失業中で人生八方塞がりの6人の中年男が,勇気を振り絞って壁を打破しようと奮闘するコメディーにして人間賛歌。1997年公開のイギリス映画で,総制作費350万ドルという低予算ながら,世界中でヒットして収益2億5000万ドルという数字を叩き出したことで有名。
ちなみに "full monty" とは「真っ裸,フルチン」という意味のスラングらしい。ヤケクソの前向きパワーが漲るいい映画である。
舞台は今から十数年前のイギリスの街シェフィールド。1970年代にはイギリス北部の鉄鋼産業の中心地として栄えていたが,今ではその面影はなく,街はすっかり寂れてしまい,男たちは職安通いの毎日だが仕事はなかなか見つからない。
そんな失業者の一人がガス(ロバート・カーライル)だ。彼はバツイチで別れた妻マンディはすでに男とつきあっていたが,ガスが700ポンドの養育費が払えなければ息子のネイサン(ガスと一緒に暮らしている)の親権を奪われてしまうのだ。しかし,仕事は見つからず,ガスは金を工面できそうにもない。
そんな折り,親友のデイヴと歩いていて,街の女たちが男性ストリップに熱狂している様子を見る。裸になって腰を振って踊るだけなら自分にもできるし,100人の客が入れば養育費なんてすぐに払えるはずだ。そして彼はデイヴにストリッパーになろうと持ちかける。そして,かつての同僚ロンパー(苦境で助けてくれる友人が一人もいず,自殺しようとしていた)を助けたことから彼も仲間に引き入れる。
やがて,同様になかなか仕事が見つからないかつての上司ジェラルド(妻に半年前に失業したことを打ち明けられず,それを知らない妻はクレジットで買い物三昧!),ダンス経験のある初老の黒人のホース,踊りはまるでダメだがチンコの大きさにだけは自信のあるガイなどが加わり,男性ストリッパーチームは練習を重ね,それは次第に様になっていく。そしてガスは「やるからには徹底してやろう。"full monty" でいこう!」と計画を明かす。
しかし,メタボ体型のデイヴは裸を見せる自信がなくて練習に来なくなるし,ジェラルドは家財道具は差し押さえられて妻は家を出てしまう。そして,踊りの練習を続ける資金も尽きてしまった。
八方塞がりの彼らが裸になって練習しているところを警察に見つかってしまい,彼らは逮捕されてしまう。しかし,その珍事件が「鉄鋼マンのストリッパー」と新聞に報じられたことからかえって有名になり,200枚の前売り券はすぐに売り切れてしまう。
そして,公演の日を迎え,会場は400人の観客が集まる。そして楽屋にデイヴも姿を見せるが,今度は,ガスが怖じ気ついてしまい,舞台に上がろうとしない。別れた妻のマンディが最前席に陣取っているのを見てしまったからだ。そんな煮え切らない父親の姿に息子のネイサンが怒りを爆発させ・・・という作品である。
まず,失業中の中年のオッサンが,子供と一緒に暮らすために,そして生きていくためにストリッパーに挑戦するという設定がうまい。彼らはイギリスの産業革命から一貫して世界を牽引してきた鉄鋼マンである。当然,仕事に誇りを持っているし,おそらく誰にも負けないスキルを持っている。しかし,その他の国でもやがて鉄鋼業が盛んになり,そうなればイギリスは人件費などの面で太刀打ちできなくなる。そして大量の失業者が生まれる(それにしても,イギリス映画には失業中の元炭鉱労働者や元鉄鋼労働者が主人公とした作品が多い)。しかも,鉄鋼業界そのものが崩壊したようなものだから,鉄鋼マンたちに働き口はない。
とは言っても,働き口が全くないわけではない。パートの仕事ならいくらでもあるし,現にデイヴはスーパーの警備の仕事にありつけている。
しかし,鉄鋼の仕事しかしたことがなく,なおかつ,その仕事に誇りを持っている人間はパートの仕事を見つけることを潔しとしない。特に,会社の管理職だったジェラルドとなると,世間の目はあるし,社会的地位もある。結局,男たちは職安に通ってはブラブラすることになる。当然,子供の養育費を払うどころではないし,パートで家計を支える妻にも遠慮がちだ。
一方,女たちは元気だ。パートの仕事をして家計を支え,男性ストリップを見て大騒ぎとエネルギッシュだ。
だからこそ,ガスは男性ストリッパーになって一発逆転を狙うのだ。そう考えると,男性がストリッパーになるというこの映画の設定は,男女の性差の本質とかジェンダーという問題を鋭く抉っていることがわかる。
そして,ガスを筆頭に仲間たちが皆,冴えない中年〜初老男ばかりというのがいい。ガスはやることなすこといい加減で,ジェラルドが必死で会社の面接を受けているのに,ふざけてそれをご破算にしてしまう。デイヴは自分がデブであることを自覚しているが甘いものを見るとつい手が出てしまう(痩せると聞いて腹にラップを巻き付けながら,チョコバーを食べるシーンなんて最高におかしい)。ジェラルドは妻に失業したということを言い出せず,そうとは知らない妻は日焼けマシンやらランニングマシンを買い込んでくる。でも,社会的地位とかプライドがあるため妻に真実を打ち明けられない。
こんなオッサンたちがやけっぱちパワー全開でストリップ・ダンスに挑戦するのだ。そんなオッサンたちの必死の姿がすごくおかしくて,そして最高に格好いい。お世辞にもうまいといえないその踊りに次第に引き込まれ,失うものがない状態に追い込まれて舞台に上がる彼らの姿には泣き笑いするしかなく,そして圧倒される。
そして,ガスと息子のネイサンの会話がこれまた泣かせる。最初の方でガスがストリップダンスの練習を見てネイサンが逃げ出すシーンで,「父親がストリップをするのはおかしいか? 俺は父親として自分にできることをしているだけだ」というシーンもいいし,最後の場面で舞台に上がりたくない父親のガスに,「ウジウジしている奴は大嫌いだ。これまで仲間たちを引っ張ってきたのに,最後の最後に仲間を裏切るなんて僕が許さない。とっとと舞台に上がれ!」と叱りつけるシーンなんて最高によかったぞ。
あるいは,デブのデイヴが男性雑誌に載っている女性のヌード写真を見て「俺たちは女性をオッパイの大きさとか腰のくびれでしか見ていない。それは舞台に立つ俺たちを見る女たちも同じだ。この男は腹が出ているとか,こっちの男は垂れパイとか,それしか見ないんだ。誰一人として,人間の内面なんて見てやしない」と喝破するシーンも,深くていい。
そして,イギリスと言えばサッカーだが,この映画でも効果的にサッカーのネタがちりばめられている。たとえば,踊りの振り付けがどうしても合わないメンバーに「それはつまり,サイドバックとセンターバックが一斉に下がって相手のフォワードをオフサイドトラップにかけるのと同じさ」と説明し,「おお,それなら簡単だよ」と一発で動きが合っちゃうシーンなんて最高によかったし,6人の仲間たちがサッカーに興じるシーンもなんだかいいのである。
というわけで,まだこの映画を見ていない人がいたら,絶対に観た方がいい。「こいつらバカか?」と大笑いし,親子の会話などにホロリとし,最後の舞台シーンで "full monty" になるオッサンたちのやけっぱちの勇姿に胸が熱くなるはずだ。これは本当に素晴らしい映画である。
(2011/03/03)