新しい創傷治療:ミラーズ

《ミラーズ》★★★(2008年,アメリカ)


 韓国製ホラー映画《Mirror 鏡の中》をベースにリメイクしたハリウッド映画。主役は《24 -TWENTY FOUR-》のジャック・バウアー役でブレイクしたキーファー・サザーランド。とはいっても,私はこの韓国映画を見たことがないし(というか,韓国映画はほとんど見たことがない),《24》シリーズも見たことがないため,原作に比べてどうとか,サザーランドの演技がどうとか,そこらについては言及しないことにします。

 ホラー映画としてはかなり丁寧に作られている方だし,適度に怖いし(主人公の妹の死に方はちょっとびっくり!),謎解きもかなり丁寧だし,ラストのオチはちょっと意表を突かれて面白かったです。ただ,後半いきなりオカルトになってしまう展開はどうかなぁ? 何だか前半と後半で別の映画みたいな感じなんですよね。気にならない人は気にならないと思うけど・・・。


 仕事中のミスで同僚を誤射して殺してしまったベン(キーファー・サザーランド)はそれ以来酒浸りで,妻のエイミー(ポーラ・パットン)と二人の子供とも別居し,妹(エイミー・スマート)の家に居候している。彼が何とか見つけた仕事は,火災で数十人が亡くなり今は廃墟となっているデパートの夜警だった。

 デパート内を巡回するベンの目に留まったのは巨大な鏡だった。その鏡は傷一つなく美しく磨かれていて,警備会社の主任によると,前任の男(冒頭の地下鉄駅を逃げ回っているのはこいつだ)が取り憑かれたように磨いていたらしい。そして鏡に引き寄せられるベンは突然,自分の体が炎に包まれる幻覚に襲われ,激痛に身をよじらせる。

 そして,彼だけでなく別居中のベンの家族の身の回りにも不思議な出来事が起こり始め,ベンの息子は自宅の鏡の中に焼けただれて叫ぶ女性の姿を見て泣き出す。そして彼は,鏡の中に話しかけるようになる。

 やがてベンの元に,地下鉄で変死した夜警の前任者から小包が届き,そこにはデパートの火災事故に関する新聞記事が入っていた。そしてベンは,そのデパートは精神病院の跡地に立てられたことを知る。刑事時代の同僚の助けを借りてベンはその精神病院が閉鎖されるに至った事件を追及し,ついに恐るべき真相に・・・という映画だ。


 この映画,前半部分はかなり怖いです。そしてなにより,廃墟となったデパート内部がハンパでなく怖いです。焼けただれたマネキンがそこら中に立っているんですが,これがそこらの亡霊さんたちよりリアルに怖いです。暗闇で振り返ったらマネキンが目の前にあったら,ほとんどの人は絶叫ものでしょう。これだけでも怖いのに,その中でただ一つ美しく佇む巨大な鏡。見事な映像センスです。

 そして,当然のこととはいえ,鏡の使い方がとても見事で舌を巻きます。特に,少しずつ角度をずらしながら合わせ鏡のように姿が何重にも浮かび上がるところなんて,うまいなぁ,と思いますね。古来,鏡には魔力が宿ると考えられて畏怖されてきましたが,宜なるかな,です。

 そして,現代社会ってこれほど鏡が多いのかと改めて思い知らされます。しかも,鏡を壊したとしても水がちょっとあると鏡になっちゃって,奴らはどこからでも襲ってくるわけです。こういう設定もうまいです。

 ホラー映画なんでグロいシーンは気合いが入っています。冒頭の鏡の破片で首を切られて死ぬシーンはかなりリアルでグロいし,ベンの妹の殺され方も凄惨で,いきなりここを見たらびっくりするでしょうね。こう言うのに弱い人は見ない方がよろしいかと思います。


 問題があるとすれば,「エシカー(Esseker)」という謎の言葉が出てきて,精神病院の謎が解けてきて,そのころから次第にオカルト色が強くなっていくこと。前半の「得体の知れない怖さ」が後半になると「理路整然とした怖さ」になってしまうんですね。だから私には,前半と後半が別々の映画みたいに感じられるんですよ。

 オカルト映画というのは要するに,原因は悪魔か悪霊とはっきりしていて,その原因探しと原因除去の過程を描くのがオカルト映画です。要するに,論理は変だけど,変は変なりに理屈付けしちゃうのがオカルト映画です。だから,大半のオカルト映画は最初は怖いものの,原因が分かってしまってからはアクション映画になったりします。要するに,オカルト映画とは「おかしな論理を振り回すサスペンス映画・アクション映画」なんじゃないかと思うのですよ。


 この映画の場合,後半に「敵」の正体が明らかなります。いわゆる「悪霊」系ってやつですね。で,そこに「エシカー」さんが絡んできて,ベンは家族を救うために「エシカー」を利用して悪霊を退治しちゃうんですが,なんであれで悪霊さんが退治されちゃうのか,全然納得できないのですよ。なぜ霊的・超自然的の悪霊君が物理的手段で倒せちゃうのでしょうか。このあたり,オカルト映画を見ていつも感じる不満です。

 それにしても,いくら家族を救うためとはいえ,平和な生活をしている「エシカー」を引っ張りだして,悪霊君を○○させ,その後で倒す,という論理が意味不明です。何より,ベンに利用されるだけの「エシカー」さんが気の毒でなりません。「エシカー」さん,不憫です。


 というわけで,前半は文句なしのスピーディーでスタイリッシュなホラー映画として楽しめます。後半のオカルトモードに入ってからが楽しめるかどうかで,この映画の評価は分かれるような気がします。

(2010/07/)

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