《人生は、時々晴れ "All or Nothing"★★★★★(2002年,イギリス/フランス)


 重くて,辛くて,心にのしかかってくるような映画である。そして,その暗さと辛さがもろにリアルなのである(とりわけ,中年以降の人間には・・・)。そのあまりのリアルさに目を背けたくなり,自分自身の心の傷口にナイフが容赦なく突き立てられるようなシーンの連続に,もう見るのを止めようかと何度も思った。だが,あまりに真摯な映像は途中で止めるのを許さなかった。そして何より,映画監督がこの解決の糸口さえ見つけられないどん詰まり人生にどのような回答を出すのか,それが知りたった。

 そして、最後まで我慢して見てよかった。そんな映画である。


 舞台は現代イギリスのアパート。登場するのはここに住む3家族とそれを取り巻く人々。裕福ではなく,なんとかギリギリの生活を送っている人々である。中心となるのはタクシー運転手のフィル(ティモシー・スポール)。彼は妻と子供2人と暮らしている。フィルは早起きが苦手で仕事もサボりがち,もちろん稼ぎはよくない。妻のベニー(レスリー・マンヴィル)はスーパーのレジ係として働いているが,家事と仕事に押し潰されそうだ。娘のレイチェル(アリソン・ガーランド)は老人ホームの掃除婦の職についているが,肥満体型で魅力もなく,恋人もいない。仕事から帰ってくると部屋で本を読むしか楽しみはない。息子のローリー(ジェームズ・コーデン)は仕事につかず一日ゴロゴロしていて,いつも親に文句ばかり言っている。そして,アパートの中庭では年下の男の子からもデブ,デブと馬鹿にされている。

 ベニーと同じスーパーで働く同僚女性2人にも家庭はあるが,それぞれ悩みをかかえている。一人の娘はしょうもないチンピラと付き合っているし,もう一人の同僚はアルコール依存症らしく,彼女の娘も鬱屈した生活を送っている。

 そんなある日,ローリーが心臓発作で倒れてしまう。アパートの住人がそれを見て救急車を呼び,ベニーに連絡が入るが,肝心の父親のフィルは携帯電話もタクシーの無線も切っていて連絡がつかない。フィルはすべてに嫌気がさして携帯電話などの電源を切り,発作的にタクシーを海に走らせていたのだった。

 その頃ベニーは医師から「生まれつきの心臓病があり治療法はない。一生,薬を飲まなければいけないが,それで一生を過ごせるはずだ」と告げられる。ようやくその頃,フィルのタクシーの無線のスイッチが入り,彼も病院に駆けつけるがフィルには何もすることがない。ローリーはそのまま入院となり,フィルとベニーは自宅に戻るが,子供の重病の時に連絡もつかないフィルに対し,妻の怒りが爆発する。そして,妻の罵声を浴び続けるフィルはようやく重い口を開き・・・という映画である。


 はっきり言えば,40歳以下の人は見てもつまらない映画だと思うし,なぜこんな映画を作ったのかがよくわからないのではないかと思う。しかし,40代半ば以降の人間にとっては痛切で容赦無い映画なのである。若い頃は人生を自分の力で切り開いていけると信じているが,ある時期を過ぎるとそれが幻想ではないかと見えてくる。だがそれでも,毎日暮らしていくしかない。悩んでいても,生きて行くためにはとりあえず食事だけはしないといけない。
 そんな生活で,心の底に色々なものが澱(おり)のように澱み,溜まっていく。


 この映画の登場人物に共通しているものがある。笑顔がないのだ。笑っているのはフィルのタクシーに乗る(一部の)乗客だけだ。特にフィルの一家の食事風景は殺伐としている。一家の間に会話がないではないが寒々としている。フィルは毎日の生活に心が空っぽになっているし,ベニーは家計のやりくりと家事に押し潰されそうでカラカラに干からびているようだ。レイチェルは友達もなく,老人ホームで働く同僚の初老の男が話しかけてくるだけだ。この男は明らかに恋人のいないレイチェルの身体目当てで声をかけてくる。そんな自分の父親より年長の男しか言い寄ってくる男しかいないことにレイチェルは苛立っているが,そういう現実を変えていこうという意欲も意志もない。彼女はただただ,苛立っているだけだ。そんな一家の中で,ローリーだけが家族に不満を爆発させるが,その爆発は何も生まず、現実も変わらない。

 そしてローリーの入院を機会にフィルにベニーが怒りを爆発させ,二人の長大な会話シーンになる。中年以上の人間にはフィルのセリフが一言一言,胸にしみるはずだ。フィル,そしてベニーに共通しているのは「一人,世の中から取り残され,忘れ去られている」という不安なのだ。
 それに対し,フィルがどういう言葉を語るかはぜひこの映画を見て欲しい。そしてその言葉にベニーがどう応えるかを見て欲しい。辛く,重い言葉が観客の胸に直接刺さってくるが,この映画の白眉とも言うべき迫真の会話劇である。

 ここまでリアルに観客の心の中に土足で踏み込むように現実を追求し,どこにも逃げ場がないような問題を取り上げている映画を見ていると,見ている方が不安になってしまう。この映画監督が安易な解決に逃げないだろうこと,そして、アメリカ映画的な安直な「家族の崩壊と再生物語」にはしないであろうことが観客に伝わっているからだ。もしかしたらこの映画はこのまま,絶望の中で終わってしまうのではないかと心配になってくる。そんな中で,この映画のラストシーンは一抹の希望と明るさを感じさせるものとしている(唯一,娘のレイチェルに最後まで笑顔がないのが気掛かりだが・・・)。恐らくこれしか結末のつけ方はないだろうという見事な結末だと思う。


 この映画にはこれ以上余計な解説は書かない。中年以上の人間だけ,そっと独りで見て欲しい。若い連中はおよびじゃないよ,という映画があったっていいじゃないか。

(2011/01/03)

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