新しい創傷治療:アルマゲドン2007

《アルマゲドン2007 "Earth Storm"(2007年,アメリカ)


 《或髷丼》・・・じゃなくて《アルマゲドン》という映画がありましたね。頭髪の維持に不自由なおっさんが活躍する無茶苦茶なストーリー展開が楽しいお笑いSF超大作映画でした。今回の《2007》は基本的な物語展開はそのままにして,頭髪でなく体重管理に不自由なメタボおやじが活躍するというところがちょっと本家と違っております。でも一番違うのは,予算が恐らく本家の1/100以下と思われる点です。そのため,CGもひどけりゃ,登場人物もやけに少ないという悲惨な状況になっております。「内容はないけどスケールだけは大きいもんね」という本系の唯一の取り柄がなくなり,ただただこじんまりとしたSFパニック映画になってしまいました。このあたり,やはりアルバトロスの映画だな,といい意味で期待を裏切りません。

 ストーリーを要約すると,巨大小惑星が月にぶつかって月に亀裂が入り,破片が地球に雨あられと降り注いできて,人類存亡の危機が訪れるんだけど,そこにビル解体業者(ビル破壊のプロ)がスペースシャトルに乗り込んで,亀裂を溶接しちゃうんだ,という脳みそが腸捻転を起こしたような素敵なお話です。突っ込めないところが一つもないという,ツッコミマニアにはたまらないクズ映画でございますので,ストーリーを追っていきながらツッコミを入れていきます。


 まず,小惑星とおぼしき天体が飛んできたかと思うと,いきなり月の裏側にに衝突! 衝撃波が月全体を震わせ,無数の破片が舞い上がります。面白い映画かも,と観客を騙してくれます。

 場面変わって地球。女性天文学者が月の画像を分析し,なにやら深刻な表情です。もちろん,この映画のヒロインちゃんです。

 場面変わって,ビルの解体現場です。爆破のプロを自認する太めのおっさんが登場。もちろん,この映画のヒーロー役です。この時点で,このおっさんが宇宙に行って地球の危機を防ぐのだなと今後の展開が完璧に読めてしまいます。解体現場のおっさん,爆破スイッチを押しますが,ビルの上の階が爆発しただけでビルは崩れませせん。どうやら爆薬に不具合があった模様です。おっさん,ビルに入り不具合のあった9階に急ぎ,爆薬を設置。ここで起爆装置にスイッチが入ってしまい,止められません。おまけにおっさんは,解体予定のビルをねぐらにしていた浮浪者さんを見つけます。浮浪者さんと爆破おっさん,階段を走り降ります。そこで爆薬が爆発しビルは崩れ落ちます。もちろん,爆破おっさんは涼しい顔をして登場。さすがはヒーローです。


 一方,アメリカ宇宙局(?)はとんでもないデータを手にします。小惑星衝突のショックで月の軌道が変わり,それが地球に影響を及ぼして地球は氷河期に入るんだそうです。このあたりの説明,全然理解できませんが,解ったフリをして先を急ぎましょう。するといきなり,アメリカのどっかの町を巨大隕石が直撃します。いかにも安っぽいCGでビル倒壊の様子が映し出されます。

 すると,ヒロインの天文学者ちゃんの元にとんでもないデータが届きます。さっき降ってきたのは隕石でなく月の破片だったのです。なんと,小惑星の衝突で月の裏側に巨大な亀裂が入り,飛び散った破片が月でなく地球の引力に引かれて飛んできたのだそうです。どう考えても,月の近傍なのだから地球の引力より月の引力の方が格段に強く(何しろ引力は距離の二乗に比例して弱くなりますからね),月の破片は地球でなく月に引かれるはずですが,ここは気がつかないフリをして先を急ぎます。

 ここで天文学者ちゃんのお父さん(数年前に死んでいる)の理論が登場します。お父さんの説によると月の核は巨大な鉄の塊で,月は非常に硬い天体なんだそうです。しかも,月に巨大小惑星が衝突すると月が割れてしまう可能性についても予言していたのです。もちろん,ムチャクチャ珍説でして,このためこのお父ちゃんは学会を追放されてしまったのもむべなるかなという感じです。とは言っても,娘@天文学者ちゃんにとっては,亡き父の考えの正しさを証明する千載一遇のチャンスとなるわけでございます。

 ここで誰しも,リアルタイムの月の裏側の映像はどこの誰が撮影しているんだよ,とか,月を常時監視する衛星でも打ち上げていたのかよ,と疑問を持ちますが,忘れたフリをして先を急ぎましょう。何しろ地球が大変な状態ですから。


 でもって,アメリカ宇宙局(?)では地球を救うためには,それ以上月が割れないように亀裂をくっつければいいんだ,ということになります。そこで出た結論は「核爆弾を亀裂の底で爆発させ,熱で月の割れ目を溶接する」というアハハな方法です。さすがアメリカ人,核を使うのが大好きです。アメリカンな人々は「核兵器の熱で月を溶接」で納得するんでしょうが,アメリカンでない私らは「割れかけている月で核爆弾が破裂したらもっと割れちゃうんじゃないっすか?」と疑問に思いますが,何しろ,三度の飯より核兵器の利用が大好きなアメリカンですから,ここは無理矢理にでも納得し,先を急ぐとしましょう。

 そして爆破おっさんは次の解体現場でお仕事にかかろうとしますが,その前のところで,おっさんは奥さんを数年前に亡くしたばかりであることがわかります。ちなみにおっさんの同僚の若い女性は杉本彩さんにちょっと似ています。そんな解体現場に男数人が現れ,爆破おっさんに「一緒に来てくれ。大統領命令だ」と告げます。おっさん,アメリカ宇宙局に連行・・・じゃなくて,招聘されます。月の割れ目のどこを爆破したら亀裂がくっつくか,爆破のプロとして助言が欲しいのだそうです。この時点では天文学者ちゃんは「あなたが月にいく必要はないわ」と言っておりますが,もちろん,嘘であることはミエミエですね。

 そこで,大統領直属の嫌み男が登場し,亀裂爆破接着計画はうまく行くわけないと非難します。嫌みな奴ですが,「爆破してくっつけ」ようとする連中よりは余程まともなやつじゃん,という気がします。するとなぜか,爆破おっさんが「爆破してくっつけるより,月に磁気を発生させたら破片がくっついて元通りじゃん」,というさらにおバカな発案をします。おっさん,頭に虫が湧いているのでしょうか? するとなぜか,天文学者ちゃんが大賛成(亡き父の「月は鉄の塊」説があるからなんだよ。いわゆる一つの伏線,ってやつだぞ)。あんなに熱心に討論していた爆破溶接計画をすっかり忘れちゃったようです。もちろん,嫌み男は大反対。ちなみに,天文学者ちゃんの直属の上司は黙って話を聞くばかりです。どうやらこのアメリカ宇宙局は指揮命令系統がムチャクチャになっております。


 で,なぜか爆破おっさんが思いつきで話したはずの磁気発生装置がアメリカ宇宙局に置いてあるんですよ。嫌み男がいなくなったため,天文学者ちゃんの上司は「じゃあ,俺たちで磁気発生作戦を進めよう」と言い出します。指揮命令系統がますます混乱しております。ところがこの磁気発生装置を動かすためにはプルトニウムで爆破させる必要があるらしく(何でそうなるのか,私に聞かないで下さい),やはり爆破のプロが現場にいないとダメだわ,ということになり,爆破おっさんは月へのスペースシャトルに乗り込むことになります。しかも打ち上げは数時間後! 訓練なしにメタボおっさんが宇宙船に乗り込むことになります。

 というわけで,おっさんと二人の宇宙飛行士がシャトルに向かいます。とは言っても,そこらのオフィスの中みたいな安っぽいセットを宇宙服で歩くだけなので,笑いを取ります。何が何でもこの3人で宇宙に行くのは無理だろう,と誰しも思いますが,何しろセットとCGと人件費を節約するのが至上命令の映画ですから,ツッコまないで下さい。ちなみにこのスペースシャトルには新開発の核エンジンというのを2基搭載しております。本当は一つでいいのに二つ積み込んでいるんですが,いわゆる一つの伏線ってやつです。


 というわけで,ロケット打ち上げのカウントダウンが始まりますが,月の位置異常による(?)異常気象のため巨大ハリケーンが発生し,シャトルはハリケーンの強風でガタガタ揺れます。非常警報装置が真っ赤に点滅を繰り返しています。おまけに管制室の中は停電です。でも,ハリケーンくらいで打ち上げ中止なんてアメリカンの辞書にはありません。嵐の中で無事に打ち上げられます。ちなみに,打ち上げ直前に嫌み男の命令で磁気発生装置でなく核爆弾が搭載されております。核爆弾なんてダメだと言ったり,磁気発生装置でなく核爆弾を詰め込めと言ったり,こういう上司がいると下っ端は苦労しますね。

 月に急ぐため,核エンジンにスイッチが入ります。しかし,月に近づくと無数の月の破片が襲ってきます。何で事前に破片のある位置を調べないんだよ,探知器とか積んでないの,と誰しもツッコミを入れたくなりますが,ここはグッと我慢だよ。女性飛行士,抜群のテクニックで破片をすり抜けていきます。へっぽこテレビゲームを見ているような気分になりますが,ここもグッと我慢の子です。

 そうこうしているうちに,アメリカ宇宙局(?)の管制室に杉本彩ちゃんが登場。爆破おっさんに頼まれた「ビルを直撃した月の破片」を持ってきて天文学者ちゃんと彼女の同僚の葉加瀬太郎さんみたいな研究員に渡します。月の成分を分析するためです。そして,無線を通じて爆破おっさんと杉本彩がたわいのない会話をします。禿おっさんが活躍する方の《アルマゲドン》のシーンを忠実になぞっているだけの無駄会話シーンでございます。


 すると,シャトルの中で大きな音がし,警報が鳴りまくります。なんと,核爆弾の留め具がはずれております。低予算にするために100円ショップで見つけてきた Maid in China の留め具だったのかもしれません。留め具を直そうともう一人の男性飛行士が見に行きますが,シャトルの揺れで足を滑られて頭部を強打。怪我をするためにシャトルに乗り込んだ人物のようです。

 一方,アメリカ宇宙局では月の成分の分析が終了し,天文学者ちゃんのお父さんの予言通り,月の核は鉄とウランからできていてすごく硬いことが判明します。すると,核爆弾では亀裂を埋めるほどの熱が発生しないことがわかっちゃうのですよ。オイオイ,どうするんだよ。でも大丈夫。鉄が豊富ですから月を磁石にできるはずです。でも,磁気発生装置は積んでないじゃん。誰だ,時期発生装置を積むなっていったのは!

 すると,さっきの葉加瀬太郎さん(だったかな?)が「核爆弾とシャトル内の部品を組み合わせると磁気発生装置が作れる」と言い出します。ナイス,葉加瀬太郎! でも,乗組員の一人は操縦係,もう一人は頭部外傷で横になっていますから,組立係は爆破おっさんしかいません。おっさん,地球からの無線を頼りに核爆弾を解体したり,シャトル内のあちこちを開けたりして部品を取り出したりして,配線をニッパーで切っては繋げます。さすがは爆破のプロ,核爆弾の解体だってできるのですよ。

 でも,シャトルの中のことを知らないおっさんですから,作業に手間取っています。すると,さっきまで意識のなかった乗組員がなぜか目を覚まし,「手伝ってやるぜ」と言います。このお兄さんは一言を言うためにスペースシャトルに乗り込んだ模様です。そして,手作り磁気発生装置が完成。あまりのお手軽展開に,もうツッコむ気も起きません。


 ところが一難去ってまた一難。せっかく作った磁気発生装置なのに出力が足りないのです。オイオイ,なぜ作る前にしっかり計算しとかないのかなぁ,君たちは。さっきからその繰り返しじゃないですか。

 でも大丈夫。さっき,核エンジンは1基でいいのに2基積んでいる,って言いましたよね。そうです,予備の核エンジンを利用すればいいんですよ。というわけで,ニューバージョンの磁気発生装置が完成し,あとは仕掛けるだけです。爆破おっさんは爆破のプロの知識を生かして,装置をセットする位置を経験から割り出します。もちろん,月の亀裂の奥にセットしなければいけないのはお約束ってやつです。シャトルが割れ目に入ります。割れ目の幅はシャトルの横幅ギリギリです。手に汗握るシーンです。

 でも,待てよ・・・。地球に届いていた画像データでは,月の半分にも及ぶ長大で広い巨大亀裂だったんじゃないの? それがなぜ,幅15メートル程度に縮んじゃうの? 亀裂が自然に治ったんじゃないか? そういう心の声をグッとこらえるのが,大人の知恵ってやつですぞ。我慢,我慢。

 何とか磁気発生装置をセットし,亀裂の壁の崩壊をくぐり抜け(テレビゲームのようなお姉さんの操縦テクニックをまた楽しめます),あとはスイッチを押すだけですが,爆破おっさん,なかなか押しません。シャトルの操縦士も地球の管制室のみんなも「早く押せよ,このおっさん」と気が気でありませんが,さすがは爆破のプロ,ためにためてスイッチオン。月に磁気が発生し,地球を目指して飛んでいた破片まで吸い寄せ,破片は無事に亀裂に戻り,月崩壊はすんでのところでくい止められます。地球の引力に月の磁力が勝っております。どんだけ強いんだ,月の磁力って。


 そして最後の場面は天文学者ちゃんのオフィス。亡き父の学説が認められ,宇宙局に復帰できた模様です。そこに爆破おっさんが登場。何か話したかと思うと,いきなり二人はブチュー! なぜかこの二人,カップリング反応を起こしていて,二人でバカンスに行こうね,なんて相談をしとります。これだからアメリカ人は油断も隙もありませんなぁ・・・と苦々しく思っていたら,今度は杉本彩ちゃんと葉加瀬太郎さんがやってきて,こいつらもクロス・カップリング反応! これだからアメリカ人は油断も隙もありませんなぁ。


 ちなみに,2010年のノーベル化学賞はパラジウムを使ったクロスカップリング反応の発見者3名が受賞しましたが,「男性2名以上,女性2名以上が登場するアメリカ映画では映画のラストシーンでカップルが二つ以上誕生する」という現象が映画ツッコミ・ファンの間で知られていて,こちらはクロス・カップリング反応と呼ばれています。ちなみに,こちらの方の触媒はパラジウムではなく大災害のようです。

(2011/01/02)

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