新しい創傷治療:ネプチューン

《ネプチューン "Ghostboat"★★★★(2005年,イギリス)


 映画配給会社のアルバトロスと言えば,クズ・ホラー映画,ダメ・モンスター映画の殿堂という印象ですが,実は時々,ごくまれにものすごい良心作や傑作を取り上げています(例:《善き人のためのソナタ》。この《ネプチューン》はそういう映画です。ダメなのは意味不明のタイトルだけで,原題の "Ghostboat" をカタカナにするだけの方がよかった気がします。

 何より,亡霊(?)に支配された潜水艦の中で最後までがんばる老人二人が格好いいし,1940年代の潜水艦の内部もしっかりと再現されていて,テレビ向け映画と思えないほど水準が高いです。オカルト色は強いですが,怖いシーンは全くなく,綿密に作られた密室劇という感じなので,どなたにもオススメできます。

 ちなみに映画の原作はニール・R・バーガーの『幽霊潜水艦浮上す』です。


 舞台は米ソの冷戦まっただ中の1981年のイギリス。北海を航行中のソビエトの潜水艦の前に突然,一隻の潜水艦が浮上する。それは第二次世界大戦中の1943年にこの場所で撃沈されて海中に消えたイギリス海軍の潜水艦「スコルピオン号」だった。スコルピオン号はイギリスに曳航されて調べられるが,潜水艦内部に乗組員の死体はなく,しかも内部はほぼ無傷の状態ですぐにでも航行できる状態に整備されていた。

 スコルピオン号が浮上した海域は実は「北海のバミューダ・トライアングル」と呼ばれていて,これまで何度も船が行方不明になっていた魔の海域だった。イギリス海軍はその謎を探るべく,スコルピオン号を再び出発させて航路日誌通りに航行させることを決め,撃沈されたスコルピオン号唯一の生き残りである海洋学者ハーディ(撃沈から数日後に救出されたが,スコルピオン号に載っていた頃の記憶を失って取り戻せないでいる),そしてスコルピオン号を設計した技師のキャシディも乗り込むことになった。

 スコルピオン号の新しい館長の元,航海日誌通りに航行するミッションが開始するが,程なく,艦内で事故が起こり,乗組員1名が死亡してしまう。船長はミッション中止を提案するが,イギリス海軍から派遣されたトラビス中佐はミッション継続を強行に主張し,航海が続けられることになった。この頃から,ハーディは38年前の幻影に悩まされ,次第に記憶を取り戻していく。

 そして,航海日誌にあった通りに魚雷発射演習を行おうとしたその時,ソ連の潜水艦が突然近づいてくる。スコルピオンは演習用魚雷で応戦するが,なぜか発射された魚雷は実弾でソ連の潜水艦を撃沈してしまう。翌日,船団を組んで航行する船に対しても魚雷を発射する。

 やがて,事故で館長を失ったスコルピオン号はトラビス中尉の指揮下に入り,トラビスは進路を南にとってケーニヒスベルクの造船所(ケーニヒスベルクは第二次大戦中はナチスドイツが占領していたが,1981年当時はソ連のカリーニングラードである)を攻撃すると乗組員に伝える。そしてスコルピオン号の乗組員は第二次大戦中の兵士のように歓声を上げる。

 変化していくトラビス中佐と乗組員たちの中で,ハーディとキャシディの老人二人は必死になって行動し,やがてスコルピオン号全体を支配するものの正体を知るが,その時,カリーニングラードへの攻撃準備が着々と進んでいた・・・という映画である。


 前述のように,潜水艦内部はしっかりと作られていて,操船する様子などはとてもリアルです。多分,潜水艦ヲタクも満足させる出来ではないでしょうか。さすが海洋国家イギリスは,テレビ向け映画でも手抜きしていません。こういうところは観ていて気持ちいいです。

 潜水艦同士の交戦シーンもかなりリアルだと思います。キャビテーションノイズとか注水音とか魚雷管を開ける音とか,音による情報で相手の意図を読みとって攻撃を仕掛け,相手の攻撃をかわす潜水艦同士の戦闘の緊迫した様子がよく伝わってきます。ただ,地上戦や海上戦に比べると,画像的には派手さはなくて地味なんですが,これは潜水艦映画の宿命でしょう。


 結局,第二次大戦中にこの潜水艦の館長が任務のケーニヒスベルク攻撃に向かうさなかに事故で任務遂行できなくなり,その無念の思いが怨霊(?)となってスコルピオン号に乗り移って・・・といのが全体像なんですが,なぜ,再浮上したスコルピオン号が無人だったのか,そして「北海のバミューダ・トライアングル」でなぜ船が行方不明になるのか,といった謎もきちんと説明されていて,そのあたりも気持ちいいです。

 そして何より,二人の爺様(ハーディとキャシディ)がいいです。怨霊にとりつかれて次第に狂っていく若い乗組員の眼をかいくぐって船の中に塩素ガスを発生させ,事件の真相に迫り,なおかつ,カリーニングラード攻撃を未然に防ぐために必死に行動する姿は格好いいです。


 というわけで,まさに「知られざる傑作」の一つと言っていいでしょう。

(2011/03/09)

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