《タイタンズを忘れない》★★★★(2000年,アメリカ)


 これは人種差別をスポーツで打ち壊していくという実話に基づいた良質な感動映画。非常に丁寧に作られているし,ストーリーの展開にも無理がないし,「タイタンズ」の選手たちが一つにまとまっていく過程も極めて自然で納得がいくものだ。そして何より,アメフトの試合のシーンは迫力満点であり,見ているだけで熱くなる。その意味では見て損はない映画だし,まだ見ていない人は見た方がいい映画である。

 だが,何だか全体を通して印象がいまいち薄いのである。感動映画なんだけど,それは新鮮な感動ではなくて,前にどこかで見た感動の焼き直し,という感じなのである。この問題については後ほど取り上げる。


 舞台は1971年のヴァージニア州の高校。公民権運動の結果,黒人に対する人種差別撤廃が次第に実行に移され,この高校はその地域で最初に黒人生徒を受け入れる第1号の高校となる。しかし当時のヴァージニア州では人種差別意識は根強く残っていて,黒人と一緒に生活するなんて考えられない、という住民もまだまだ多かった。その高校のアメフトチーム「タイタンズ」にも黒人生徒が加入するが,白人と黒人はいがみ合うばかりで一つのチームになろうともしない。

 そんな「タイタンズ」に黒人コーチのブーン(デンゼル・ワシントン)が就任するが,それまでこのチームを率いていた名コーチのヨースト(ウィル・パットン)はサブコーチに降格することになった。当初,ヨーストはブーンに反発するが,やがて彼に協力することになる。

 ブーンは合宿を企画し,ここで海兵隊の訓練さながらの猛練習と行うとともに,黒人選手と白人選手を強制的に同室に入れ,お互いに話し合うようにし向けていく。やがて彼らは「同じ釜の飯を食った仲間」意識が生まれ,次第に一つのチームにまとまっていく。

 一方,ブーンを追い出してヨーストをヘッドコーチに戻そうとする町の有力者たちはブーンに「公式試合で一敗したらコーチの地位を剥奪する」と通告する。そして,負けることが許されないタイタンズの戦いが幕を切って落とされる・・・という映画である。


 とにかく,「スポーツを通して人種偏見を乗り越える」という映画としては完璧な作品である。そして,「お互いに知ろうとしないから偏見が生まれる。お互いをよく知れば偏見は自然に克服できる」という本作の主張も極めて説得力がある。そのためにブーンががとった手段も見事である。なるほど,これならチームは一つにまとまるなと思わせる。

 そして何より,ブーン役のデンゼル・ワシントンが最高に格好いい。選手たちに地獄の訓練を課しながらも一人一人に目を配ることを忘れず,しかも能力の劣った選手を切り捨てることもない。まさに指導者の鑑(かがみ)である。

 しかも,ブーンの視点とヨーストの視点を両面から描いていくため,「黒人は正義,白人は悪」という正悪二元論に落ち込むこともない。ブーンは確かに,一歩も退かずに現実に立ち向かい,不可能を可能にした不屈の勇者である。その目的は正しいとしても,達成のための手段は時に強引であり,時に不合理だ。そういう点をヨーストはしっかりと批判するし,ブーンも自問自答する。そういうバランス感覚は素晴らしいと思う。

 そして,厳しい特訓に耐えることで黒人と白人が理解し合うようになり,一つのチームとしてまとまっていく様子も感動的だし,何より,最初はブーンにおんぶに抱っこだった彼らが,勝利を重ねることで次第に精神的にも成長し,自立していく姿も素晴らしい。見事な成長物語である。


 そういう素晴らしい映画なのだが,圧倒的な感動とはいかないのはなぜだろうか。

 理由の一つは,スポーツを通じて人種を融和させようとする映画,人種差別を努力と根性で解消していこうとする映画が他にも沢山あることだろう。この《タイタンズ》を公開直後の2000年に見ていたらまた違ったかもしれないが,2000年以降,同種の映画は様々作られていて,どうしてもそれらと比較してしまうからだ。

 そういう目で見ると,この映画で新鮮なのはゲティスバーグの戦場跡に選手たちを走らせたブーンが,自分たちの闘いを南北戦争になぞらえてアジる場面だと思う。アメリカ人なら聖地ゲティスバーグを持ち出されて反論できないだろうし,ここで発憤しなかったらアメリカ人じゃない(・・・と思う)。多分、アメリカ人ならここで感動の涙を流すんじゃないだろうか。

 それ以外にも感動的なシーンが満載なのだが、どうしても既視感を覚えてしまうのだ。それがこの映画の弱いところだ。

 そして,真面目に手抜きせずに作っているのはいいとしても,何だか「感動スポ根映画についてよく勉強した優等生の作った模範解答的スポ根映画」にしか見えないのである。例えば,あれほど激しく反発していたブーン宅周辺に暮らす住民たちはあっさりと彼を受け入れていくし,交通事故で脊髄損傷になった花形選手も入院しているベッドの上ですぐに精神的に立ち直って自分の障害を受け入れてしまう。事実はこうだったと言われれば「はいそうですか」と引き下がるしかないが(何しろ,この映画は実話に基づいているのが最大の売りだ),ちょっときれいごと過ぎるよね,と言う感じがしてしまう。

 ちなみに、この映画は「事実に基づいている」のだが,事実とかなり違う部分があるそうだ。例えば,1971年のヴァージニア州では人種差別意識は映画で描かれるように激しくなく,住民たちは最初から黒人コーチに好意的だったらしい。


 そして最大の弱点は,「アメリカ人の,アメリカ人による,アメリカ人のための映画」であることだ。それは,アメフトをテーマに据えたことからもわかる。アメフトのルールを知らないアメリカ人は(恐らく)いないだろう。「奴らはショットガン戦法をとっている」という一言から,アメリカ人ならそれがどういう戦法かわかるはずだ。要するに,日本人にとっての「ヒヨドリ越え」,「墨俣の一夜城」みたいなものだろう。だから逆に言えば,よほどのアメフト・ファンでなければ,ショットガンと聞いてもチンプンカンプンだし,作り手の意図は観客には伝わらないことになる。多分,映画の作り手はこの問題について全く気がついていないと思う。

 同様に,この映画のクライマックスとも言うべき試合シーンも,アメフトのルールを知らないと何がどうなっているのか全くわからないと思う(少なくとも私には全くわからなかった)。つまり,どうやったら点数が入るのか,何が反則行為なのかが全然わからないのだ。そのため,最後の試合で7対3で負けているのに,なぜ最後のワンプレーで逆転したのか,私は恥ずかしながら理解できなかった。アメフトというスポーツに全く関心がないからである。

 多分このあたりが,同じ球技でもサッカーやバレーボールやテニスと違うところだろう。これらの球技のルールは、試合を見ていれば大体わかるし,大雑把に理解していれば試合を楽しめる。サッカーのオフサイドはちょっと理解できなくても,「足で蹴ってボールを向こうのネットみたいなのに入れるゲームだな」と言うことは試合を5分も見ていれば自然にわかってくる。だから,サッカーやテニスをテーマにした映画は見る人を選ばない。何の予備知識もなくても,映画を見ているうちにルールがおぼろげでもわかってくるからだ。

 その点,アメフトは非常にわかりにくい。これまで何度もアメフトをテーマにした映画は見ているはずなのに,未だにルールがわからない。そしてこれは,野球も同じだと思う。野球のルールを全く知らない人が9回の終わりまで試合を見たとしても,どういうルールで試合が動き,どういうシステムで点数が入っているかは多分わからないと思う。恐らく,ピッチャーとバッターが味方なのか敵なのか,それすらわからないと思う。

 わかりにくいと言えばタイトルもそうだ。アメリカ人にとっては「タイタンズ」と言えば「1971年のあのタイタンズ」なのかもしれないが,それ以外の映画ファンにとってはこれまた意味不明だと思う。せめて,もうちょっと気の利いた邦題を付けてやらないと,レンタルショップの店頭でこのDVDを見かけても何の映画かわからない人が大多数のため、とりあえずスルーされるのが関の山だろう。


 基本的には良質の良心作だし,生まれて初めて見るスポ根映画だったらすごく感動すると思う。そういう人にだけオススメかな? それと,もしもこの映画を見るなら事前にアメリカン・フットボールのルールを勉強しておいた方がいい。アメフトのルールを知らないと後半の試合の場面がちっとも理解できないぞ。

(2010/10/20)

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