まぁ,なんと言いますか,小粒だけど手堅く真面目にまとめた寄生生物系パニック映画。ストーリーそのものはよくまとまっているし,そこそこ面白いし,「見て損した〜」感はありませんが,「見て得した〜」感もない,という可もなく不可もなし,という映画です。こういう映画では寄生生物の怖さをどう表現するかが勝負なんですが,この映画にはそういう怖さとかおぞましさがほとんどないため,パンチに欠けちゃいましたね。例えて言えば,真面目さだけが唯一の取り柄の地味な学生が一生懸命に作った模範解答という感じでしょうか。ちなみに,映画の合い言葉は「地球温暖化を食い止めよう!」でございます。
環境学者のクルーペン博士(ヴァル・キルマー)は温暖化で氷河が溶けつつある北極圏でフィールドワークをしております。そこで研究のため,一頭のホッキョクグマを麻酔銃で眠らせるんですが,溶けた氷河からマンモスの死体が顔を覗かせていて,ホッキョクグマがそれを食べていたことに気がつきます。博士はマンモスの死体とホッキョクグマを研究所に持ち帰りますが,その直後から異変が起こります。マンモスの死体に寄生していた虫みたいな奴(映画の中では,虫ではなく脊椎動物と説明されています)も目覚めてしまい,人間に寄生したのです。皮下に卵を産みつけたかと思うとあっと言う間に孵化し,動物(人間)の組織を栄養にしちゃうんですね。しかも,増えるスピードもハンパでなく速いのです。
もちろん,クルーペン博士は寄生生物の正体を見抜きますが,地球温暖化を食い止めるのを自分の使命と考え,ある決断をします。そして,それを実行しようとする博士と,研究所の仲間の間で争いになり,ついに殺人事件が!
一方,その研究所に大学の研究生3人がヘリでやってきます。その一人が博士の娘,エヴリンです。エヴリンは元々,その研究に参加する予定でしたが,なぜか父親は「お前は来るな!」と連絡してきましたが,それに納得できないエヴリンは学生たちに同行したわけです。彼らは研究室に到着しますが,なぜかそこは無人で,しかも腐りかけたホッキョクグマの死体がラボに放置されています。
そして,ヘリの操縦士がまず最初に虫に刺され,次いでカップルの二人がエッチの最中に虫に刺されます。そして刺された場所が腫れて傷が広がり,傷の中に虫が蠢いてきて,どんどん体調が悪化します。
一方,父親の安否を気遣うエヴリンは父親が研究に使っているテントに向かいますが,そこで倒れている父親の同僚の女性を発見し,研究所に連れ帰ります。そしてその夜,女性は急に容態が悪化し死亡。そしてエヴリンは,父親の残したノートとビデオから,それが先史時代の寄生生物であり,温暖化で氷が溶けたために復活したことを知ります。
学生たちは無線で救援を要請しますが,エヴリンは寄生生物に感染しているままで病院に収容されたらマズいことに気がつきます。未知の寄生生物が一挙に広がり,それは人類の危機だからです。自分だけは助かりたいと考える学生と,この謎の寄生生物の蔓延を防がなければいけないと考えるエヴリンとの間で対立が起こり・・・という映画でございます。
こういう寄生生物系パニック映画ではとにかく,寄生生物の映像が全てです。見ただけで鳥肌が立ってくるくらいの迫力が欲しいところですが,その点ではこの映画は全く力不足。寄生生物の大きさは2センチくらいで,それがウジャウジャしている様子はこの手の映像に弱い人には「たまらなくイヤ!」なものでしょうが,この手の動物パニック映画を見慣れた人間からすると,おぞましくもないし怖くもないんですね。確かに,皮膚に潜り込んでいく様子はちょっとリアルなんですが,それが皮膚の傷の中で増えていく映像が上品すぎて迫力不足なんですよ。もうちょっとあざとく撮らないとだめですね。
それと,この寄生生物は成体になると飛べるんですが,これは最初の「これは虫でなく脊椎動物だ」という説明と矛盾します。飛べる脊椎動物は鳥類と一部の哺乳類(コウモリ)に限られ,大きさは最小でもハチドリです。ところがこの映画では,体長2センチなんですよ。それなら最初から「これは虫ではなく脊椎動物だ」なんて知ったかぶりを言わなければ良かったのになぁ,と思ってしまいます。
この映画で唯一のグロシーンと言えば,感染したヘリのパイロットの腕を斧みたいなので切り落とすシーンですが,これは寄生虫が住み着いた部分だけ切除すればいいだけの話で,何もわざわざ腕を切り落とす必要はなかったと思いますね。下手に切断するから,出血が止まらないわ,って騒ぎになっちゃったのです。まぁ,環境学の学生さんたちだから,しょうがないけどね。
また,物語として平板で盛り上がりに欠けるのも減点対象ですね。自己チューの学生をもっと暴走させるとか,最後のヘリコプターの場面をもっと劇的にするとか,そういう工夫が欲しかったです。
それにしても,同僚に撃たれたクルーペン博士が生きていたのはなぜなんでしょうか。至近距離からライフルで撃たれたのに大丈夫,ってのは何が何でも無茶でしょう。嘘でもテキトーでもいいから,説明が欲しかったっすね。
・・・と書いてきましたが,もうこの映画について書くことが無くなってしまいました。ま,そんな映画です。
(2011/03/29)
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