《ワイルドサヴェージ "Maneater"》★★(2006年,アメリカ)


 我らがアルバトロス御提供の映画で,もともとはアメリカのテレビ向け映画らしいです。原題はそのまんま「人喰い」ですがそれじゃ身も蓋もないので,ちょっと格好いい邦題をつけて,かなり格好いいDVDジャケットを着せて,レンタルビデオ店にきた客を騙くらかしてやろう,という魂胆がありありと見て取れます。この,いかにもという感じのDVDジャケットの虎さんのお姿を見たら,B級ファンは絶対に手に取るはずです。私も手に取りました。

 ちなみにジャケットでは「大都市を巨大虎が襲い,街はパニックに!」みたいに見えますが,舞台は小さな地方都市と山の中ですので騙されちゃいけません。
 また,「巨大虎が襲ってくる恐怖映画」かと思うと肩すかしを食います。もちろん,虎さんは人間を次々パクつきますが,虎さんは遺伝子操作などで巨大化したモンスター・トラさんではなく普通の動物園にいるベンガルトラですし,人間を襲うシーンはちょっとあっても食べるシーンはないし(食べ散らかして残った手足や胴体がちょっとグロい程度)と,恐怖もパニックもほとんどありません。ちなみに,登場するベンガルトラ君はCGではなく,本物のトラを使って撮影しております。このトラ君,よく訓練されているお利口トラ君です。


 そういう,動物パニックの要素は希薄ですが,反面,人間模様はやたら丁寧に描かれています。「これはパニック映画じゃないんだよ。人間ドラマを描くためにパニック映画の要素を入れただけなんだ」という作り手側の主張が,ほんのちょっとだけど感じられます。要するに,かなり真面目な作りの映画です。問題は,アルバトロス側がそれを無視して(?),「トラが出てくるパニック映画」として売っていることなんでしょうね。

 そういう真面目君が作った映画なんで,あまり突っ込むのも気の毒なんだけど,ストーリーを追いながらちょっとだけツッコミを入れていきますね。


 舞台はアメリカのタルガ郡。アメリカのどっかです。

 夜,トラックを運転しているお兄ちゃんの目の前にいきなり一人の少年(ロイという名前です)が姿を現し,びっくりしたお兄ちゃんは急ハンドル! トラックは見事に横転します。少年,夢遊病らしくフラフラしていてトラック事故に気がつきませんが,彼の前にいきなりベンガルトラが出現! あっ,と思いますが,その場はそれでおしまい。

 ついで,ヘソ出しルックでジョギングするお姉さん登場。普通ならこの人が主人公かなと思いますが,全然違います。そして彼女の彼氏が登場。いかにも軽そうな感じで,ジョギングする彼女の腰のあたりにいきなりタッチしたりします。こいつ,真っ先に食われるなと思ったあなた,その予想は正しいです。すぐに襲われ,犠牲者第一号になります。

 そして,保安官のグレイディ(ゲイリー・ビューシイ)登場。この映画の主人公です。ビューシイさんといえばB級映画では悪役として常連さんですが,この映画ではいい人役ですから,彼の顔を見ただけで「こいつが犯人!」って早とちりしないようにお願いします。で,さっきのジョギングお姉さんから「彼が行方不明」という連絡が保安官に入ります。ついで山小屋に一人で暮らす老人が姿を消し,鹿狩りをしている狩人二人組の死体も発見されます(狩人だから二人組なんだな)。保安官は一目で「これは巨大な獣による咬み傷だ」と見抜き,足跡を見つけた獣医さんはベンガルトラだと断定!そして,冒頭のトラックも発見され,違法にトラを運んでいたトラックが事故を起こし,そこから逃げ出したことが判明。


 保安官は直ちにマスコミに事件が起きていることを発表しますが,運悪くその時期は,一年に一度の「トウモロコシ&リンゴ祭り」で街のかき入れ時です。来年の選挙での再選しか頭にない市長さんは,「この祭りの時期に外に出るのは危険と発表するなんて気でも狂ったのか!」と保安官に怒鳴り込んできます。
 ちなみに,この手の映画ではこの後,「祭りの中止を主張する保安官を市長が解任して祭りを強行。祭りは何事もなく進み,いよいよクライマックスというところで会場に巨大トラが登場し,会場は大パニック!」という展開が予想されるところですが,この映画ではそうなりません。祭りは普通に行われますが,トラ君は森の中から出て来ません。どうやら,人混みが嫌いなトラと思われます。

 一方,ロイ君のことも次第にわかってきます。彼は母親と二人で山の中の家に住んでいますが,この母親は,「人間は聖書だけ読んでいればいいの。テレビなんて嘘ばかりで見ちゃダメ」と信じ切っている聖書バカでございます。だから,「学校に行っても悪いことばかり教える」という理由でロイは学校にも行っていません。それで彼は一人で山の中で遊んだりしています。
 ロイ君は窓の外にトラがいるのを見て母親に言いますが,母親は「聖書に書かれているトラは悪い人間の象徴なの。本当にいるワケないじゃないの」とまともにとりあおうとしません。


 一方,「トラに襲われて3人死亡」というニュースが全国に流れ,トラを倒してヒーローになるんだ,ってなおバカさんたちが街に集まってきます。これじゃまずいよな,ということで,州政府が州兵を派遣してきますが,たった6人です。州も映画監督も予算が足りないようです。州兵さんたちは「トラだって? ネコみたいなもんだろ」とバカにしています。こいつら,トラの胃袋まっしぐらだなと誰しも考えますが,予想は後に見事に的中します。

 ここで保安官,一つのテントを見つけます。オペラを聴きながら紅茶を飲んでいる場違い野郎で,絵に描いたようなイギリス紳士です。インドで12頭の人喰いトラを退治したことで有名なイギリスのグレアム大佐です。「素人に人喰いトラは倒せない。わしの出番ぢゃ」とばかりに,わざわざイギリスから駆けつけてくれたのです。ようやく,トラ退治のプロ登場です。

 その頃,州兵のうち2人が行方不明になり,保安官と駆けつけたグレアム大佐は,トラがどのように武装した兵士を襲ったかを解説します。やはりプロは違います。


 で,いろいろあって,森の中を捜索するグレアム大佐はロイ君の家のそばにトラの足跡があって,トラがそこに長い時間滞在していたことを知り,ロイ君と話をするうちにこの少年が不思議な能力を持っていることに気がつきます。このシーン,ちょっといい雰囲気です。

 この時点で誰しも,ロイ君がトラ君と仲良くなって,ラストシーンでは「トラは友達なんだよ。殺さないで!」とグレアム大佐の構える銃口の前に身を挺してトラを助けようとするシーンがあるんだろうな,と予想しちゃいますが,これは無駄予想でした。ロイ君の特殊能力,全然発揮されません。


 で,「トウモロコシ&リンゴ祭り」があったり,保安官助手がトラに殺されたり,その助手が実は市長の一人息子だったり,保安官と妻には子供ができなかったりと,いろいろな人間模様がダラダラと続いてちょっと飽きてきますが,もう少し辛抱して下さい。

 グレアム大佐がロイ君を連れて,母の勤めるお店に向かいますが,ここで母親がロイ君の目の前でトラに襲われます。大佐はロイ君の手を引っ張って店の中に逃げ込みます。それを追ってトラ君も店の中に入ってきます。トラ君に大佐は銃を発射。見事に外します。オイオイ,お前が外してどうするんだよ。大佐,トラに襲われます。オイオイ,お前が襲われてどうするんだよ,誰がトラを倒すんだよ,と見ている方が次第に心配になってきます。

 そこに保安官が到着。彼もトラに襲われますが,辛くも家の中に逃げ込みます。で,いろいろあって,ロイ君と一緒に外に留めてある車の下に逃げ込みます。もちろん,トラ君も追ってきます。トラ君,鋭い爪でロイ君を襲います。トラ君,ロイ君との「心の交流」を忘れてしまったようです。
 ロイ君と保安官はパトカーに逃げ込もうとします。トラ君が追いかけてきます。保安官,拳銃を発射しますがトラに当たりません。保安官のくせに射撃が下手です。でも,トラに当たらない弾は燃料タンクに命中し,タンクが大爆発! なんとトラ君は爆発に巻き込まれて死んじゃった模様です。保安官の射撃が下手でよかったです。拳銃の弾じゃトラは死にませんからね。
 そしてなぜか,グレアム大佐がヨロヨロと登場して,「もう,トラ退治は止めるよ」なんておっしゃいます。じいちゃん,しぶといです。

 で,聖書キ○ガイの母親が死んじゃったロイ君は,子供のいない保安官夫婦に引き取られ,めでたし,めでたし。


 それにしても,あの程度の爆発でなぜトラ君が死んじゃったのか,観客全員が不思議に思っています。何しろ,保安官はトラの死体を確認していません。こういうところに,意地でも観客にトラの姿を見せないもんね,という映画監督の心意気を感じさせます。

 というわけで,最後のトラ退治に使えそうな伏線をいくつも張っていたのに,そのどれも使わないという反則技が楽しめる映画でした。

 それにしても,この映画の監督は,パニック映画を撮りたかったのか,トラ狩り老人と不思議な少年の交流を描く感動映画にしたかったのか,それが最後までわからなかったです。

(2010/06/11)

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