ワニが人間を襲うパニック映画は幾つかありますが、これはその中でもかなり出来がいい方で、リアルに怖いです。
実話を元にしているということが一番最初に告げられますから、4人のうち最低1人は生き残ったことがわかりますが、それがわかっていても最後の最後まで「こいつ、本当に生き残れるんだろうか?」という感じなんですね。
しかも、実際の話を元にしているため、「こいつは死んでも誰も困らない、ワニに食われても当然なおバカさん」というパニック映画にお約束の登場人物が一人もいないんですよ。皆,ごく普通の常識人です。だから、ごく普通の人たちが普通に遊びに行ったらワニに襲われてしまったという理不尽な無力感しか残りません。
映画はこんな感じ。
オーストラリアに遊びに来たのが仲良し姉妹のグレースとリー、そしてグレースの夫のアダムの3人組。彼らは川釣りを楽しもうとガイドの男と一緒に小さなボートに乗ってマングローブに囲まれた川の中を進みます。ガイドの男は拳銃を持っていて、リーに「昔はこの辺にもワニがいたけど最近は滅多に見られなくなった。でも、用心のために持っているんだ」と説明します。のどかに釣りを楽しんでいたその時、いきなりボートに何かがぶつかりボートはあっという間に転覆! 巨大なワニがボートを転覆させたのです。そしてガイドの男はワニに襲われます。
グレースとリー、アダムはなんとか近くのマングローブの木に登って難を逃れましたが、ボートのロープは確保したもののボートは転覆したままだし、携帯電話は壊れています。しかも、自分たちがここにいることを知っている人すらいないのです。おまけに、川の水は濁っていて中は全く見えず、ワニがどこに潜んでいるかも不明。食料も飲み水もなく、原生林の中なので近くを他のボートが通りかかる可能性もゼロ。
この時点で生きて帰るには
@マングローブの枝を伝って何とか陸地に着いて歩いて帰る、
Aひっくり返ったボートを元に戻してそれに乗って戻る、
の二つしか方法がないことになります。グレースは最初@を試してみますが、陸地まで100メートルは泳がなければいけないことがわかり、@は断念。
アダムが意を決して川に入り、転覆したボートを元に戻しますが、その時ワニに襲われ妻の目の前で喰われてしまいます。グレースもリーもなす術がありません。そして夜になりますが、暗闇の中で突如ワニがガブガブと何かを食べている音が聞こえます。もちろん、残したアダムの体を食べている音です。見ている方も辛くなります。
翌朝、のどの渇きも限界近くなり、これ以上木に登っていても死ぬしかないとわかり、グレースとリーはまた川の中に入り、ボートに乗り込もうとします。あともう少し、と言うところで二人の前にワニが浮上! グレースが襲われます。何とか二人は木の上に戻りますが、グレースは大腿を噛まれてひどく出血しています。
最愛の姉を助けるため、リーは再度川に入りボートに今度は乗り込めますが、ワニがまたもや登場し、ボートに乗り込んできます。リーは川に飛び込みますが、またもワニに襲われ・・・という映画です。
多少ネタバレですが、リーは生き残ります。もちろんワニも彼女が退治します。しかし、それまでの過程が凄まじいというか、これが事実だとしたらよくぞ倒したというか、最後までよく諦めなかったと誉めてあげたいです。普通なら、目が覚めて「あれ」を見た時点でパニックを起こして立ちすくんじゃうだけだろうし、「あの拳銃」を手にしたとしても発射できない時点で諦めちゃうと思うんですね。しかも、右小指がMP関節で脱臼しちゃっているし・・・。
しかも、そこまで頑張ったのに「めでたし、めでたし」という結末じゃないのです。それが事実なんでしょうが、ここらは見ていて本当に辛いです。事実と違えていいから、ハッピーエンドの結末を見たかったです。
映画の最初の方で、皆が乗り込むボートを見た瞬間、ヤバいという感じがプンプンなんですよ。いわゆる「死亡フラッグ」立ちまくりです。
私の父親(死んですでに15年たちます)が海釣りが好きで小さな船を持っていたんですが(秋田の海沿いの町なんで釣り好きが船を持っているのは普通だったみたい)、その小さな木造ボートに乗って海に出るのっがすごく怖かったのですよ。大きな船が通った後なんて、半端でないうねりで、ここでひっくり返ったら絶対に岸までたどり着けないよなとマジで恐怖を覚えたことが何度もあります。この映画のボートはまさにそれなんですよ。
いくら、「最近、このあたりではワニは見ないよ」とは言っても、ワニはその川では絶滅種ではないわけですから、必ずいるんですよ。そういう川に、よりにもよってこのボロいボートに乗っていくのは暴挙というか蛮勇というか、無駄に命を捨てにいくようにしか見えません。
この映画は低予算映画と思われますが、やはり映画は予算ではなくアイデア次第だと再確認しました。もちろんこの映画、ちょっと話題になった映画《オープンウォーター》のパクリといえばパクリだし、舞台を海から川に変えただけと言えばそれまででしょう。ワニは実物を使っているだけだし、舞台はほとんど木の上だし、登場人物も数人程度です。
それなのに、リアルに怖いんですね。川が濁っていて全く水中が見えないためです。「水の中に何かいそうだけどよく見えないからわからない」という怖さが現実にある怖さだからです。そういう川に素足で入るシーンはゾワゾワとしてきて鳥肌が立ってきます。
恐怖を描くのがホラー映画ですが、怖がらせようと下手に小手先の工夫を重ねるより、シンプルに真正面から描いた方が余程効果的だ、というよいお手本でしょう。
というわけで、オーストラリアに遊びに行って原生林の中の川で釣りを楽しみたかったら、まず木登りの練習をし、体重を落とし(でないとしがみついた木が折れちゃうよ)、銃の扱い方に習熟し、さらに指の骨折や脱臼を一人で緊急処置できるようにしといた方がいいかもしれない、という教訓をこの映画から得ることができます。そしてとりあえず、オーストラリアに遊びに行っても小さなボートにだけは乗らないほうがよろしいようです。
(2010/07/16)
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