《その男は,静かな隣人》★★★(2007年,アメリカ)


 クリスチャン・スレーターって俳優さん,覚えてますか? 1969年生まれの今年41歳ですが,紅顔の美少年俳優として一世を風靡していました。17歳で出演した《薔薇の名前》で注目され代表作は《トゥルー・ロマンス》で《インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア》にもちょっと登場していました。ちなみにマンガ『花より男子』の某男子のモデルとしても有名なんだそうです。

  

 そのスレーターさんの頭部がなにやら危ない,と数年前から映画ファンの間で囁かれていましたが,この2007年の映画を見ると愕然とします。地球温暖化の影響か,アフリカにおける砂漠拡大の影響なのか定かではありませんが,30代にして見るも無惨な中年ハゲおっさんに変貌しています。途中で彼が髪の毛をかきむしるシーンがあるんですが,「残り少ない髪をそんなにかきむしる演技しなくていいよ」って言いたくなります。
 かつて中山美穂を夢中にさせたという美貌はどこかへ行ってしまったようです。やはり,ドラッグとかお酒とかが悪かったんでしょうか。


 映画のストーリーはこんな感じ。

 中年会社員のボブ(クリスチャン・スレーター)は駄目社員の典型で,年下の上司に無能呼ばわりされてこき使われる毎日で,与えられる仕事と言えばつまらないデータチェックだけという始末。家に帰っても話す相手は金魚だけで,5年もそこに暮らしているのに隣の住人には「引っ越して来られたのね」と言われるほど存在感がありません。そんな彼は会社の机の中に拳銃を隠し持っていて,弾を込めながら「一発目はおべっか野郎,二発目は嫌な上司,三発目は・・・」と夢想していました。

 彼の不満が爆発寸前のその時,オフィスで銃声が響き,次々と人が倒れていきます。銃を撃ったのはボブの同僚で,不満をついに爆発させたのでした。そしてその男が社長秘書のヴァネッサ(エリシャ・カスバート)にとどめを刺そうとしているのを見たボブは彼に銃弾を撃ち込み,射殺します。ヴァネッサは一命を取り留めますが,脊髄が損傷され,意識はあるものの四肢麻痺になってしまいます。

 翌日出社したボブは,自らの危険を省みずに勇敢に立ち向かった男として一躍ヒーローとなり,社長は彼を副社長に抜擢し,彼をバカにしていた若手上司は「一緒にパーティーに行こう,ゴルフをしよう」とおべっかを使ってきます。有能な秘書のヴァネッサを失った社長はボブにヴァネッサがしてきた仕事をそっくり彼に引き継がせます。

 ボブはヴァネッサを見舞いますが,「こんな障害を負って生きていけっていうの? 生き地獄よ。なぜあの時助けてくれたの」と罵声を浴びせます。しかし,誠実で優しいボブの人柄に触れたヴァネッサは次第に態度を軟化させ,天涯孤独で友人もいないことから,退院後の彼女の面倒をボブが見ることになり,一緒の生活が始まります。そして,彼女の右小指がわずかに動くようになり障害から回復する兆しも見えてきますが・・・という映画です。


 予備知識なしに見ると「これってどういうジャンルの映画なの?」と思うはずです。最初はサスペンス映画,昇進してからはコメディー映画,そしてヴァネッサとのラブ・ロマンスと軸が変わっていくからです。だから,一つの作品としての統一感に欠けています。しかも途中で何度か挟まれるCG画像(会社のビルの爆破とか金魚とか)があまり効果的でなく,これって何? という感じが強いです。

 そして,前半はすごくシリアスというか現実に起きている事件そのものなんだけど,ヴァネッサとボブが一緒に暮らすあたりからだんだん変になっていき,非現実感が増してきます。なぜこうなるかというと,ネタバレすれすれで言えば,いわゆる「○○落ち映画」だからです。要するに「あのシーン」以降は妄想走馬燈が回っていただけなんですね。

 つまり,伏せ字で説明すると,オフィスで銃を最初に撃ったのは△△ではなくって●●であり,□□と間違えて▲▲を撃ちそうになって◎◎した,というのが真相のようです(・・・多分だけど)


 これは勘のいい人ならかなり早い時期に気がつくんじゃないでしょうか。ボブが副社長になってから与えられた業務ってのはせいぜい使い走り程度であって,副社長としての仕事ではありません。なぜかというと,ボブには「副社長の仕事」がそもそも思い浮かばなかったからでしょう。そう考えると,ヴァネッサが「私が社長秘書になれたのはアレが上手かっただけよ」というのも,ボブが「社長秘書の仕事ってそれだけでしょ?」と思っていたからだとわかります。

 同様に,ヴァネッサと暮らすようになって,彼女が初めて「体に触れて」と言われるシーンも変なんですよね。だって,彼女は手足が全く動かせないので,自宅につれてきたその時から,着替えや排泄の問題が生じていたからです。つまり,彼女が「服のボタンを外して」と言う前からボブはボタンを外していたはずですし,そうしなければヴァネッサは生活できません。だから,この矛盾に気がついた瞬間,この二人の甘い生活はアレだな,とわかってしまいます。

 こういう,「観客に真相がわかったら負け」という映画では,主演俳優の力量が試されますが,スレーターさんははっきり言って力不足です。彼の演技は怪演であって名演じゃないんですね。年下の上司にいびられ,セクシー女性社員からは「目がセクハラ」と言われ,金魚しか話し相手がいない様子はよくわかるのですが,演技が表面的で中途半端であり,「哀れな中年をそれらしく演じている」だけなんですよ。なんだか,「俺ってさ,二枚目俳優なのにこんな役もできるんだぜ。三枚目も演じられるんだぜ」という感じなんですね。


 発想自体は悪くない映画なんで,もうちょっと緻密にプロットを練り上げ,安っぽいCGはなしにして,もうちょっと上手い俳優さんを使ったら,結構いい作品になるかもしれません。

(2010/05/19)

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