新しい創傷治療:テラートレイン

《テラートレイン》★★(2009年,アメリカ)


 1980年公開の同名映画のリメイクと言うことですが,元になった映画は見たことがありませんので,原作とどう違うのかは全く不明です。

 一言で言えば,陰惨な人体破壊系ゴア映画でございます。何しろ映画冒頭からいきなり,縛り付けられて動けない若い男性の皮膚にメスが入り,皮膚を切っていくシーンから始まるのです。映画ファンの95%はこのシーンで「もうダメ!」と見るのを断念するはずです。ちなみにこの「皮膚切開シーン」は医者の目から見ても極めてリアルです。

 というわけで,この手の映画が大好きとか,ホラー映画なら何でも見てみたい,という人以外は近寄らない方がいいと思います。ただ,最後の結末は極めて爽快でスカっとしたものですので,後味は決して悪くないです。


 女子大生アレックス(ソーラ・バーチ)はアメリカのインディアナ大学レスリング部の部員で,東ヨーロッパで行われる国際大会に遠征中です。まぁ,アメリカの大学生ですから同じチームに恋人がいるわけです(これが最後のシーンで活きてくる)。そして,リトアニアの試合後,「明日の出発は早いから今日はさっさと休め」という監督の言葉を無視して,6人組男女がホテルを抜け出して他チームのパーティーに参加。当然,酒とドラッグとセックスでございます。そして翌朝,二日酔いでフラフラになりながらホテルに戻ると他の選手たちはすでに出発し,怒り狂ったコーチが待っています。

 他の選手に追いつくため,ウクライナのオデッサ行きの列車に乗ろうとしますが英語がまるで通じません。するとそこに,英語が話せる女性医師が声をかけ「乗ってからでもチケットが買えるのよ」と親切に教えてくれ,何とか列車に乗り込みます。

 しかし,列車の乗務員たちは不気味な雰囲気を漂わせています。そして,頭のネジがちょっとはずれかけているような乗務員が「列車の中で盗難が多いから,パスポートは俺たちが保管してやるよ」と言葉をかけ,パスポートを渡してしまいます。一方,食堂車で一人食事を取っていたコーチに先ほどの女性医師が声をかけてきて,次第にいい雰囲気になった二人はコーチの部屋に入り,さあこれからというところで,医師は突然コーチの首筋に注射器を突き立てます。そして,血の惨劇が幕を切って落とされ・・・という映画です。


 要するに,異国に旅行中に羽目を外したバカ青年が闇に飲み込まれるように姿を消していく映画でして,これまで取り上げた中では《ホステル》《ブラッド・パラダイス》と同じです。これを見ると,よほどの命知らずでなければ旧東ヨーロッパ,とくにリトアニアには旅行したくなくなりますね。

 この映画は「何のために若者たちが襲われるのか,その目的は何なのか?」という謎を解明する要素には乏しく,とってつけたような真相解明でお茶を濁していますので,ネタバレと騒ぐほどではないと思いますので,最初にネタバラしをします。要するに,事件の背景は《ブラッド・パラダイス》と同じです。要するに,臓器移植を待つ患者と家族が列車に乗っていて,若くて健康でしかもおバカな外国人青年が乗り込んできたらそいつを殺して臓器をいただき,途中停車したところにある病院で移植を受ける,というシステムのようです。《ブラッド・パラダイス》もそうでしたが,犠牲になるのは「ドラッグと酒とセックスしか脳味噌に入っていない海外旅行中おバカ青年」ですから,一人や二人がいなくなっても誰も困らないというのは,ある意味リアルなわけです。だから,「東欧旅行中にいなくなったアメリカ人は臓器を抜き取られているんだぜ」という都市伝説も生まれるのでしょう。


 ただ,そういう「闇臓器移植」をテーマにするなら,いくら荒唐無稽とはいっても医学面のリアルさはある程度必要な気がするのですよ。《ブラッド・パラダイス》もそうでしたが,手術するなら手袋しろよとか,摘出した心臓を手掴みするなよとか,摘出した臓器をブリキ缶に入れちゃダメだろとか,目玉はペンチみたいなので挟んでも取れないよとか,そういうところでツッコミを入れられちゃダメだと思うのですよ。だから,B級のおバカ映画って馬鹿にされちゃうんだよ。

 それと,途中で停車したところで臓器移植をする患者が歩いて病院(?)に移動するのもおかしいし,移植術直後と思われの患者が「ちょっときてよ! 拒絶反応だと思うんだけど,おなかが痛いの。鎮痛剤をさっさと持ってきてよ」というあたりも無茶苦茶ですね。それは拒絶反応じゃないだろ。というか,点滴1本しか入ってないし,心電図のモニターすらありません。オイオイ,という感じです。

 それと,捕まった青年たちはボコボコに殴られたり,痛めつけられたりするのですが,これも意味不明。臓器を取り出すなら,麻酔で眠らせるだけで十分ですから,ボコボコにする必要はありません。まぁ,そっち方面が好きな観客へのサービスなのかもしれませんが・・・。


 それにしても,「親切そうな顔をして近寄ってくる奴は殺人鬼」というのはホラー映画では鉄板ですし,「盗まれないようにパスポートを大切に保管してあげるよという奴は泥棒」もまたホラー映画定番中の定番です。この映画のコーチも選手たちも,ホラー映画を見て勉強してから東欧遠征に出かけた方がた方がよろしかったかと思います。いずれにしても「海外ではパスポートは命の次に大切」ですから他人に手渡しちゃダメですよね。

 前述のように,この映画は凄惨な残虐シーンが連続する鬼畜系ホラー映画ですが,見終わった後の後味は悪くありません。ヒロインのアレックスがチームメイトの復讐を見事に遂げるからです。特に,映画の最初の方で恋人とベッドの上でイチャイチャしながら彼から教えてもらった必殺技で最強の相手を倒すシーン(しかもここで,彼から教えてもらうシーンが重なる)は感動もの。この映画を我慢しながらも最後まで見通した者だけが手にすることができるささやかなお年玉みたいなものですね。


 こんな映画なんで,1度見たらもう沢山という感じですので,ホラー映画なら何でも見たいという物好きな方だけご覧ください。

(2010/11/24)

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