《山猫は眠らない "Sniper"★★★★★(1992年,アメリカ)


 発表されてからもう20年近くたつ狙撃手(Sniper)をテーマにした戦場映画で,知名度は低いが知る人ぞ知る名作としてマニアの間では評価が高い。二人の狙撃手の「男の世界」をピーンと張りつめたような緊張感に満ちた映像で描き尽くす傑作である。

 ちなみに、発表から10年後の2002年、なぜか突然、《山猫は眠らない2 狙撃手の掟》が,そしてその2年後に《山猫は眠らない3 決別の照準》が公開された。いずれも第1作目の主役,トム・べレンジャーを主役に据えたものだが,どうやら単なるドンパチ映画らしい。世の中にはどうやら,作ってよかった続編と,作らなかったほうがよかった続編があるようだ。


 舞台はパナマとコロンビアの国境付近に広がるジャングル地帯。ご存じ、麻薬取引の一大拠点だ。それに対しアメリカはアメリカ海軍を投入し、麻薬組織の壊滅を計ろうとするが、険しいジャングルのため大量の兵力を投入することはできず、海兵隊の狙撃手を使って麻薬組織のトップの暗殺を計画する。その極秘任務を担っているのがベケット曹長(トム・ベレンジャー)だった。

 狙撃手は通常、二人一組で行動するが、あまりにも危険で過酷な任務のため、ベケットの相棒は不慮の事故で命を落としていく。そのため、同じ海兵隊の中でもベケットは浮いた存在となっている。隊列を組んで集団行動をするのが常の海兵隊と、山猫のように闇に紛れてひっそりと行動する狙撃手では水と油だったからだ。

 そんなベケットの元にワシントンは、パナマの麻薬王オチョアと彼が援助するパナマ軍の将軍アルバレス(時期パナマ大統領候補らしい)を同時に射殺するという計画を立て、若いエリート軍人、ミラー(ビリー・ゼイン)を送ってくる。ミラーはオリンピックの射撃の銀メダリストという輝かしい経歴を誇り、若くして出世街道を走っている。当然、ベケットにとっては上官にあたる。だが、ベケットはすぐに、ミラーに実戦経験がなく、狙撃の腕はいいが実際に敵を狙撃したことがないことを見抜いてしまう。的を撃つのと人間を撃つのは大違いだ。ましてミラーはジャングルでの行動は初めてだ。要するに、軍人としての階級は上でも狙撃手としてはまだ毛も生えていない坊やである。

 そんなミラーを引き連れてベケットはジャングルに入るが、案の定、ミラーはへまばかりしている。そして一方、ベケットは指令書にない行動ばかりする。ジャングルを知り尽くしたベケットにとってそれは最も合理的な行動だが、ミラーにとってはそれが我慢できない。

 そしてパナマ側の情報屋からオチョアの情報を得るために別個に狙撃を依頼されるが、どうしても引き金を引けないミラーのために失敗してしまう。その後二人は私兵に守られたオチョアの邸宅に向かい、暗殺のチャンスを窺うが、ここでもミラーは決定的なミスを犯してしまい・・・という映画である。


 まずベケット役のトム・ベレンジャーが渋くて最高に格好いい。すでに74人を暗殺したプロ中のプロだが、それを自分の仕事と割り切り、淡々と任務をこなしていく。一発必殺(one shot, one kill)を信条とする狙撃の名手だが、戦歴を誇ることはなく、常に寡黙だ。
 そしていつかは除隊して故郷のモンタナに戻り、平穏な暮らしをしたいと考えているが、それがいつになるのかは全くわからない。それでも、命令があればジャングルに出向き、たった一瞬のチャンスのために森の中で何日間も潜んでいる。プロ中のプロが与えられた仕事を淡々とこなす姿にしびれる。

 一方のミラーはオリンピック銀メダル経歴で出世したが、実戦経験はなく、まして敵と撃ち合ったこともない。今回の任務も出世のために必要と割り切っている。いわば「甘ちゃん」であり、命令指示書の通りに行動するのが軍人だと信じている。だから、現場叩き上げのベケットとうまくいかない。そんな、「甘ちゃんで嫌な奴」をビリー・ゼインは見事に演じている。

 常に二人で行動しなければいけないベケットにとってミラーはお荷物同然だが、そんな狙撃手として未熟なミラーを育てていく。常にひっそりと森に紛れて行動する二人は言葉を交わすシーンは少ないが、ベケットは行動を通して無言のうちにミラーに多くのことを教えていく。このベケットの寡黙な「男の背中・大人の背中」が泣かせる。


 当初、ミラーはそんなベケットの信条にも行動にも反感を持ち、「人殺しを楽しんでいるだけだ」と反発するが、過酷な戦場をともにすることで少しずつベケットの考えを理解し成長していく。二人の心の交流とミラーの成長する姿がこれまたいい。

 そして、敵に囲まれて絶体絶命の時、ミラーを逃がすためにベケットは敵に捕らわれてしまう。オチョアから激しい拷問を受けるベケットだが最後まで仲間の名前をばらさない。そんなベケットを助けるためにミラーは危険を承知で近づいていき、密かに狙撃銃の照準を合わせる。それに気がついたベケットは「待て!」と伝える。声は聞こえなくても口の動きでミラーはベケットの意図を知る。このシーンがとてもいい。


 それにしても、なんと寡黙な映画だろうか。鬱蒼たるジャングルを舞台とした戦場映画なのに、派手な撃ち合いのシーンはあまりなく、多くは地面に這いつくばって狙撃銃を構えてスコープを覗いて照準を合わせるシーンだ。スコープを覗きながらターゲットを見つけ、彼が一人になるわずかな一瞬を狙って引き金を引くのだが、その緊張感が凄まじく、引き金を引く瞬間は見ている者も息を止めてしまう緊迫感である。そんな、徹底的な「静」に拘った映像の連続に圧倒される。

 そして、映像も素晴らしい。ここぞという狙撃の場面で、銃口から発射された弾丸のスロー画像になり、まるで水中を進むように空気を切り裂いて飛んでいく様子がアップされるのだ。今となっては珍しくない表現だが、この映画が1992年ということを思い出してほしい。あの《マトリックス》(1999年)の7年前の映画なのである。その他にも、狙撃手の緊張感と孤独を際だたせる映像の工夫があり、見る者を飽きさせない。


 ちなみに、アメリカのCIAはこれまで何度か麻薬密売に絡んでいたことが明らかにされているという。最初は1960年代のベトナム戦争。ベトナムの隣のラオスでは共産勢力が次第に勢力を伸ばしてきたため、CIAはそれを押さえるためにラオスの山岳民族に資金援助して反共ゲリラに仕立てたが、この時、ラオスの山岳地帯に自生していたケシからコカインを作る技術を教え、できたコカインをアメリカ国内で売って活動資金にするルートを提供したという。

 2度目が1970年代の中南米で、この地域の反共勢力の活動を助けるために、この地のケシからコカインを作り、それをアメリカ国内で売ったらしい。今回の映画の背景に隠されているものは、恐らくこれだろう。


 まだ見たことがない人には絶対のオススメ映画である。寡黙なプロの後ろ姿に刮目せよ! プロとしての矜持に涙せよ!

(2010/10/06)

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