新しい創傷治療:デジャヴ

《デジャヴ》★★★(2006年,アメリカ)


 本格的傑作サスペンス映画という評価の高い作品なんですが,わたし的にはちょっと・・・という感じでした。冒頭のフェリー爆破事件で骨太の本格サスペンス映画かと思わせておいて,いきなりタイムトラベルもの,SFモードになっちゃうんだもの。いきなりあの装置が出てきた時,私は力が抜けちゃいましたよ。こんな手段が使えるなら何でもありじゃん。タイムトラベル(4日前の様子が見られ物質も人間も転送できる)が使えるんじゃ,推理もクソもないわけですよ。

 さすがにそれだけじゃまずいよね,本格映画にならないよね,というわけで,「4日と6時間前」の光景が見られるだけで早送りも巻き戻しもできず(でも,録画はできちゃう),見られるのも1カ所だけで複数箇所の出来事は見られない,という制限をかけちゃったんでしょうが,泥縄的でお粗末すぎます。しかも,4日と6時間という中途半端な数字にも全く必然性はないわけだし・・・。おまけに,なぜタイムトンネルができちゃったのかという部分の説明は紙を折って説明するだけでおしまいだし,物質転送のメカニズムは全く説明なし。研究の途中に偶然にワームホールが開いちゃってね,というのはいいとしても,それを利用して人間を4日前の世界に転送できちゃうというのはオイオイ,という感じです。それならそうで,舞台をもうちょっと先の例えば23世紀くらいに設定してくれないと困るんだよね。

 しかも最後の場面では,一人の人間が同じ場所に二人存在しているわけで(少なくとも私にはそう見えます),タイムトラベルSFなら絶対に犯してならないパラドックスを無造作に無視しています。さすがにこれはムチャクチャですよ。映画を作った側は「俺たちは愛とサスペンスの本格派映画を作っただけでSF映画のつもりは毛頭ないんだ。だから,SF映画として観てもらっても困るんだよね」というつもりなのかもしれないけど,それは映画を作る方の勝手な言い分に過ぎず,見ている方はそれで納得しろと言われても困るのだよ。


 というわけで,ストーリーはこんな感じ。

 舞台は現代アメリカ。543人の犠牲者を出したフェリーの沈没事故が起こる。当初それは事故と思われていたが,AFT捜査官のダグ・カーリン(デンゼル・ワシントン)はそれが巧妙に仕組まれた爆破事故であることを見抜く。そしてダグの元に奇妙な死体があるという情報が届く。若い女性クレアの死体でフェリー事故の犠牲者と同じ状態だったが,死亡時刻はフェリー事故の2時間前だった。ダグはクレアがそのフェリー事故に関係があると推理する。

 そしてFBIも捜査に乗り出し,ダグの的確な判断と捜査能力を評価し,彼を極秘機関に招き入れる。そこでダグはスクリーンに4日前の映像を見る。FBIは当初それを,「衛星画像を組み合わせて過去の映像を見られる装置だ。画像処理に莫大な時間がかかるために4日と6時間前の画像しか見られず,早送りも巻き戻しもできない」と説明する。しかし,些細な矛盾点からそれが4日前に起きていることをリアルタイムに覗けるモニターであることをダグは見抜く。それは過去を覗けるマシンだった。

 事件解決の唯一の手がかりはクレアだった。4日前のクレアの日常生活を監視するうちにおかしな電話が入っていることがわかり,彼女が拉致されてフェリー事故の犠牲者に擬せられて焼き殺され,彼女の車に爆弾をセットしてフェリーに積み込まれたとダグは推理する。ダグは爆弾テロリストの爆破を阻止し,クレアを助けられるだろうか・・・という映画でございます。


 冒頭の水兵とその家族たちがフェリーに乗り込み,フェリーが出航するシーンはいいです。十分に金をかけていて重厚で,安っぽさは微塵もありません。そして,その後の爆破シーンもすごいです。爆破で船外に投げ出される人たち,水中に叩きつけられる乗客たちの姿がリアルに描き出されていて,海を舞台にしたパニック映画として水準以上のものです。そして,その後のデンゼル・ワシントンの登場の仕方も格好よくて完璧です。

 そして,死体のクレアも美しいです。そしてそれに輪をかけて,スクリーン上の映し出される4日前の彼女の姿がこれまた魅力的です。FBIの監視官たちが彼女のシャワーシーンに目が釘付けになるのもわかるし,ダグが一目惚れするのも理解できます。


 と,いいのはここまでです。ワームホールでのクレアの生活の監視って,要するに単なる覗きでしかありません。下着姿だろうが裸だろうが覗き放題です。おまけに,彼女の生活を覗き見する根拠はダグの「手がかりはクレアしかいない」という強引な推理(・・・というか単なる直感だな)しかありません。FBIならもうちょっと多角的に証拠を集めて欲しいものです。

 途中の見せ場ともいうべき「4日前が見られるゴーグル」をつけてのカーチェイス・シーンもなんだかなぁ・・・。何しろダグの目の前には現実の高速道路と,スコープに映し出される4日前の同じ道路の状態が同時に見えているんですぜ。これで事故が起こらない訳がないよな,と思っていたら,案の定,事故が起こりまくりです。4日後のテロを未然に防ぐため,と言ったって,こんな多重事故を起こしたらダメでしょうが。常識的に考えれば,ダグの運転する車(FBI捜査官の車でしたよね)のナンバーが高速道路の監視カメラに記録されていて,FBI捜査官が逮捕され・・・となるはずじゃないでしょうか。不自然にもほどがありますね。

 それと,タイムトラベル映画や小説では「過去に改変を加えたらその後の世界はどうなるのか?」は常に大問題ですが,このあたりについての説明も適当すぎます。途中までは,メモ用紙1枚を4日前に送ったくらいではダグの同僚の死は避けられない,と言っていたのに,その後になるとなぜかフェリー事故は未然に防げます。このあたりの矛盾点について,この映画の作り手は全く考えていないようです。


 確かに,それまで小出しにされていたダグやクレアにまつわる幾つかの謎(例:クレアの部屋にダグの指紋が残っていた。クレアの部屋のゴミ箱などに血痕が残されていたなど)は後半にすべて解決され,それはそれで良心的といえますが,これらはいわばどうでもいいようなコネタであり,それより大きな問題(例:タイムトラベルにおけるパラドックス問題)はまったく解決されていませんし,これらは作り手側にとってはどうでもいい感じです。せめて,最後の場面での「ダグが二人いる」問題だけはきちんと説明してくれないと,サスペンスファンは納得してもSFファンは納得できないと思います。それなしにあの結末に感動しろと言われても困るんだよね。

 それと,4日前のスクリーン上のクレアにレーザーポインターを当ててクレアがそれに気付くというシーンも,これが「あり」だったら,途中でテロリストの目にレーザーを当てて視力を一時的に失わせてテロを阻止することが可能なはずです。というか,ダグ君,なんでこれに気がつかない!


 と言うわけで,一般的には評判のいい映画なんですが,私はこういう「基本設定部分が粗雑な映画」はダメです。もうちょっと基本的な部分をしっかり作ってくれないと楽しもうにも楽しめません。そういうのが気にならない人にだけ,オススメ映画としておきます。

(2011/01/14)

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