《ワイルド・バレット "RUNNING SCARED"★★★★(2006年,アメリカ/ドイツ)


 一丁の拳銃と一人の子供を軸にめまぐるしく展開するアクション映画。全く先の読めない意表を突く展開が続き,しかも一癖も二癖もある連中ばかり登場するため,最後まで目が離せない。しかも名前が付いている登場人物はそれぞれきちんと役割が割り当てられていて無駄人物はいないし,細々したエピソードの全てを最後にきちんと回収する様は見事だ。ちょっと内容を詰め込みすぎという気もするが,2時間たっぷりと楽しませてくれたのだから,よしとしよう。

 ちなみにこの映画の監督はウェイン・クラマーで,彼の第3作目となり,脚本も彼の手になるものということである。


 舞台はアメリカのニュージャージー。ジョーイ(ポール・ウォーカー)はイタリアン・マフィアの下っ端構成員。その日も麻薬取引現場にいて,そろそろ引き上げようとしたその時,目出し帽を被った3人の男が銃を構えて乱入し,銃撃戦となる。マフィア側は何とか2人を射殺したが,その二人は警察官だった。マフィアのトミー(ジョニー・メスナー)は警官殺しに使った銃をジョーイに渡し,始末しろと命じた。しかし,ジョーイはその銃を捨てず,自宅の地下室の壁の中に隠す。

 だが,それを見ていた者がいた。ジョーイの息子のニックと,隣の家に住むロシア人一家の息子オレグ(キャメロン・ブライト)である。ともに10歳の仲良し同士で,地下室でホッケーごっこをして遊んでいたのだ。

 その夜,ロシア人一家の自宅から銃声が聞こえ,流れ弾がジョーイの家にも飛び込んでくる。駆けつけてみると撃たれたのはロシア人の夫のアンゾ(カレル・ローデン)であり,息子のオレグが撃ったらしい。しかし,オレグの姿はなく,使われた銃の特徴からそれはあの「警官殺しの銃」とわかる。アンゾは妻とその連れ子であるオレグに家庭内暴力を振るう常習犯であり,ジョーイの銃を持ち出して母親を守ろうとして銃を撃ったのだ。

 もしもオレグが警察に見つかり銃が押収されれば,それは警官殺しに使われたものとわかってしまう。ジョーイはなんとしても警察より早くオレグを見つけ出し,銃を回収しなければならない。しかも,撃たれたアンゾはロシアン・マフィアの構成員で麻薬密造に絡んでいたらしく,ロシアン・マフィアも裏で動き始めてしまった。かくして,ジョーイの長い一日が始まる・・・という映画だ。


 映画の結末は最初の時点でわかっている。腹部が血だらけの少年を助手席に乗せた男が必死で車を運転している。そして,時間は18時間前の麻薬取引現場となる。つまり,この映画は18時間のうちに起きた出来事を明かし,最後は少年が撃たれるらしいと想像がつく。しかしこれすら「仕掛け」の一つなのだ。しかも,映画の最後は葬式のシーンだ。誰が死んだのかは明らかだ。しかしこれすらも「仕掛け」なのだ。してやられたという感じで見事だ。


 とにかく,まともな職業についている人物がほとんど登場しない。毎月,まとまった給料をもらう仕事に就いたこともなければ,税金を払ったこともないような連中ばかりだ。まともなのはジョーイの妻のテレサ(ヴェラ・ファーミガ)くらいのもので,彼女以外はイタリアン・マフィアとロシアン・マフィア,悪徳警官,凶悪なホームレス集団,売春婦たちと彼女たちを束ねるポン引き,親切そうな顔をして実は幼児愛好者のサイコ・キラー夫婦・・・と,ろくでもない連中ばかりだ。そして,少年オレグはそういうクズ連中の間を転々とする。しかもオレグにとって自宅は安全ではなく,戻ってもDV野郎の父親が待っているだけなのだ。映画の設定とはいえ,オレグの境遇を考えると泣くしかない(映画を見ている間は,次々に新手の危ない連中が登場するため,泣く暇はないけどね)

 だが,見終わった後で陰惨な感じがしないのは,実はアンゾはオレグを深いところでは愛していたことがわかったからだ。ラストの壮絶なアイスホッケー場のシーンだ。ロシアン・マフィアのボスが彼に「ガキを殺せ。どうせお前とは血が繋がっていないんだろ。さっさと殺せ」と命じられた時,アンゾはオレグに何事かを囁き,銃を捨ててボスに背を向け,シャツを脱ぎ捨てる。そこにはジョン・ウェインの姿が彫られている。その背中に容赦なく銃弾が撃ち込まれる。ここは泣く。胸に熱いものがこみ上げてくる。それまで何度もジョン・ウェインの映画が小道具として使われていたが,全てはこのシーンのためだったのだ。このシーンを見た父親はみな泣くぞ。

 そして,アンゾの死を受けて,ジョーイは乾坤一擲の賭に出る。その必死の一手をオレグが正確に理解し,行動する。すごいぞ,オレグ。このシーンに限らず,オレグ役のキャメロン・ブライトは本当にうまい。


 この映画の発端は,ジョーイが銃を始末せず,自宅に隠し持っていたことである。始末しろとボスに命じられたのに,何でそんな「ヤバい証拠品」を隠し持っていたのだろうかと不思議に思っていたが,最後の最後でわかる仕掛けとなっている。ジョーイは○○だったからだ。なるほどね。だから二重の意味で「トミーの銃」を取り戻す必要があったわけである。このあたりの脚本もうまいなと思う。


 前述のように,この映画はいろいろなエピソードをこれでもか,これでもかと詰め込んでいる。映画数本分のネタになりそうな物語ばかりである。たとえば,オレグを誘拐する幼児愛好家の夫婦なんかはそうだろう。普通ならこれで一本の映画が作れる大ネタである。あの善良そうな白人夫婦を主人公にしたサイコホラー映画なら水準以上の作品が作れるはずだ。同様に「イタリアン・マフィアとロシアン・マフィアの抗争,それを利用して麻薬取引を潰そうとする警察と,陰でうまい汁を吸う悪徳警官」なんてのも映画1本が作れるだろう。熟練の映画監督ならそうやって数本の映画を作るはずだ。

 だが,まだ若い映画監督は次の映画が作れるかどうかが不明だし,作れるとしてもそれがいつになるかもわからない。しかし,頭の中にはどんどん新しいアイディアが浮かんでくる。どれもこれも,捨てるに惜しい面白いアイディアだ。だから彼はその全てを一本の映画に詰め込んでしまうのだろうと思う。だからこそ,この映画は面白い作品に仕上がったのだ。

 あと,映像も見事である。特に,シーンの切り替わりでは様々なパターンで楽しませてくれるし,ここぞというところでのスローモーションやCGも見事であり効果的だ。とにかく多彩な「映像の見せ方」を知っている監督であり,センスがいいと思う。


 暴力シーンは過剰気味だしお色気シーンもかなりある。そういうのに合わない人にはダメかもしれないが,映画好きなら見て損はないと思う。

(2010/10/29)

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