これぞ大感動作。いまさら西部劇という時代でもないよね,と誰しも考えていた21世紀に突如出現したものすごい西部劇映画である。特に40代以上のお父さん世代にとっては,涙,また涙の感涙ものだろう。
冴えない中年男は家族との生活のために,家族との生活を守るために死にものぐるいで疾走するのだ。しかも彼の片足は義足なのである。そんな彼に情け容赦なく銃弾が撃ち込まれるのである。だが,男は怯まない。息子が見ているからだ。父親として,息子に無様な姿を見せるわけにいかないのだ。中途半端で不満足な人生を送ってきた中年男が意地を張るのはここしかない。それはただ,息子に父親の姿,男の姿を見せるためだ。その,あまりに不器用であまりに熱い中年男の姿に涙せよ!
ちなみにこの作品は,1957年(奇しくも私の生まれた年)に作られた西部劇映画《決断の3時10分》を50年ぶりにリメイクしたものだが,57年の作品はほとんど話題にもならなかったB級西部劇らしい。
映画の舞台は南北戦争終結からほどないアメリカのアリゾナ。北軍に狙撃の名手として参加したダン・エヴァンス(クリスチャン・ベール)は戦争で右足を失ったが,妻と2人の息子とともに小さな牧場を経営していた。しかし,日照りが続き,地主に借金の返済を迫られていたが,返済の目処もたたない日々が続く。しかし彼には,この土地を離れるわけにいかない理由があった。
その頃,ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)に率いられた強盗団がアリゾナ周辺を荒らし回っていたが,ちょっとした油断からベンは捕らえられる。彼を裁判所のあるユマまで護送するには,翌日午後の3時10分発のユマ行き列車に乗せなければいけない。しかし,護送役の人間が足りない。「護送に手伝ってくれたら200ドルだそう」という言葉を聞き,ダンは護送役を買って出る。彼にとって200ドルは喉から手が出るほど欲しい大金だったからだ。
だが,ウェイドを奪還しようとする手下どもの執拗な攻撃をかけてくるし,インディアン居留地への移住を拒むアパッチも襲撃してくる。まさに苦闘の連続である。
苦難の末,何とか駅のある町にたどり着いたものの,ここでウェイドの手下どもは町の住民たちに「ウェイドを護送する連中を殺したら200ドルを払おう」とふれ回る。金に目がくらんだ町の男たちはたちまち,銃を手にした殺戮者に変身し,ダンたちがいるホテルを取り囲む。この事態にウェイドを護送してきた保安官たちは怖じ気づき,ホテルから逃げ出そうとする。しかしダンは最後までウェイドを護送し,「3時10分発ユマ行き」の列車に乗せることにこだわる。そして運命の3時10分が近づく。ホテルから駅までは800メートル。しかも,数十人のならず者が銃を手に待ちかまえている。そしてウェイドを伴った義足のダンは走り始めるが・・・という映画だ。
この映画はいうまでもなく,二人の男,ダン・エヴァンスとベン・ウェイドの物語だ。だが,二人の登場の仕方は全く違う。ダンは無口で貧相な中年男でまるで貧乏神みたいだ。借金を返せずに馬小屋に放火されるが呆然と立ちすくむだけだ。そういう情けない父親を14歳の長男ウィリアムスは明らかにバカにしている。
一方のベンは銀行強盗と人殺しを重ねる悪党だが,深い教養を持ち,軽妙な会話をする魅力的な男だ。当然,ダンの息子は「格好いい男@ベン」にどんどん惹きつけられていく。ダンはそういう息子の様子を見るがなす術はない。
実際,映画の半ばまでダンは影が薄く,気の利いた会話もできない無骨な男をクリスチャン・ベールは見事に「魅力なく」演じている。一方,ラッセル・クロウは「キレると何をするかわからない凶暴な男にして,深い知性を持つ犯罪者」を魅力的に演じている。
しかし,この二人の間に次第に不思議な友情が芽生えてゆく。饒舌なベンは無口なダンを男として認めていき,一目置くようになっていく。そして,町中を敵に回したホテルの一室での会話から,息子に父親の姿を見せるために一歩も退かないダンの決意の固さを尊敬するようになる。そして,銃弾が降り注ぐ駅舎の中の短い会話から,ダンを駆り立てる「家族への思い」の強さに圧倒される。終始饒舌なベンが,寡黙なダンのわずかな言葉の重さに口をつぐむ。
そして,ラスト10分の「800メートルの疾走」の鬼気迫る迫力は凄絶だ。降り注ぐ銃弾をかいくぐりながら,敵を一人一人一発でしとめていくダンの姿には,南北戦争の狙撃兵としての誇りが漲っている。そして,二人の男の男気と意地と友情と誇りが交錯する。そんな二人の姿が見る者の胸を熱くする。
そしてユマ行の列車がホームに入る。だが,降り注ぐ銃弾の前に二人は全く動けなくなる。その時,ダンの息子ウイリアムスが機転を利かせて大胆な行動に出る。父親にエールを送る息子の姿を見たダンの笑顔が誇らしげだ。わずかな間に成長し,大人になった息子を見た父親が感じる嬉しさと誇らしさが,その笑顔に満ちている。
すべての戦闘が終わり,最後の最後にベンが下した決断は重く,胸に迫ってくる。
男臭く骨太の,真っ向勝負・内容勝負の映画を見たかったら是非この作品を見て欲しい。絶対に後悔はさせない。誇り高き二人の男の姿に刮目せよ。
(2010/07/01)
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