新しい創傷治療:凶悪海域 シャーク・スウォーム
《凶悪海域 シャーク・スウォーム 'Shark Swarm'》★★(2008年,アメリカ)
恐らく、前代未聞の鮫パニック映画です。こんな鮫パニック映画、私は観たことがありません。何がスゴいかというと、160分という前代未聞の長さです。普通、動物パニック映画ってのは長くて100分と相場が決まっています。なぜその程度の長さかというと、動物パニック映画というやつはストーリーが単純なので長くならないからです。
たとえば鮫パニック映画の場合、〔海岸の町でリゾート開発の話が持ち上がる〕⇒〔最初の犠牲者が鮫に喰われる(イチャイチャしているカップルが最初の犠牲者、というのが定石だな)〕⇒〔ヒーロー(ヒロイン)はその計画に「自然を破壊するのは許されない」とか言って反対〕⇒〔鮫の犠牲者が発見され大騒ぎ〕⇒〔開発会社の社長は開発計画と鮫は無関係と宣伝〕⇒〔ヒーロー(ヒロイン)は危険が迫っていると警告するが誰も聞く耳持たず〕⇒〔地元のお祭り〕⇒〔そこに鮫がやってきてお食事タイム〕⇒〔ヒーロー(ヒロイン)が鮫退治〕⇒・・・という、判で押したようなストーリーなので、手際よく編集した映画なら80分で収まるわけです。
それをなんとこの映画は、ハリウッド超大作歴史絵巻映画級の160分にしちゃったのです。しかも、160分に引き延ばすために余計なエピソードと余計な登場人物と、余計なエピソード(家族愛、多彩な恋愛)を詰め込めるだけ詰め込んだのです。その結果、パニック映画としては超ツマラナくなり、ストーリーのテンポは悪く、最後まで観続けるのがこんなにシンドい映画も久しぶり、という悲惨な映画になっちゃいました。
おまけに、どうやらテレビ向けに作られた映画らしく、前編80分、後編80分を繋げ、コマーシャルが入る部分は黒くフェイドアウトして場面転換となります。それが延々と160分間ですぜ。まさに、忍耐力が試される映画です。
ちなみに、このDVDジャケットのようなステキな場面は全くありません。
ストーリーはこんな感じ。
舞台はカリフォルニアのどっかの湾に面した田舎の港町。かつて漁業で潤っていましたが、最近、魚が全く穫れなくなり、住民は皆困っています。そして、この町をリゾート開発してリゾートマンションを作ろうとしている企業があり、住民たちの土地を高額で買い取っていて、既に多くの住民たちが土地の権利を売り払っている模様です。
しかし、実はこの会社は漁業を成り立たなくするために海に廃棄物(?)をまき散らして死の海にして漁業を壊滅させ、漁民たちを追い払おうとしていたのです。
しかし、その廃棄物のために鮫は巨大化・凶暴化し、おまけに魚もいなくなったため、次々と人を襲い始め、犠牲者が増えていきます。
海の異変に気がついた一人の漁師が立ち上がり、海洋生物学者の弟の協力を得て、悪徳企業の悪巧みを阻止しようとしますが・・・というナイスなお話でございます。
こんな単純な話をですね、どうやったら160分映画に引き延ばせるか、そちらの方が不思議でしょう? それをやっちまった訳ですよ、この映画は・・・。まぁ、こんなクズ映画を見る人はいないだろうと思いますが、念のために順不同でツッコミを入れときますね。
- 冒頭から鮫君の大群が楽しませてくれますが、よく見るとシュモクザメとヨシキリザメ、その他のサメが仲良く並んで泳いでいます。ヨシキリザメは群を作らないはずじゃ?・・・なんていう無粋なツッコミを入れないように。
- 冒頭から鮫君たちは次々に人を襲います。もしかしたら、鮫映画史上、鮫による犠牲者が最も多い映画かもしれません。それなのに、住民は誰一人として騒ぎません。普通なら「うちの娘が海に行ったきり帰ってこない」とか「父ちゃんが漁から帰ってこない」とか、大騒ぎになるはずなのにニュースにもならず、誰も気がつきません。これだけ犠牲者が出ているのに、テレビも新聞も取り上げないのはすごく不自然です。もしかしたら、天涯孤独な人だけ選択的に鮫君たちが食べていたのかもしれません。
- このため、何人犠牲者が出ても主人公を取り巻く状況は変わらない、というパニック映画らしからぬ展開が延々と続きます。要するに全く物語に絡まない無駄死に、ってやつです。もちろん、160分映画にするための時間稼ぎなんでしょうけどね。
- しかも、悪徳リゾート会社の下請け(?)社員も鮫に喰われて行方不明になっているのに、同僚たちは誰も気がつきません。なんておおらかな会社なんでしょうか。
- ちなみに、鮫は一部実写、群泳する様子はCGと思われます。同じシーンが使い回されているため、最後の方では飽きてきますが、人間辛抱が肝心だよ。
- テレビ向け映画ですので、人が鮫に喰われるシーンはほとんどありません。水中の人間がバチャバチャしたかと思うと水中に引きずり込まれ、海が赤くなるだけです。小さなお子さんが観ても安心映画です。
- 〔リゾート開発をしたい〕⇒〔そのためには漁師たちの生活が成り立たなければいい〕⇒〔そのためには魚が穫れなくなればいい〕⇒〔そのためには海に有害物質をまき散らせばいい〕・・・って、どんだけ遠回りの遠大な作戦なんでしょうか。
- それにしても、あれだけ広大な湾全体で漁業を壊滅させるのって、ムチャクチャ大変ですよ。どれだけ長期間、寝る間も惜しんで勤勉に毒物をまき散らしたんでしょうか。
- 常識で考えれば、有害物質が海底に沈殿して魚一匹いない湾のリゾートマンションって売れるんでしょうか? スキューバダイビングをしても魚はいないし、釣りをしても小魚一匹釣れない、海からは変な臭いと濁った海水、という海に面したリゾートマンションを買うバカはいないと思います。
- しかも、この会社の悪事がばれて1年後には豊かな漁場に戻るんですよ。「自然破壊、自然破壊と騒いでいるけど、汚染物質を出さなきゃ、すぐに自然なんて元に戻るんだよ、メアリー!」というのがアメリカ人の常識なんでしょうか。
- 主人公の娘さんは17歳という設定ですが、もうちょっとピチピチの美少女ちゃん女優さんを使って欲しかったです。
- 主人公の奥さんはダリル・ハンナです。《キル・ビル》の女殺し屋を演じた人ですが、しばらくみないうちに、こんなに老けちゃったんですね。ちなみに、撮影当時の彼女の実年例は47歳ということですが、47歳というより74歳に近い感じです。
- 鮫は巨大化しているという設定のはずなのに、登場する鮫君たちはすべて普通サイズです。鮫映画なんですから、打ち上げられた鮫の死骸はもっと気合いを入れて作って下さい。
- あのチャチな光線銃みたいなのを当てただけで鮫が逃げてく、ってのもなぁ・・・。一応、「鮫は電流の微妙な変化で餌を探しているが、有毒物質のために脳の電気配線が狂ってしまい、それで普段作らない群で行動している。だから、電流を流せば鮫はいなくなるはずだ」と説明していますが、この説明では群を作らなくなることは説明できますが、逃げていく説明にはなっていない気がします。
- 鮫パニック映画なんですから、鮫の生態を研究する研究者が鮫たちの弱点を研究するとか、そっちの方に時間を使ってほしかったです・・・時間は有り余っている映画ですから・・・。そして、研究の末に鮫に対抗する武器を特注してほしかったです。でないと、必殺武器のありがたみがありません。
- しかも、映画のクライマックスのシーンでは鮫は逃げただけで、巨大化したのが小さくなったわけでもないし、餌になる魚が増えたわけでもありません。となると、逃げた鮫君たちは食べ物がないからまた襲ってくるんじゃないでしょうか。
- 「湾の中の漁業を壊滅させるために有害物質をまき散らす」のはいいとしても、湾の水は外洋の海水とはあまり交流はないはずです。となると、凶暴化・巨大化した鮫は「湾の中で生息している鮫」に限られるはずです。しかし後半、湾の海岸を襲ってくる鮫軍団は衛星画像によると外洋から押し寄せてくるんですよ。何で外洋を回遊している鮫たちまで凶暴化するわけ? 外洋でも魚が一匹もいなくなったの?
- アメリカ映画のお約束と言っても、カップル出来まくりにはゲンナリします。主人公の弟と政府機関の研究者はまだしも、兄弟の母親のおばあちゃんと牧師さんが老老カップルになるのはちょっとなぁ・・・。いくら何でも、お前ら、発情しすぎだよ。
- それにしても、主人公は魚が穫れず、網に掛かった魚の内臓は得体の知れない油まみれ、という証拠をつかんでいるんだから、住民集会でその魚を皆に見せて、「魚が穫れなくなったからリゾート会社に土地を売るのでなく、まずこの得体の知れない油がどこから来ているのかを調べ、以前のような豊かな海を取り戻そう」と訴えるべきですよね。そしてその上で、「実はこの湾に鮫の群がウジャウジャいて・・・」という事実を突きつければ、皆彼の声に耳を傾けたんじゃないでしょうか。その意味でこの主人公、ちょっと頭悪すぎ。戦略なさ過ぎ。
ってなわけで、3時間をドブに捨てたい人にだけオススメできる鮫がウジャウジャ登場するクズ映画でございました。
(2011/01/27)
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