ホラー小説の大御所、スティーブン・キングが原作の小説、そしてそれを映画化したこの作品を激賞したことで有名になった作品です。「キングが誉めるんならすごい作品だろうな」と思ってしまいますが、キング自身が作った映画を見たことがある人間としては、「キングが誉めた映画」という時点で疑問フラッグたちまくりです。彼の小説は素晴らしいかもしれませんが、彼の映画作成能力も映画評価能力も疑問だらけだからです。
という訳で見てみましたが、やはり、かなり微妙な作品でした。原作の小説自体はそれなりに面白いという評判ですから、もしかしたら映画化しない方がよかったのかもしれません。
舞台はメキシコ。ここにバカンスでやってきたアメリカの2組の馬鹿ップル(ジェフ&エイミー、エリック&ステイシー)がプールサイドでイチャイチャ楽しんでいます。そこで彼らはひょんなことからドイツ人の旅行者マティアスと出会いますが、マティアスから弟が行方不明だと打ち明けられます。どうやら、マティアスと彼の弟は考古学マニアらしく、マヤの未発見の神殿を探していたらしいです。
マティアスの弟の唯一の手がかりは弟が残した手書きの地図があるのみで、マティアスはそれを頼りに弟を探しに行くつもりだと打ち明けます。その話にジェフが興味を持ち、マティアスの弟捜査に協力しようと言い出します。当初、乗り気でなかった3人もジェフに引きずられて神殿捜索に参加することになり、さらに、4人の遊び仲間のギリシャ人も同行することになります。
アメリカ4人組は「車と徒歩で2時間くらいでいけるところだし、夕方までには帰ってこれるし、翌朝の飛行機には間に合うよ」程度のお気軽モードで、程なく神殿を発見しますが、ここで事態は急転直下。神殿近くで暮らしていたマヤ族の末裔と思われる原住民たちが突如襲ってきて、ギリシャ人はいきなり撃ち殺されてしまいます。何しろスペイン語も英語も通じませんから何がなにやらわからないまま、4人はピラミッド上の遺跡の上に登って難を逃れます。そして、原住民さんたちがピラミッドの下に集まり、一人として逃がさないぞ、という包囲網を作ります。
遺跡の頂上に逃げたアメリカ人4人+ドイツ人マティアスは、遺跡の頂上が平坦でテントが張られていることを発見します。どうやら、マティアス弟が設置したテントのようです。しかし、そこは携帯電話は通じず、助けも呼べません。途方に暮れる彼らの耳に、遺跡中央にある穴の奥から携帯電話の呼び出し音が聞こえます。それは、マティアス弟の携帯電話の呼び出し音でした。
弟はその穴に入って出られなくなったに違いないと考えたマティアスは、遺跡にあったロープ巻き上げ器を使って穴に入りますが、ロープが切れて穴の中に落下してしまいます。マティアスを助けるために女性一人がロープで穴を下りますが、マティアスは意識はあるものの腰から下の感覚はなく、脊髄損傷の状態らしいとわかります。そして、降りた彼女も下腿裂傷を受傷。そこで、テントを壊して担架を作り、それで何とかマティアスを引き上げます。しかしその夜,神殿ピラミッドを覆っているツタが静かにマティアスの足に忍び寄ってきて・・・という映画です。
ま,要するに,海外でハメを外して馬鹿騒ぎをする兄ちゃん・姉ちゃんがとんでもない事件に巻き込まれる,というごくありがちなホラー映画で,同系統のものとしては《ホステル》や《ブラッド・パラダイス》などがあり,「オイオイまたかよ」感は否めません。
一方,襲ってくるのは植物のツタですが,これはちょっと珍しいかも。もちろんこれまでも植物がモンスター化して襲ってくる映画としては,巨大トマトが人間を襲う《アタック・オブ・ザ・キラー・トマト》とか,樅の木の怪物を人間を襲う《肉喰怪獣キラーツリー》などがありましたが(どちらも映画史に残るであろうキング・オブ・クズ映画でございました),それらに比べるとこの「ツタ」はかなりましでして,ウネウネと動いても違和感はあまりありません。また,ツタの花が携帯電話の呼び出し音のマネをして人間を呼び寄せるという設定も「あり」ですね。
とは言っても,基本的な部分でおかしなところがかなりあるので,そこらについて順不同で書いていきます。
- この映画で最大の見せ場(?)であるジェフ君がマティアスの下肢を切り落とすシーンですが,医学生なら「下腿骨に石をぶつけて骨折させてからナイフで切り落とす」という馬鹿な方法は取らないはず。膝関節で切り落とせば果物ナイフ1本で切断できますからね。ジェフくん,解剖実習をきちんとやっていたのかな?
- 下肢切断した後,「熱したフライパンを押し当てて下肢切断部を止血する」シーンもこの映画の見せ場の一つとなるオドロオドロしいシーンですが,膝窩動脈は熱したフライパンでは止血できません。医学生なら動脈を結紮するんじゃないでしょうか。
- 原住民たちはツタを恐れていて,それに触れることすらタブーにしています(ツタに触れた子供を容赦なく撃ち殺したくらいです)。それをジェフくんたちは見ているのですから,ダメもとで原住民たちにツタを投げつければ逃げられたんじゃないでしょうか。あの時点ではツタはまだ襲ってこなかったので立派な武器になったはず。
- いくら「人喰ツタ」とはいっても,所詮はツタ,つまり草なんだから,ジェフ君たちは手持ちの燃料で焼き払えばよかったんじゃないでしょうか。
- 原住民の皆さんもさっさと人喰ツタを駆除すればよかったような気がします。何しろこのツタは塩を撒くと寄ってこないのですから,ガソリンでもまいて火を放てば一網打尽ですよね。
- マティアス君,穴の奥から弟の携帯電話の着信音が聴こえてきて,穴の奥に入りますが,その前になぜ,ロープの状態を調べなかったんでしょうか? 普通なら,ロープが擦り切れていないか調べてから穴に入ると思うぞ。もちろん,ロープが切れるのは映画の定石といえばそれまでですが・・・。
- ツタ君たちはモノマネ上手で,携帯電話の呼び出し音をコピーしますが,どうやって携帯電話の呼び出し音を知ったのでしょうか。というのは,遺跡ピラミッドの上は携帯電話は圏外になって使えない,という説明があるからです。つまり,マティアス弟の携帯電話が鳴ることはなく,ツタ君たちが呼び出し音を模倣することは不可能です。
- 映画の最初の方で「人間が生きるためには1日2リットルの水が必要だ。しかし,ここには半日分の水しかない」とジェフが説明するシーンがありますが,なぜか,その後のシーンでは水をがぶ飲みし,2日以上経過しているのに皆さん,ピンピンしています。
- 上記の「ここには半日分の水しかない」という部分が正しいとすると,彼らは4リットルの水を持ってジャングル入りしたはずです。しかし,アメリカ人4人はほとんど手ぶらですし,特に女性はサンダル履きでリュックすら背負っていません。どう見ても4リットルの水は持っていないはずなんだけど・・・。
- 遺跡ピラミッド頂上に追い詰められるのはいいとしても,そこにはテントも張ってあって,明かりも用意されていて,ジェフ君たちは快適サバイバル生活を送れます。何しろ,穴の中に降りられる滑車まであります。もちろん,マティアス弟が残したものでしょうが,ここまで何でも揃っているとサバイバルごっこに見えちゃうんだよね。
- 遺跡ピラミッド頂上でのサバイバル生活ですが,水なし,食料なしなのに飢えや乾きに苦しむ様子もなければ,カンカン照りなのに暑さにまいる様子もありません(もちろん,テントはあるけど,日中にあのテントの中に入っていたら熱中症必発でしょう)。彼らは最後までピンピンしているんですが,このあたりはあまりにウソ臭いです。
というわけで,設定としては面白いけど,いい加減な部分が多すぎる映画です。そういうのが気にならない大雑把な人にだけオススメかな。
(2010/12/10)