《ガールファイト GirlFight★★★★(2000年,アメリカ)


 家庭生活にも学校生活にも鬱々としていた17歳の女子高生がボクシングの面白さに目覚め強くなっていく,という絵に描いたような爽快スポ根映画。これで面白くないわけがないし,熱血感動映画になれるはずだったのに,なぜかちょっと淡泊な感じ。いい映画なんだけど,もうちょっと,物語として見せる工夫があってもよかったかな,という感じがしないでもない。

 でも,あざとさのない真面目な作り方は好感が持てるし,最初は力任せで殴っていただけの主人公が次第にテクニックを備え,男性ボクサーと対等にリングで戦うようになる姿は感動的だ。


 主人公はブルックリンにすむ17歳の女子高生ダイアナ(ミシェル・ロドリゲス)。母親と死別し,父親と弟の3人暮らしだが,父はアルコール依存症気味でギャンブル狂いのようだ。父は弟にだけ目をかけているがダイアナは無視同然。学校に行けば仲良しの友達はいるが,ボーイフレンドの話題だけでなんだか物足りない。そして,親友の彼氏に手を出した女子生徒に殴りかかり,これ以上暴力沙汰を起こしたら停学処分を食ってしまいそうだ。

 そんなある日,ダイアナは弟が無理矢理通わされているボクシングジムに行き,自分もやってみたくなる。コーチは当初,全く相手にしないが,彼女の熱意に負けてコーチを引き受けることになり,彼女は次第にボクシングの才能を開花させていく。そして同じジムで練習中の2歳年上の恋人もできる。

 そして,アマチュアボクシング界にも男女差別撤廃の考えが導入され,男女の選手が同じリングで戦えるようになる。ダイアナも地域のアマチュア選手権で男子選手と戦い,彼らを力で圧倒していく。そして,彼女の恋人も順調に勝ち上がっていく。そして皮肉にも決勝戦で二人が戦うことになる。ダイアナは恋人に「手加減しないで本気で戦ったほしい」と言うが,彼は思い悩む。彼には1年後にプロデビューし,プロボクサーになることで人生を変えたいという大きな目標があったからだ。

 そして二人は決勝戦のリングにあがる。お互いの強さを熟知している二人は互いの間合いを計ってパンチの応酬をするが,やがて彼の強烈なフックが彼女の顔に炸裂し・・・という映画だ。


 とにかく主演のミシェル・ロドリゲスが圧倒的に素晴らしい。お世辞にも美人でも美少女でもなく,下目使いにギロリと睨む目は三白眼である。そういう彼女が赤いマウスピースを口に入れるシーンなんて異様な迫力がある。スパーリングで殴られて目の下を腫らしているシーンもある。要するに「お人形さんのようなシーン」はこの映画には皆無だ。

 しかし,ファイティング・スピリットをかき立て,前へ前へと進み,ジャブの連打で相手の隙を見て懐に入り込み,ボディブローを叩き込む様子を見ていると,最高に格好いいのである。あらゆる鬱々としたものを拳に乗せて昇華させていく彼女の姿は獲物に襲いかかる野獣の動きのように美しい。そしてだからこそ,恋人の初めてキスするシーンとか,彼と短い会話を交わすシーンの「女の子らしさ」がすごく可愛いのだ。

 そして,ボクシングシーンが非常にリアルだと思う。最初のダイアナは力任せでパンチを打ち込むだけでリズムも何もないのだが,コーチの指導で左右のコンビネーションパンチの撃ち方を教わり,足の運び方を教わっていくことで,少しずつボクサーとしてのパンチと動きに変わっていく。途中の同じジムの練習生とのスパーリングは動きもぎこちなくただパンチを応酬するだけなのだが,それが極めてリアルなのだ。

 そして,ダイアナの恋人になる青年がまたいい。ダイアナは手加減するなと言っているし,手加減したらダイアナにわかってしまう。それは真剣にボクシングに向かい合っている彼女を侮辱するものだ。そして一方,プロボクサーになるという自分の夢がある。プロボクサーにならなければ,父親のあとを継いで自動車修理工になるしかない。だからここで負けるわけには行かないし,女性に負けたらボクサーとしての自分の経歴に傷が付く。その中で彼は決断する。決断してリングにあがる。そしてリングの上で勝者と敗者が分かれてしまう。すべてをわかった上で彼はリングの上でダイアナと対峙する。そんな彼の決断が清々しい。


 問題があるとすれば,最後の試合のシーンは素晴らしいのだが,それが「涙が止まらないほどの感動」に結びついていない点だ。この映画の監督は女性監督で,彼女の最初の長編映画になるらしいが,見せ方の工夫が足りないせいだと思う。

 この映画にはいろいろなエピソードが提示されている。ちょっと頼りない弟との関係,一方的に自分の価値観を押しつけてくる横暴な父親との確執,その父親のために自殺してしまった母親への思い,高校の同級生のことなどだ。普通なら,これらの登場人物が試合会場に集い,それぞれがそれぞれの思いを込めて試合を応援し,一体化していくうちに試合のクライマックスを迎える,という作り方をすると思う。

 ところがこの映画では,父親との確執は途中で決着が付いてしまい,最後の試合に父親は絡まないし,弟は新しい道を見つけたかどうかもわからない。それが見ている方にとって不満なのだ。

 たぶんこの映画は続編を作るべきだと思う。主人公は女性ボクサーとして道を進むのか,恋人は彼女に対しどういうスタンスで生活をともにしていくのか,父親はそういう彼女に対してどうするのか,弟は自分の進むべき道を見つけられるのか・・・など,それらが見たいのだ。それらを描いてこそ,この映画は完結するはずだ。


 そういう不満はあるし,画像の見せ方や場面転換も素人っぽいところが少なくない。だがこの映画は,そういう欠点をはるかに凌ぐ美点がたくさんある。何より,主人公の闘争心が迸る試合のシーンは迫力があるし,試合相手を睨みつけるダイアナの眼差しの強さが圧倒的だ。自分の人生は自分で切り開いていってやるというダイアナの迸るような意志と生命力が何より魅力的だ。

(2010/09/07)

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