《ワルキューレ Walkure》★★★★(2008年,アメリカ)


 第2次大戦中のナチス・ドイツで,ドイツ人によるヒトラー暗殺計画は何度も企てられ,実行に移されたものだけで15回あったことはよく知られている。この映画は1944年に実行された「最後のヒトラー暗殺計画」を映画化したものだ。

 映画としては実に丁寧によく作られているし,ヒトラー爆殺からベルリン制圧までの過程も極めてスリリングで2時間があっという間だった。その意味では傑作映画だと思うのだが,心揺さぶられ,感動の雄叫びをあげたくなるような感動作かというとちょっと違うのだ。所詮は「金に飽かせて作ったハリウッドのエンターテインメント映画」という感が否めないのである。このことについては,後ほど述べることにする。

 ちなみに,トム・クルーズ演じる隻眼のドイツ軍将校,シュタウフェンベルク大佐はもちろん実在の人物で,ヒトラー暗殺ばかりか,その後に起こるであろう親衛隊(SS)の反乱も封じ込めようとする大胆不敵にして緻密な作戦を遂行した伝説の軍人として,現在でもドイツ国内では英雄として語り継がれ尊敬されているという。


 1944年,戦地で負傷し,右目と右手,左手指2本を失ったシュタウフェンベルク大佐はベルリン勤務となる。そのころ,ドイツ軍は各地で敗戦を重ねるようになり,ドイツ軍内部でも「恐らくこの戦争はドイツの敗戦で終わる。その時まで,このままヒトラー,ヒムラーの言うことを聞いていていいのか。このままではドイツ人=ナチスということで終戦を迎えてしまう。ヒトラーをドイツ人の手で暗殺して戦争を早期に終わらせることがドイツを守ることではないか?」と考える人たちが出てくるようになる。

 その「ヒトラー暗殺計画」仲間に迎え入れられたシュタウフェンベルクは,ヒトラー暗殺だけでは駄目だと意見を述べる。ヒトラーを殺しても親衛隊が降伏するはずがないからだ。ヒトラー暗殺と同時に親衛隊本部,内務省などの省庁,放送局を一挙に制圧しなければならないと彼は説明する。しかも彼は,そのための具体的な作戦を持っていた。ナチスはドイツ国内でクーデターが起こった際にそれを鎮圧する極秘計画書を作っていて,それに「ワルキューレ作戦」と呼んでいたが,それを利用するという大胆不敵にして緻密なものだった。

 計画は着々と進み,ヒトラーが出席する会議に同席したシュタウフェンベルクは爆弾を仕掛け,ヒトラーの目の前で爆弾は爆発する。爆発で混乱する現場を抜け出した彼はベルリンに戻り,親衛隊本部,内務省などを次々と占拠することに成功したが,ラジオ放送からある情報が流されたことから・・・という映画である。


 もちろん,この映画が史実に基づいている以上,シュタウフェンベルクによるヒトラー暗殺計画は失敗に終わることは,映画を見る前からわかっている。そして,この計画実行後の彼の運命もわかっている。要するに,最初からネタバレ状態である。それにも関わらず,最後の最後まで観客の目を引きつけているのは,脚本の見事さによるものだろう。そして,爆弾を仕掛けるシーンは見ていても息苦しくなるほどの緊迫感だし(何しろ,爆弾を組み立てて仕掛けるシュタウフェンベルクは両手が使えないのである),ワルキューレ作戦発動と同時にシュタウフェンベルクが次々と先手を打って命令を出すシーンも圧倒的だ。

 そして何より,ワルキューレ作戦が見事だ。これほど大規模に予備役軍人を利用する作戦が可能であったのは,「軍隊とは命令指揮により動く集団である」という単純明快な本質をシュタウフェンベルクが見抜いていたからだ。そして同時に,指揮命令系統の首根っこ(ここでは電話通信網)を一時的にせよ,完全に制御できたことが大きいと思う。

 この爆殺計画では実際には怪我人が数人出た程度で,ヒトラーは軽傷ですんだようだが,爆弾の量がもうちょっと多いか爆弾を仕掛けた位置がもうちょっとヒトラーに近ければ,たとえ殺せなかったにしても重傷は負わせられただろうし,あるいはワルキューレ作戦の発動が爆破と同時だったらクーデターは完成していたかもしれない。要するに,わずかな違いがヒトラーに味方したわけである。ヒトラーはよくよく悪運の強い男である。


 では,この映画の最大の問題は何かといえば,トム・クルーズがドイツ人将校を演じている点にある。クルーズが見事に熱演していることは認めるが,彼は全くドイツ人に見えないのだ。要するに,彼が画面に映るたびに「これはアメリカ人がドイツ人に扮して作ったハリウッド映画なんだよ」と再認識してしまうのだ。

 この映画は当初,ドイツ国内で企画され,ドイツ人俳優のみで撮影することで決まっていたらしい。ところが,その内容を聞きつけて惚れ込んだトム・クルーズが企画を買い取り,自身の主役としてアメリカで作ることになったらしい。ちなみに,トム・クルーズ(身長は公表170センチ)が演じるシュタウフェンベルクは190センチの堂々たる体躯の人物であり,この点もドイツ国内ではブーイングがあがったらしい。こう言うところにも最初から無理があったと思う。

 それと,トム・クルーズが常に隻眼なのでアイパッチ姿の軍服姿であり,非常にスマートで格好いいが,逆に,ピシッと決まり過ぎて華麗過ぎるのだ。要するに,ドイツ軍映画でなく徹頭徹尾ハリウッド映画なのである。だから,トム・クルーズが登場するたびに《ミッション・インポッシブル》に脳内変換して見てしまうはずだ。「トム・クルーズ主演」の副作用と言ったらいいだろうか。


 そういうわけで,ハリウッドが作った戦争秘話ものとしては水準以上の良心作であることは間違いないが,ドイツ人俳優だけで撮影したドイツ映画として改めて作り直して欲しいと心底思う・・・トム・クルーズの熱演には悪いけど・・・。

(2010/07/08)

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