《2012》★★(2009年,アメリカ)


 150分を超す大作にして,CGを駆使して人類滅亡の危機を壮大に描く,一見感動的なダメ映画。映画ファンなら一度は見といていいけど,一度見たらそれでいいやという感じですし,見逃したとしても人生の損失になる訳じゃありません。

 監督はあのローランド・エメリッヒさん。CGを駆使しまくった空虚壮大壮麗な作品(《インデペンデンス・デイ》,《デイ・アフター・トゥモロー》)を作っている人です。なるほど,最高水準のCGはこんな凄いことができるのか,ということを知るためには最高の映画ですが,主人公に都合のよいストーリー展開と安っぽくて嘘っぽいヒューマニズムが鼻につくため,私はこの監督の映画はあまり好きじゃないです。

 もちろん,CGを駆使して大災害映画を超リアルに作れる監督としては第一人者ですし,こういう映画監督がいなければ「細かいことはどうでもいいけど,すごい映像の連続で圧倒される映画」の系譜が途絶えてしまいますから,無碍に否定するわけではありません。ただ,コケオドシ的な内容なんで,私は一度見たらそれでいいかなと思っていますし,繰り返しみたい映画ではありません。。


 2009年,インドの地球物理学者は太陽活動の異常により放出されたニュートリノによる信じ難い現象が起きていることに気がついた。ニュートリノは本来,他の物質と反応せずに地球を通り抜けていくはずなのに,あらゆるニュートリノが地球と反応していたのだ。そのため,地球の中心にある核の温度が上がっていて,そのままでは大規模な地殻変動と火山活動の活発化を招き,2012年に地球は滅亡すると予想された。そして,この2012年の人類滅亡はマヤ歴が予言していたのだ。

 この研究結果はアメリカ大統領に上奏され,世界各国の政治指導者たちに伝えられた。彼らは,予想される災害規模から人類の大半が死滅が避けられないことを知り,残された3年でできる限りの人間や動物,文化遺産を救う計画を立て,それは極秘裏に進められていた。しかし,その情報はアメリカ国民にもその他の国の住民にも知らされていなかったため,地球の70億の民たちはいつも通りの暮らしを送っていて,危機が迫っていることを知らなかった。

 売れないアメリカ人作家のカーティスもその一人だった。彼は別れた妻が育てている二人の子供に久しぶりに会い,子供たちをキャンプに連れていくが,国立公園なのに立ち入り禁止の柵が張り巡らされ,昔あったはずの湖は干上がって見あたらない。そして彼らはなぜか,陸軍の軍人たちに取り囲まれてしまう。だがその頃,アメリカ各地,そして世界各地では地割れと巨大地震が起きていた。だがそれは,地球を襲う大惨劇の単なる序章に過ぎなかった・・・という映画です。


 とにかく,CGというのかVFXというのかよくわかりませんが,画像は迫力満点で息つく暇がありません。地割れは起こるは,高速道路は崩落するは,巨大な船はひっくり返るは,ビルは次々に崩落するは,巨大な火山が噴火するは,火山弾は雨あられと降り注ぐは,地下鉄車両は空を飛ぶは,巨大な「ノアの箱船」はエベレストに衝突しそうになるは,波瀾万丈,危機一髪シーンがこれでもかこれでもかと,ジェットコースターの如く連続します。

 そして,それらの大災害の様子がこれまた凄いのです。どれ一つとっても「ありえねぇ!」シーンばかりなのですが,どれもこれもド迫力なのです。よくぞここまで,「ありえねぇ」シーンを「いかにもありそう」に撮ったものです。この臨場感たっぷり画像には脱帽です。

 と,褒められるのはこれくらいかな?


 まず,壮大壮麗な映像表現とそれで描かれる物語の貧相さがまるでアンバランス。いろいろな登場人物が出てくるんだけど,10分もすると「この黒人科学者,リムジン運転手をしている売れない作家,そして彼の別れた妻と二人の子供が中心人物だな」とわかります。そしてその瞬間,「こいつらは何があっても映画の最後まで生き延び,最後は家族愛が復活するんだよね」というのが読めちゃうのですよ。逆に言えば,その他の登場人物はバタバタ死んでいるのに,この一家はやれ「お兄ちゃんはどこ?」レベルで大騒ぎ。この一家が「ノアの箱船」に不正に乗り込んだために,いったいどれだけの人間が死んだり迷惑を被ったか,見ていて腹が立ってきます。

 「主人公とそのご一行様は最後まで生き残る」という結末がわかっていますから,最初の方の地割れとビル倒壊では作家はスタントマンまがいの超絶運転テクニックを駆使して助かるし(何しろ,地割れは彼らの後方からしか襲ってこないし,車の速度を下回るスピードでしか広がらないのですよ),別れた奥さんがつきあっている整形外科医(と表記されていましたが,お仕事は美容形成外科医ですね)は飛行機の操縦歴が数時間だけというのに華麗にセスナ機を飛ばして火山弾をかわしていくし(というか,火山弾がセスナ機を避けていくようにしか見えない),大型機の副操縦士になっても操縦できちゃうのです。このあたり,あまりの安っぽい展開に笑うしかありません。

 安っぽいと言えば,後半に箱船の一つが故障して,乗り込めない人たちが残った箱船に押し寄せてくるシーンもそうです。ここであの黒人科学者が「彼らを見捨てるわけにはいかない。人類を救うために我々はここに集まっているのに,外にいる人たちを救えないというのはおかしい」と大演説をぶち,それに感激した世界各国の大統領たちも同調し,船のゲートを再び開けるんですよ。感動的って言っちゃ感動的なんだろうけど,そもそも全人類のうちの40万人だけ助けて残りの70億人は悪いけど文句を言わずに死んじゃってね,という計画なんだから,ここでたかだか1万人を助けようと見殺しにしようと,どうだっていいわけです。こういう安っぽいヒューマニズム(自分の目の前の1人が死ぬのを見るのはイヤだけど,自分の目の前にいない70億人が死ぬのは構わない)は見ていてイヤな気分になります。まして,この黒人研究者は計画立案当初から絡んでいるんだから,「40万人だけを救う計画なんて私には容認できません」って最初から文句を言える立場にいたはずです。何で今頃,こんなことを言い出すんだよ,こいつは。


 そして何よりイヤらしいのは,その助かる40万人の選別方法です。なんと「一人当たり10億ユーロ(最近のレートだと1120億円!)払える人」というのが基準なんですぜ。家族4人ならざっと4500億円。となると,日本で箱船に乗れる人ってどのくらいいるんでしょうか。ユニクロの柳井会長の資産が8400億円,ソフトバンクの孫さんの資産が6800億円ですから,この人たちは家族6人までなら楽々乗り込めます(その後無一文だけどね)。ちなみに,公開されたデータによると日本全体だと20人くらいは乗り込めるみたいです。というわけで,この箱船はアラブの産油国のトップ,武器商人,ゴールドマン・サックスのCEOなんて人間だらけということになります。つまり,「金持ちなら助かるけど,貧乏人は助からないよ」というのがこの映画の基本コンセプトなんですね。

 でも,こういう人たちご一行様が助かって大津波が押し寄せなかった南アフリカ(地殻隆起で持ち上がり津波を免れたと説明されています)にたどり着いたとして,果たして生きていけるんでしょうか? 多分,無理だろうと思います。金は持っているけど,一人で生きていく能力を持っている訳じゃありませんから・・・。それなら金持ちではなく農業のプロ,狩猟のプロ,釣り名人を箱船に優先的に乗せた方がよろしいんじゃないでしょうか。


 ちなみに,一人10億ユーロで40万人とするといくら金が集まったかというと4京5000兆円です。えーと,1万円札新札で100万円なら1センチ,1億円なら1メートルです。1兆円なら1万メートル,つまり10kmの厚さの札束です。1京円はその1万倍だから・・・。す,すげえ! ちなみに,豪華客船の代名詞であるクイーンエリザベス2世号の建造費は7億ドル(=600億円)ですから4京円あったら80万隻(80隻じゃないよ)作れます(計算,間違ってないよな)
 スペースシャトルの一機あたりの建造費は2000億円,1回の任務にかかる費用は500億円程度と言われていますから,4京5000兆円あったらスペースシャトルを20万機作って打ち上げられることになります。ということは,スペースシャトルに5人ずつ乗り込ませたら100万人が助けられることになりますね。この映画の「箱船計画」より効果的に助けられるという計算になります(計算,間違ってないよな)

 ちなみに,現時点での世界の総資産は1京5000兆円といわれていますから,4京5000億円というのは世界の総資産の3倍ということになり,どうしても計算が合いませんが,映画を見ている人は気がつかなかったフリをして下さい。


 こういうお金関係を計算してしまうと,ニュートリノが多くなって地球の核を電子レンジ効果で融解させるとか(ニュートリノは他の素粒子とはほとんど反応しないのが基本性質です),人類滅亡の根拠とされるマヤ歴と惑星直列が映画の中にほとんど登場しないじゃないかとか,箱船がメイド・イン・チャイナで大丈夫かとか,あのうるさいだけのインチキ臭いDJに偶然出会って,こいつが偶然箱船の地図を持っているなんて何が何でも都合がよすぎるよとか,そういうのはどうでもよくなってきます。

 ちなみに,旧約聖書の「ノアの箱船に動物一つがいを乗せた」という記述通りに,この映画でもキリンやゾウさんを乗せるシーンがありますが,これは全くナンセンス。ライオン一つがいとシマウマ一つがいを乗せて新たな大地に放したら,ライオンはシマウマをすぐに食べますからシマウマは1日で絶滅してしまいます。その結果,ライオンはほどなく餓死します。シマウマはライオンの数百倍の数を乗せなければいけません。


 20世紀末のノストラダムス騒動(1999年7の月に人類滅亡!)とか今回のマヤ歴(2012年12月21日に人類滅亡)とか,あるいは,ダ・ヴィンチの絵に人類の未来を左右する謎が隠されているとか,古文書に未来を拓く呪文が書かれているとか,テンプル騎士団やマルタ騎士団の教えを伝える一団が活躍するとか,そういう小説やら映画やらがゴマンとありますが,私はそういうのをみるとバカだなぁと笑ってしまいます。だって,こういう考えは要するに,「大昔の人は全てを知っていた」ということであり,(今の人類が知らない)古代の英知を知れば現在の人類が直面している困難を乗り切れる,という考えですよね。要するに,昔が一番偉くて今の人間は全ておバカさん,という思想ですな。アホみたいな思想です。

 そしてこれは宗教の考え方です。つまり,ユダヤ教にしてもキリスト教にしてもユダヤ教にしても仏教にしても,大昔に作られた教典が唯一の根拠であって,何か困ったらそれに立ち返れば問題は解決する,と教えているような気がします。逆の言い方をすると,「その教典が作られた時代は一生懸命神様に祈っていたが,今の時代は神に懸命に祈らなくなった。だから人間は幸せではないのだ。幸せになりたかったら,教祖様が生きていた頃に戻ればいいのだ」ということになります。実際,イスラム原理主義の方々は,「かつてイスラムは世界をリードしていたが今は後進国だ。これはムハマンドの様に真剣に祈らないからだ。ムハマンドの様に真剣に祈ればまた我々に栄光が訪れるのだ」と教えているようです。

 でもね,ムハマンドさんがいくら偉大でも,生きていたのは西暦640年頃で,日本で言えば大化の改新,蘇我入鹿の時代です。ムハマンドの頃に戻れと言われたって,蘇我入鹿の時代(=奈良時代初期!)に戻れるか,ってことですよ。要するに,まるっきり現実感を喪失しています。昭和30年代の生活に戻ることすら不可能なのに,奈良時代では想像を絶する古さです。なぜそんな当たり前のことに気がつかないのか,不思議でなりません。

 今回のような「古文書や教典に書かれていた予言が今,姿を現す!」という映画を見ていると,どうしたらこういう考えをするおバカさんになってしまうんだろうな,と悲しくなってしまいます。

(2010/12/31)

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