《イングロリアス・バスターズ "Inglorious Basterds"★★★★(2009年,アメリカ)


 やはり,クエンティン・タランティーノの映画はヤバくて面白い。普通,こんなストーリーを考えつくか? 史実をまるっきり無視したナチスドイツものなんだけど,ここまで派手にやられたら「参った!」と言うしかないよ。途中の場面で長すぎる部分があってちょっと中だるみしたのが惜しいけど,面白ければなにやったっていいジャン,という開き直りっぷり感じが凄くいいのである。

 とはいってもタランティーノ映画だから,残虐でグロなシーンはそこらにあるし,人はバンバン殺されるし,おまけに史実は無視しまくっているわけなんで,そこらが大丈夫な人にしかオススメしないが,こういう一本筋が通っている無茶っぷりは私は大好きである。ちなみに,タランティーノなのにエロティックなシーンは全くないので,そこら辺は期待しないように。


 映画はオープニングロールとともに哀愁に満ちたメロディーで始まる。西部劇映画《アラモ》のテーマ,『遙かなるアラモ』である。ちなみにこのメロディーは,「スペインのフォリア」と呼ばれているメロディーの開始部分が同じである(・・・という無駄知識を披露したりする)

 舞台は第二次大戦中,ドイツ軍占領下のフランス。のどかな田舎の村で酪農を営む一家にドイツ軍の車が近づいてきて,親衛隊の兵士とランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)が降りてくる。大佐は家に入り,丁寧な口調で家の主人に語りかける。口調は穏やかだが,ランダはユダヤ人狩りの名人で「ユダヤ・ハンター」として恐れられていた男だ。そして,その村にかつて住んでいたユダヤ人家族4家族のうち3家族は突き止めたが1家族が行方不明だ,と話し,家の主人を追いつめていき,ついに主人は家の床下にユダヤ人一家をかくまっていることを白状してしまう。そしてドイツ兵は床下に向けて機関銃を乱射するが,かろうじて娘の一人のショシュナ(メラニー・ロラン)が逃げ出せる。

 一方,アメリカ軍がイタリアに上陸し,フランスに入るが,その一つがアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)が率いるユダヤ系アメリカ人で組織された "Inglorious Basterds"(名誉なき野郎ども)という秘密部隊だった。レインは部下に言う。「お前たちの任務はナチのクソどもを切り刻んで殺し,頭の皮を剥ぎ取ることだ。そして,クソ野郎どもに恐怖を与えることだ」と。そして,捕虜にしたナチス将校を尋問し,彼が口を割らないとわかると容赦なくグチャグチャになるまで滅多打ちにする。そして,恐怖で尋問に答えたドイツ兵士の額にナチスのマークを刻み込んで解放する。レインは「アパッチ」と呼ばれてドイツ軍に恐れられる。

 そして舞台は1944年のパリへ。映画館を経営する若い女性,ミミューが登場する。実は,床下から難を逃れて逃げ延びたショシュナである。彼女は叔父と叔母を頼ってパリに逃げ,彼らが戦火で死亡したため二人が経営していた映画館を引き継いだのだ。彼女が映画館の看板をつけ返る作業をしている時に,ドイツ兵フレデリックが彼女に声をかける。映画好きなのだ。

 そしてその後,フレデリックがドイツの英雄であることが明らかになる。彼は教会堂の鐘楼に立てこもって3日間で250人の連合国軍兵士を狙撃し,連合国軍を撃退したからだ。映画を戦意高揚の最高の手段と考えるナチスのゲッペルスはフレデリックを主人公とする映画《国家の誇り》を作成する。この映画は占領下フランスで最初に上映されることになったが,祖国の英雄であるフレデリックはゲッペルスにミミューの映画館でプレミア上映したいと申し出る。もちろん,美しいミミューに好意を抱いたからだ。

 そしてミミューはゲッペルスに紹介されるが,その場にドイツの有名女優,ブリジット・ハマーズマルク(ダイアン・クルーガー)が同席する。彼女はゲッペルスの愛人だったが,実は彼女は連合国側の二重スパイだった。そしてその場に,あのランダ大佐も加わり,運命の歯車がきしみをたてて回り始める。

 ショシュナは自分の映画館で行われる《国家の誇り》のプレミア上映にヒトラー,ヒムラーら,ナチの中心人物が集うことを知り,復讐のため,ナチス上層部を一網打尽に焼き殺す計画を立てる。プレミア上映が始まった時に映画館の入り口を封鎖し,爆発的に燃えることで知られている16ミリフィルムに火をつけて劇場を火の海にする,という計画だった。

 一方,バスターズはイギリス軍と共同作宣することになり,二重スパイの女優ハマーズマルクと地下居酒屋で連絡を取るが,そこで偶然,ドイツ軍将校と出会ったことから正体を見破られ,銃撃戦となる。ハマーズマルクは辛くも生き延びるが,足に負傷してしまう。

 そして,運命の「プレミア上映」の日を迎え,ユダヤ人ショシュナ,アメリカ軍レイン,ドイツ軍ランダ,二重スパイの女優ハマーズマルク,そしてヒトラーとゲッペルスが映画館に集う。ショシュナの渾身の計画が淀みなく進むが,その時,勘違い野郎のフレデリックが登場したことから運命の歯車が狂いだし・・・という映画である。


 ううむ,映画のあらすじを紹介するだけで,かなりの字数を費やしてしまった。それぞれの主要登場人物の人となりとか過去とかを説明しようとすると,つい,文字数が多くなってしまうからだ。ところがこの映画ではそういう事情や背景を,ちょっとした会話とか所々に挟まれるナレーションで見事に説明していくのである。説明不足でも説明過剰でもなく,見事な手際である。だから,ストーリーが次々にとんでもない方向にすっ飛んでいっても,その流れに自然についていけるのだ。こういうところはタランティーノは本当にうまいと思う。


 そして何より,登場人物がどれも一癖,ふた癖あって魅力的なのだ。そしてどの人物もくっきりとキャラがたっている。まずなんといっても,ナチス将校のランダ大佐がいい。とにかく頭が切れるやつだ。相手のちょっとした仕草,言葉使いなどから嘘を暴いていき,逃げ場のないところに追い詰めていく。その情け容赦のない追求は「こいつだけは敵に回したくないな」と思う。こいつに目を付けられたら,まず逃げられないだろうという凄みがある。

 どう考えてもこいつは,ヒトラー一筋,ナチス命と思ってしまうが,どっこい,ナチス将校は徹頭徹尾,自分のことしか考えていないのである。映画館に爆弾を持ち込んだレインを逮捕し,レインは絶体絶命のピンチになるが,この時,ランダは驚愕の取引を提案するのだ。これにはびっくりするぞ。ナチスドイツの将校なのに,ユダヤ人狩りの急先鋒なのに,こいつはナチスを信用していないのである。あんたはすげえよ,レインさん。

 対するアメリカのレイン中尉もすごい。普通の映画なら「ナチスドイツの残虐行為」が描かれるはずだが,こいつは「ナチスドイツ兵に」残虐行為ばかりしてするのだ。「俺はインディアンの血を引いている」という理由から,ドイツ兵を捕まえるたびに頭の皮を剥いじゃうのだが,この皮剥ぎシーン,普通ならドン引きだろうという迫力だ。ブラッド・ピットはこういう「ちょっと壊れた」役を演じている方が合っていると思う。

 ちなみに,捕虜のドイツ軍将校の頭を野球のバットでグチャグチャに叩き割る巨漢兵士を演じるのはイーライ・ロスである。拷問系鬼畜映画《ホステル》の監督でもある人物だが,やはりこいつは「人体グチャグチャ」が根っから好きなんだろう。いかにも楽しそうに殴っているところが危なすぎるぞ。

 そして二人の美女,ショシュナ役のメラニー・ロランとハマーズマルク役のダイアン・クルーガーがいい。二人とも正統派の金髪美女で,一人は個人的復讐のため,もう一人は祖国のためにナチスドイツに戦いを挑む。捨て身の作戦で強大な敵に立ち向かう二人の美しさは,まさに神々しいばかりだ。しかし,彼女たちの緻密な計画はわずかな手違いから狂い始めていき,計画は失敗に終わりそうになったその時,偶然が今度は彼女たちに味方する。ここは本当にスリリングだ。


 そして面白いのが,完璧に偽装したかに見えるスパイたちがどのようなことから正体を見破られていくのかが克明に描かれている場面だろう。ちょっとした言葉の使い方,発音の癖,数の数え方など,些細なミスから正体がばれていく。スパイ(=嘘をつく側)はあらゆることを嘘で完璧に固めなければいけないが,嘘を見破る方はたった一点の破綻を見つけるだけでいい。嘘をつくのも楽ではないのである。


 この映画は第二次大戦の史実に変に忠実な部分と史実を完全無視した部分が混在しているし,細かく見ていけば不自然な点ばかりである。普通の「第二次大戦ナチスドイツ映画」なら史実を無視しているというだけで「ダメ映画」のレッテルを貼るが,このタランティーノの映画は逆に,史実を無視しまくって面白い映画を作ろうとしたのだと思う。いわば確信犯である。だからこの映画は面白いのだ。

 ただ,欠点がないわけではない。「インディアン・ポーカー」の場面は非常に面白いのだが,ここはさすがに長すぎる。確かに,何気ない会話が次第に緊迫していく様子は見事なのだが,冒頭のランダと酪農家の会話の迫力と密度の高さに比べてしまうと,やはり見劣りがする。それ以外のシーンでも所々,間延びした感じの部分があり,これらを切り詰めて120分くらいの映画にしたら,ものすごい傑作になったんじゃないかと思う。


 残虐シーンが半端でないひどさのために万人にはお勧めできる作品ではないが,細部にまで丹念に作り込んだ荒唐無稽な映画の面白さがわかる人には,絶対オススメするタランティーノ映画である。

(2011/03/11)

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