新しい創傷治療:11:46

《11:46 "END OF THE LINE"★★★(2007年,カナダ)


 終末思想系悪魔復活型サバイバル系ホラー映画,とでもいうのでしょうか,低予算ながら,気合いを入れまくって作っています。ただ,宗教ネタというか終末思想(いわゆるハルマゲドンってやつか?)がオチになっているため,無宗教人間にはわかったようなわからないような結末となっております。そのあたりが気にならない人だったら結構楽しめるかもしれませんが,かなりグロくて血なまぐさいシーン満載なので,そこらへんはご注意ください。

 ちなみに,原題は「地下鉄の終点」みたいな意味で,邦題の「11時46分」は,イギリス製の地下鉄ホラー映画《0:34》のパクりのようです(このイギリス映画は後ほど紹介する予定です)


 主人公は精神病院に勤務するナースのカレン。以前から,地下鉄に乗っていて化け物に襲われるという悪夢に悩まされているようです。そして,仕事中に退院したばかりの女性患者が地下鉄に飛び込み自殺したという話を聞き,いよいよ気分は滅入っています。そして,午後11:46発の地下鉄に乗ろうとしますが,ホームでいかにも気持ち悪そうな変態野郎パトリックに言い寄られて逃げだそうとしますが,そこで初対面のイケメン君のマイクが機転を利かせて助けてくれ,地下鉄に無事に乗り込みます。

 すると突然,電車は急停車して電車の中の明かりが消えます。車内放送もよく聞こえないし,不安げに窓の外を見るカレンにいきなり,血塗れの女性が見えます。あの,飛び込み自殺した女性患者です。悲鳴を上げるカレンを助けようとマイクがきてくれて落ち着きます。そしてそこに,ベティと名乗るおばちゃんも「私も心細いの」とか言いながら別の車両から移ってきます。一方,さっきの変態野郎パトリックは別の車両で胸の谷間見せまくりお姉ちゃんを襲おうとしているし,別の車両では他の乗客がいないので発情しちゃったカップルがイチャイチャしております。

 そのとき,ベティおばちゃんのバッグのポケベル(懐かしい!)が鳴り,メッセージが入ります。それを読んだおばちゃん,「いよいよその時ね」と言いながら,バッグから取り出した十字架を模したナイフを取り出し,いきなりマイクの背中に突き立てます。そしてその頃,地下鉄の車両のあちこちでポケベルが鳴り,メッセージを受け取った男や女が集まり,手に手に十字架ナイフを持ち,乗客たちに襲いかかり,血の惨劇が幕を切って落とされます。

 十字架ナイフの一団はハルマゲドンを信じる宗教団体「希望の声」の信者でした。「最後の審判が訪れた時,死者から悪魔が生まれ,この世は悪魔に支配されてしまう。人々の魂を救うためには,自分たちが彼らを殺してあげて魂を天国に送ってあげることだ」という教祖様の教えを守る一団です。

 何とかその襲撃から逃れたカレンたちはトンネルの中を逃げまどい,何とか途中にある制御室に逃げ込みますが,そこでテレビには変な画像だけが映り,ラジオも雑音ばかり。そしてその制御室にも「希望の声」信者は襲ってきて・・・という映画です。


 結構怖いです。冒頭,カレンの悪夢のシーン(地下鉄に乗っているといきなり悪霊のような顔をした奴らに襲われる)からして,突然「あの顔」が何の前触れもなく大写しになるため,ここはびっくりします。夜中に一人で見ない方がいいです。

 そして,その後の惨殺シーンもかなりリアルというか,マジでとばします。何しろ「希望の声」の武器は十字架型のナイフ,対する乗客たちは電車にある非常事態用の手斧とか,制御室にあったバールとか金槌とか,そういう原始的武器のみです。「銃は汚れている」という「希望の声」の信仰のためですが,そのため,襲う方も反撃する方も接近戦になり,手が届く範囲での戦いになります。これがある意味,リアルに怖いし,見ていて痛いです。銃なら一発で決着が付くのに,金槌やバールではそうならないんですね。

 戦争の歴史は一面では「遠距離から相手を殺す工夫の歴史」です。「拳で殴る⇒棒で殴る⇒剣で刺す⇒槍で刺す⇒弓矢で射る⇒銃を使う⇒大砲を撃つ⇒ミサイルを撃つ・・・」という武器の進化は要するに,接近戦でなくなるべく相手から遠いところから相手を殺したい,という欲求が生み出したものです。近ければ近いほど自分もやられるし,何より自分の手で相手を殺すのは誰しも嫌なんでしょう。だから,相手の顔が見えないくらい遠くから敵を倒したいわけね。この映画はいわば,そういう近代武器がない時代の接近戦での殺し合いの凄惨さを描いている,とも言えます。


 それから面白いのは,「希望の声」グループが狂信者だけでないという点。奥さんに誘われて軽い気持ちで入ったけど,この教壇がそこまで狂信的だとは知らなかった男性信者もいるし,いくら教祖の命令とはいえ殺人は犯せないよ,という信者もいます。軽はずみにエッチしちゃった相手(途中で大怪我を負う)の身が心配で殺戮に参加できない若い女性信者もいます。そういう「100人信者がいれば100通りの信じ方がある」という,当たり前の現象を当たり前に描いています。このあたりは,これまでたくさん描かれてきた「狂信者による集団殺戮映画」にはなかった視点だと思います。

 あの,気色悪いパトリックは,実は教祖の牧師様の助手ですが,実は童貞君で「どうせ死ぬんなら死ぬ前に女を襲って童貞を捨てるんだ。女とやりたいんだ」の一心で行動していることが明かされます。このあたりも聖職者ってのもいろいろいるんだよ,という感じで妙にリアルです。ちなみにこのパトリック,最後までネチネチと粘着質で追ってくるんですが,こういう奴は最初の方で殺すべきだということがわかります。こんな奴に情けをかけちゃダメ,というのはホラー映画の鉄則ですね。

 狂信者たちを率いるベティおばちゃん,いい味だしています。「ハレルヤ〜!」なんて歌いながら,法悦の表情で殺しまくります。もちろん,「希望の声」の教祖様の言葉しか頭に入りませんから,論理で説得なんてはなから通用しません。善良そうな顔をしているだけに,よけい怖いです。

 主人公のカレンはちょっと美形で頑張り屋さんで,最後の最後まで希望を捨てずに行動します。最後にパトリックに襲われ,もうこれでおしまい,という時でも最後まで諦めません。もう一人の若い女性(「胸の谷間」担当です)はちょっと日本人っぽいというか「はるな愛」っぽい顔立ちです。この子も結構頑張るんだけど,最後の方では重傷を負った男がもう歩けないとわかると,さっさと捨てて走り去ったりします。このあたりもよくわかるなぁ。


 とまぁ,ここまでは結構よく作っているな,低価格に負けず気合を入れて作ったのは偉いな,と評価が高いですが,ちょっと気になった点を列記しときますね。


 というわけで,サバイバル系ホラー映画が好きな人なら見て損はないかと思います。

(2010/11/04)

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