《シティ・オン・ファイアー "Scorched"★★★(2008年,オーストラリア)


 2012年のオーストラリアを舞台にした良質なパニック映画。有名な俳優は出ていないし、山火事の様子は実際の山火事の映像を使っていてCGは一切使用していません。テレビ向けの映画として作成されたものらしく、ハリウッドの火災パニック映画に比べると地味地味ですが、ハリウッドの同種の映画に比べると格段に優れています。極めてリアルにオーストラリアにおける火災の恐ろしさが描かれているからです。演出にはハッタリもケレン味もないし、超人的・英雄的に活躍する消防士も登場しませんが、大火災に巻き込まれて右往左往する住民たちや、絶望的な状況でも仕事を続けていく消防士や医師の姿が等身大の人間として描かれています。

 劇場公開用の娯楽作品というより、恐らく、近未来のオーストラリアでさらに乾燥化が進み、水不足に対して的確な対策が取れなかったらこの地で何が起こるのかというシミュレーションを映画作品にしたという作品なのかもしれません。


 舞台は2012年のクリスマス(つまりオーストラリアの真夏である)を迎えようとしているシドニーとその郊外。ここでは240日以上雨が降らず、水不足が次第に進行していて水泥棒(水を盗んで工場やプール付きの家を持つ金持ちに水を密売する)事件が多発していた。そして、テレビのキャスター、スーザンは水不足に関わる問題をたびたび取り上げていた。

 そんな中、山で落雷があり、山火事が発生する。直ちに消防隊が出動し、延焼を食い止めるために必死の活動をしているが、肝心の消火用水がまるで足りていない。オーストラリアでは大規模な脱塩プラントが建設されていて、海水から真水を作っているはずなのに、消火栓の水圧は半分もないのだ。そして、最前線で作業する消防士たちにも火の手が迫り、一人、また一人と犠牲者が増えていく。

 消防局の司令ラングモアは絶望的な状況の中で次々と手を打っていくが、火災現場に海からの強い風が吹き込み、さらに火の手が強まっていく。

 一方、近くの病院の救急室で働く男性医師。彼は妊娠中の妻と二人の幼い子供がいるが、別れた妻と一緒に暮らしているはずの娘が母親と喧嘩して家を飛び出して家に来たばかりだ。そして彼は病院から呼び出しを受ける。救急室は山火事の煙を吸って呼吸器症状が悪化した患者で一杯だった。なおも患者は押し寄せ、ベッドすらない状態になるが、その頃、自宅にも炎が迫ってきて、避難勧告が出され、身重の妻は子供たちを連れて避難を始める。

 消防司令のラングモアは水道の供給状況を調べるが、火事が広がる南西部で水道管が空なのに、北東部の年には潤沢な水が供給されていることに気がつく。そして同じ頃、病院で取材するスーザンはふとしたことから州総督が脱塩プラントで作られた真水の供給を操作していることを知り・・・という映画である。


 この映画では3組の人間の目を通して迫りくる山火事の様子が同時並行的に描かれていますが、三者ともに炎との距離が近く、その恐ろしさは半端ではありません。何しろ、8ヶ月間、雨は一滴も降っていないため、湿度18%というカラカラ状態です(ちなみに、冬の東京の平均相対湿度は40%前後ですからハンパでなく乾いています)。まさに枯れ木の山に火を放ったように炎は恐ろしい勢いで広がっていきます。そして、その火災の様子は実際の山火事の映像を使っているようで、小賢しいCGではありません。だから、本物だけが持つ迫力、現場で人間が感じる恐怖がストレートに伝わってきます。

 同時に、迫り来る炎に対し、自分の家は自分で守ると言い張る人もいれば、避難しようにも車がない人もいるし、大切な荷物を選ぶのに手間取る人もいます。大災害を前にしても、人間は百人百様の反応・行動をする様子が描かれていて極めてリアルです。

 住民避難が終わり、無人となった町でスーザンが取材するシーンがあります。バックに選んだのは化学プラント工場です。この時点で彼女に死亡フラッグ立ちまくりです。万一、化学プラントで爆発事故が起きると火災だけでなく有毒ガスが発生する確率が高いからです。案の定、工場で爆発事故が起きて彼女は有毒ガスに巻き込まれます。危険を承知で災害現場に行こうとする彼女の記者魂はわかりますが、余りに愚かです。だから、彼女の死は全く意味がなく、救いようのない死です。もちろん,「化学プラント工場なんて危ないよ」とアドバイスを受けても、それで行くのを止めるようなスーザンじゃないですから仕方なかったと思いますが・・・。


 以前、水問題についての本を紹介しました。青い惑星と呼ばれている地球は宇宙からみると満々たる水に包まれていますが、その大半は海水であり、飲用できる淡水は地球の水のわずか0.5%程度と言われています。

 現在、アメリカもオーストラリアも大農業国であり農産物の輸出大国(同国の商品輸出額の20%を農産物が占めている)ですが、これは地下水をふんだんに汲み上げたから可能になったものです。アメリカの大穀倉地帯はもともと乾燥した不毛の大地でしたが、地下水を汲み上げる技術の発達とともに大穀倉地帯に生まれ変わりました。「乾燥した不毛の大地」には常に太陽の光が降り注いでいるため、ここに水さえあれば植物の光合成に最適な大地になったからです。

 オーストラリア大陸は「最も乾燥した大陸」と呼ばれていて,平均降水量は年間460mm足らずです(ちなみに地球全体の平均降水量は920mm)。大陸の東部高地は雨が多いようですが西側は乾燥地帯です。しかし,東側に降った雨が地下水として蓄えられていて,これを利用できたために農業国に変身できたわけです。いわば,地下水が無尽蔵にあることを前提に作られた農業大国と言えます。

 しかし、地下水は無尽蔵ではありませんでした。降った雨が地下水となるのに長い時間(数百年というデータもあったと思う)が必要だったからです。このため、地下水を汲み上げて灌漑を行った地域ではどこも、地下水の水位が著明に低下し、すでに枯渇しているところすらあるようです。そして、いったん低下した地下水の水位が元に戻るのには恐らく数百年から1000年という途方もない時間が必要らしいです。


 現時点ではっきりしているのは、地球上に存在する淡水では、70億にも膨れ上がった人類の喉を潤し、耕作を維持するのに必要な量には不足しているということです。この映画では、選挙に勝つための資金提供をした会社に優先的に脱塩水を融通した女性州総督が悪役でしたが、彼女のような悪人がいなくても、近い将来、淡水は不足するはずです。

 そういう意味で、この映画は来るべき地球のもっとも恐ろしいシミュレーションなのかもしれません。

(2011/01/07)

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