かされ,最後に驚愕の全体像がわかるのだ。このあたりの構成は見事だと思う。

 また,亡霊が恨みのある人間だけをターゲットにし,それ以外の登場人物には手を出さないというのも納得がいくものだし,最後の方で重要なアイテムとなる「水中銃」も,なぜ彼のバッグに入っていたのかもしっかりと説明されていて気持ちがいい。

 画像の美しさは前述の通りであるが,中でもラストの○○の死体が水中に漂うシーンはとても美しく原則的で,物悲しさの漂う結末にぴったりだった。


 ただ,細かいところまで見ると,さすがに完璧というわけにはいかなかったようだ。例えば,イヴの友人の彼氏は映画の前半,終始ハンディカメラを回している。たぶんこれが事件解決の小道具になるのかなと思ってみていたが,途中からハンディカメラはどこかに行ってしまったようだ。これなら,前半でうるさいほどハンディカメラ撮影のシーンを入れなくても良かったような気がする。

 それと問題は言語の問題。スペイン映画だが会話はほとんど英語なのである。もちろん,イヴもその友達も彼氏もアメリカ人だし,神学を学ぶ青年も英語が話せるという設定だし,スーザンもゾーイもアメリカ人だから,会話はすべて英語でもいいのだが,それなら最初からアメリカだけを舞台にしてよかった気がする。少なくともスペインの修道院を舞台にするのであれば,「スペインの少女6人が修道院に・・・」であって良かったんじゃないだろうか。何も「アメリカの6人の少女がスペインに渡って修道院で生活する」という面倒くさい設定にする必然生はなかったような気がする。

 この映画でもっとも残念なのは,いかにもB級ホラーですよ,という感じがプンプン漂う安っぽい邦題をつけたことだ。もうちょっとしっかりしたタイトルを付けてあげればいいのにと思う。


 もちろん,スペインのホラー映画なので,スプラッターシーンはかなりグロいし,ホラー映画に弱い人にはちょっと,というシーンも少なくない。でも,そういうシーンが多少あっても大丈夫という人には自信を持ってオススメしたい佳作だ。

(2010/05/11)

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