キリスト教原理主義者,キリスト教おバカさんが作った壮大・華麗なアホ映画。「聖書に書かれていることは全て正しい。聖書は予言の書だ」と信じ込んでいる人が,聖書の正しさを伝えるために作った映画なんで,キリスト教原理主義の皆様には超感動大作なんでしょうが,それ以外の人間にとっては「何でここでノアの箱舟を出しちゃうの? 台無しじゃん」という感じでございます。
おまけに,ストーリーは穴だらけで前後の辻褄が合っていない部分が多いです。一応,ニコラス・ケイジの熱演で「見られないことはない映画」にはなっていますが,私のような無宗教人間にとっては,最後の謎解き以降は退屈なだけでした。
まず,舞台は1959年のアメリカのマサチューセッツにある小学校。子供たちは50年後の小学生に伝えるタイムカプセル用のお絵描きの最中です。しかし,ルシンダという少女は絵を描かず,画用紙一杯に数字の羅列を書いています。しょうがないんで教師はその画用紙もタイムカプセルに入れるわけですが,カプセル埋設のその日,ルシンダは行方不明になり,その夜,学校の用具入れで見つかりますが,両手の爪ははがれ,壁には血だらけの数字が書かれていました。彼女は「ささやき声が聞こえる」と繰り返します。
そして50年後の2009年,同じ小学校でタイムカプセルが開封され,子供たちに手渡されますが,ルシンダの「絵」はケイレブという少年の手に渡ります。彼はMITで天体物理の教授ジョンを父としていますが,ケイレブは幼い頃から「不思議なささやき声」が聞こえていました。数字の羅列が書かれた画用紙にジョンは最初興味を持ちませんが,ひょんなことからその数列が「過去50年間でアメリカで起きた大惨事の日時と犠牲者数」を表していることを突き止めます。そして,数列の最後には「未来の日時」が書き込まれていて,その日に大惨事が起こることが予言されていたのです。ジョンは大学の同僚にこの事実を伝えますが,数列の中に意味不明の数字が挟まれていたこともあり,相手にされません。
そして最初の「予言の日」には飛行機墜落事故が,「第2の予言の日」には地下鉄事故がどちらもジョンの目の前で起こり,多数の犠牲者を生む大惨事となります。そしてその過程で「意味不明の数列」が,事件が起こる場所の緯度と経度であることを知ります。
やがてジョンは,事件の真相を知るルシンダの行方を追い,彼女の娘のダイアナと彼女の娘アビーに会い,ルシンダが薬物中毒で既に他界したことを知り,晩年のルシンダが暮らしていた森の中のトレーラーハウスを突き止めます。そしてジョンとダイアナはルシンダの数列の最後の「33」が「EE」の鏡文字であり,ルシンダの死のベッドの裏に書かれていた「Everyone Else」,つまり「それ以外の全員」であることを突き止めます。
一方,ジョンの同僚の天文物理学の教授が,太陽から超巨大なフレアが吹き出し,やがてそれは地球を飲み込むという観測結果をジョンに伝えます。ルシンダの数列が伝える「最後の大惨事」とは,巨大フレアによる地球規模での大災害であり,それにより人類はもとより,地球の全生物の絶滅だったのです。
なぜルシンダは未来の大惨事を予言できたのか,なぜ彼女の書いた数列はジョンの息子ケイレブが手にしたのか,ケイレブに聞こえる「ささやき声」の正体は何か,そして,人類は絶滅を回避できるのだろうか・・・という映画でございます。
CGは素晴らしく見事です。特に地下鉄事故のシーンはすごい迫力で,見ている方も目の前に地下鉄車両が迫ってくる感じです(3Dだったら凄かっただろうな)。あまりの迫力なんで,「何でここでニコラス・ケイジだけ助かっちゃうの?」と不自然に感じてしまうのが難点ですが・・・。それと,最後の「地球壊滅」シーンも見事でしたね。これは一見の価値ありです。
同様に,映画の冒頭もいいです。空を見上げる不安げな少女,彼女が気が狂ったように書き連ねる数字の羅列,用具入れで見つかったルシンダの血だらけの両手など,オカルティックで不気味なシーンが連続し,その後の展開を期待させる見事な導入です。
その後も悪くないのですが,「やつら」が姿を見せたあたりから「オイオイ,この映画でもしかしたら《フォーガットン》と同じ? じゃあオチはあれかよ。そんな安易なオチで決着をつけるつもり?」と不安になってきます。そしてその不安は「聖書」が登場するあたりから確信に変わります。要するにこの映画は「ノアの箱舟」に○○という現代的解釈を加えただけなんですよ。「ノアの箱舟」は実際に起きた事実なんだよと教えるために作った映画なんですよ。
「ノアの箱舟」自体の馬鹿馬鹿しさはとりあえず置いとくとして,「ノアの箱舟」に乗せる人間の選別方法が全然説明されていないし,そもそもの「ルシンダの予言」と「ノアの箱舟」の間に全く関係がないんですね。
1959年のルシンダに「やつら」が声をかけ,その後の50年間にアメリカで起こる大惨事を予言する数列を書かせる,というのはいいとしても,そもそもその数列は誰に向けてのメッセージなのか,何を伝えるためのメッセージなのかが全く意味不明です。数列の意味が解読できた人を助けましょう,というわけでもないし,数列から大惨事を知って人助けをした人だけを救いますよ,というわけでもありません。「ノアの箱舟」に乗れるのは単に「やつらのささやき声」が聞こえた人だけであって,それ以外のことは一切考慮されていないようです。
となると,ルシンダが未来の大惨事の発生日と発生場所を数列として書き留めた意味が分かりません。そもそも「ルシンダの数列」はタイムカプセルで50年間保存されて50年後の世界に伝えられたわけです。多分,「やつら」が「50年後に開封するタイムカプセルを埋めることになっている小学校のクラスを知っていて,そのクラスの適当な一人にメッセージを書かせた」のかもしれませんが,そうだとしても,意味不明の数字の羅列を見たクラス担任が「こんな訳の分からない数字を書いた紙,タイムカプセルには入れられないわ」と考えてゴミ箱に捨てる可能性の方が高いはずです。要するに,何のためにタイムカプセルに入れて50年後に開封される意味が全く分からないのです。
というか,そもそも「やつら」は「ルシンダの数列」を人類に知らせたかったのか,知って欲しくなかったのかもよくわかりません。わざわざ1個のタイムカプセルに「予言の数列」を入れ(させ?),開封されるのは地球壊滅の数日前ですから,そもそも数列そのものを積極的に知らせるつもりはなかった感じです。
ま,よくよく考えてみると,「ルシンダの数列」の秘密を解明したところで助けてもらえる訳じゃなく,箱舟に乗せる人選はすでに終わっていたわけですから,そもそも「数列」の意味を解き明かす意味もなかったわけで,ジョンの努力は完全な徒労なんですね。
そういえば,あの意味ありげに登場する「黒い石」もさんざん引っ張っておいて,結局,重要アイテムじゃなかったです。せめて,あの石が箱舟の乗船チケットになっていて,たまたまジョンが石を持っていて乗れる権利があっんだけど,その権利を息子のケイレブに譲る・・・なんてことにして欲しかったです。
それと,ルシンダが自殺しちゃうのも変ですよね。ルシンダには「やつらのささやき」が聞こえていたわけで,彼女は「箱舟乗船資格」を持っていることになります。だったらなぜ,宇宙人はルシンダを助けないんでしょうか? せっかく見つけた「乗船資格」を持つ人間を見捨てるなんておかしくないですか? 助けるつもりがないなら,最初から「ささやき声」を聞かせなければいいのに・・・。
このように,いろんなところに伏線を張っていて,しかもそのどれもが意味ありげなんですが,その複線を回収する努力を一切放棄しています。これは要するに,脚本家が無能だったということでしょう。
それにしても,あの連中はなぜ,箱舟作戦を企てたんでしょうか。どう見ても「どっかの○○」にしか見えず,「天地創造の神」には見えません。神様が地球の動物や人間を救うのなら何となくわかるけど,○○がなんでわざわざ苦労して動物や人間を救うのか,理由が全然わかりません。「崩壊した太陽系の動物園」みたいなのを作って見せ物にでもするつもりなんでしょうか。
ちなみにこの映画は,「ノアの箱舟」がどこかの○○に到着し,ケイレブとアビーが豊かな草原に歩み出すシーンで終わります。人によっては「感動的な美しいシーン」だと思いますが,これこそ無茶苦茶なお笑いシーンです。ここに「動物は生きているが植物は生きていない」という西洋文明の基本的考え方が見て取れます。
「ノアの箱舟」とは要するに,「世界の破滅の際,すべての動物を救ってあげたい」⇒「すべての動物をひとつがいだけ箱舟に乗せて新世界に放ち,元通りの世界にする」ということなんだろうと思います。いかにももっともな考えのようなんだけど,どこに間違いがあるでしょうか。
この映画でいえば,「箱舟」が到着する「地球そっくりの○○」には既に,地球の植物が繁茂しています。とても美しいシーンなんですが,そもそもこれらの植物はどうやって育てたのか,という疑問が生じます。植物の繁殖には昆虫や動物が必要だし,土壌細菌や微生物も必須だからです。となると,「箱舟」が到着する前からこの星に地球の動植物を運び込んでいたということになります。ここにこの映画の根本的矛盾があります。
ちなみに,このような「動物には生命があるが,植物は生きていない」と思いこんだお馬鹿さんは「動物は生きているから食べちゃダメ。だから植物だけ食べよう」というお馬鹿ベジタリアンになります。植物は生きていないから食べていい,というアホ・ベジタリアンのお笑い論理ですね。
幼い頃から聖書を読み聞かされ,聖書だけが正しいと洗脳された「キリスト教お馬鹿さん」なら,こういうアホ論理にコロリと騙されるでしょうが,八百万の神を信じ万物すべてに生命が宿っていることを知っている私らは,こんな嘘には騙されないはずです。
というわけで,キリスト教お馬鹿さんにのみオススメするアホ映画でございました。
(2010/08/25)
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