2003年に公開された韓国製ホラー映画《箪笥》を元にしたハリウッドのリメイク映画。私は《箪笥》は見ていないので原作との違いはよくわからないが,結構よくできているサスペンス・ホラー映画で,まだ見ていなければ(そして《箪笥》を見ていなければ)十分に楽しめる作品だと思う。
アナ(エミリー・ブラウニング)と姉のアレックス(アリエル・ケベル)は性格はまるで正反対だったが(アレックスは活発で外向的,アナはおとなしくて内向的),とても仲のよい姉妹だった。二人は湖畔にある家に両親とともに住んでいたが,母親は病気で伏せっていて,離れのボートハウスのベッドに寝ていた。しかしある日,アナが自宅に戻ったとき,ボートハウスは爆発炎上し母親が焼死してしまう。ボートハウスに置いてあった燃料が漏れ,引火したらしい。しかし,この爆発を目の前でみたアナはショックで記憶をなくし入院する。
治療が奏功し,アナはようやく帰宅を許される。最愛の姉と父親(作家をしている)に迎えられるが,姉は「なぜ手紙の返事を書いてくれなかったのか?」と詰問する。しかしアナはそんな手紙を受け取っていなかった。そこで姉は父親が手紙を出さなかったことに気づく。
実は,アナの入院中,父親は母が死んだばかりというのに若い恋人レイチェル(エリザベス・バンクス)とイチャイチャしていてもうすぐ結婚の予定だった。レイチェルは病気の母の看護のために看護師派遣会社から派遣された看護師だった。そのレイチェルが家の中のことをしっかり仕切っていて,母親の思い出の品を屋根裏部屋に押し込め,家の模様替えまでしていた。姉のアレックスはアナに,「あの女が父親と仲良くしていて我が物顔に振る舞うため地獄みたいだった」と話す。当然,アナも面白くない。母親を深く愛していたからだ。その夜,アナの前に母親の亡霊が出現し,恐ろしい形相で何かを訴えかけ,アナは悲鳴を上げる。
そして久しぶりに再会したボーイフレンドはアナに,「実はあの爆発事故の日,俺は見てしまった」と何かを明かそうとするが,なぜかそこにレイチェルが割って入り,ボーイフレンドを追い返してしまう。そしてアナとアレックスは次第に,レイチェルが父親と結婚するために母親を殺したのではないかと疑うようになり,レイチェルの持ち物を調べ,看護師派遣会社に電話をかけ,レイチェルという看護師が実在しないことを突き止める。
そして,アナはボーイフレンドが知っていることを確かめるために海岸で落ち合う約束をするが,なぜか彼はやってこない。そして翌日,湖から彼の死体が引き上げられる。
アナとアレックスはレイチェルが殺人犯であるという動かぬ証拠をつかみ,アナは保安官に急ぐが,その時,レイチェルは麻酔薬の入った注射器をアレックスの腕に突き差し・・・という映画である。
オリジナル版の《箪笥》は韓国で古くから伝わる有名な怪談を元にしているらしい。そのため《箪笥》は「とても面白いのだが,ちょっと理解しにくい部分が少なくない」と評価されることが多いようだ。恐らく,韓国文化に根付いた部分について韓国の人相手に説明する必要はないが,そもそも韓国の文化や伝承を知らない人間はその部分がよく理解できないからだろう。
そういう意味で,この《ゲスト》は非常に分かりやすい。ハリウッドがリメイクする上で「他文化の人にもわかる概念」に翻訳し,暗黙の了解部分を明文化してきっちりと説明してくれたおかげだろう。「数学の得意な人は,他の人がなぜ数学ができないのかわからない」のと同様,韓国の映画監督にとっては,「他の文化の人たちにはどこがわからないのか」はわからないのだ。その意味で,このリメイク版は悪くないと思う。
それにしても,最後の結末で明かされる真相にはちょっと驚かされた。何の予備知識も持たずにこの映画を見た人で,この真相を読めた人っているんだろうか。少なくとも私には全くの予想外だった。この真相が分かってしまうと,母親の亡霊のあの恐ろしい形相の意味も,ボーイフレンドが夜アナの部屋を訪れる意味も納得がいくし,レイチェルが偽名を使っている理由も納得がいく。冒頭のあの不気味な表情の女性入院患者の正体も,なぜ彼女が登場するのかという理由もこれまた明快だ。
また,途中の様々なエピソードがきちんと最後に回収されるのも気持ちがいい。そして何より,観客をミスリーディングしていくさまざまなエピソードや小道具の数々にもしてやられたという感じで見事である。ここまで「動かぬ証拠」を出されると,誰しも「やっぱり犯人はこいつだよね」と思ってしまうと思う。もちろん,私も見事に騙されてしまった。
全体像がわかってからこの映画の内容を思いおこすと,諸悪の根元は○○だったことがわかる。全ての発端になったのもこいつの軽はずみな行動だったし,その後の行動だって決して誉められたものではない。というか,普通,この家に住み続けるだろうか(立派な家なんで惜しかったのかもしれないが)。こいつがもっと思慮深く行動していたら,何も起きなかったわけですよ。
役者さんでは,アン役のエミリー・ブラウニングは時々,お姉さんのアレックスより年上に見えてしまうという問題はあるものの,気弱で内気だけど思慮深い妹,を見事に演じている。一方のアレックス役のアリエル・ケベルはいかにもアメリカンな遊び好きの美少女という感じで,こちらもよろしいです。そして何より,レイチェルを演じるエリザベス・ハンクスは「美貌の悪女」を憎たらしいほどうまく演じていた。ここまで完璧に「イヤな奴」を演じられたら,誰だってこいつを疑うよね。
見終わった後,これってしっかりしたドラマだったな,という爽やかな感慨を残すのもこの映画の美点だろう。仲のよい姉妹が不慮の事故で母親を亡くしたことで悲しみ,一方,父親は新しい若い恋人に夢中で自分たちの話を聞いてくれないし,若い未来の母親との葛藤もある。そんな中で起こる様々な怪奇現象の数々。そして,レイチェルの正体を暴こうとする姉妹の推理・・・など,多面的な要素を含んでいて,ホラー映画に分類されるのが気の毒なほどだ(とは言っても,映画の雰囲気はガチガチのホラー映画だけどね)。
というわけで,結構怖いシーンやオカルティックなシーンはあるが,そういうのがダメでなければ一見の価値はある秀作だと思う。
(2010/12/15)