《ブラック・ボックス 〜記憶の罠〜》★★★(2005年,フランス)


 ヨーロッパ・コープとは,かのリュック・ベッソンが作った映画製作会社とのことですが,そのヨーロッパ・コープが作ったサスペンススリラー映画。冒頭からスピード感溢れる展開と,次々に投げかけられる謎の言葉がすごく期待させるのですが,全体像がわかってみると「オイオイ,この程度の真相だったの?」と拍子抜けしちゃいました。特に,最後の最後に開かされる「過去の事件の真相」の犯人がこいつというのは,余りに強引。観客の誰一人としてこいつが犯人だとは推理できません。こいつに関する手がかりがなさ過ぎるからです。

 基本的には悪い作品じゃないと思うんだけど,全体の謎解きに全く絡まないエピソードが多くて見通しが悪過ぎます。そして何より,幻覚と記憶と真実のどれなのかが観客側にわざとわからないような映画,はありとしても,それをサスペンス映画で使うのは反則でしょう。

 「人間には忘れたい過去があり,忘れた方がいい過去もある。しかし,忘れたくても忘れられない過去の記憶があり,それが人間を苦しめるのだ」というのがこの映画のメインテーマなんですが,文字にしてみると別に大したことがないことですよね。そんなの,誰だってわかっているよ,という感じです。要するに,大したことのない真相を大袈裟に水増しした謎で大きく見せているだけの映画,という感じがします。


 フランス人の年齢は見てもよくわからないけど,多分,30代半ばくらいの男,アルチュール・セリグマンが主人公。彼が車を運転するシーンで始まりますが,突然目の前に自転車に乗った少年が!

 意識が戻った彼は病院の病室にいることを知ります。そして担当看護師のイザベルから「あなたはずっと昏睡状態で,時々,訳の分からない意味不明の言葉をつぶやいていたわ」と教えられ,退院の時にその言葉を書き記したメモ帳をもらいます。そこには次のような言葉がありました。

 自分で見てもわからない言葉が綴られています。そしてイザベルは,それこそが意識の奥底に眠っているブラック・ボックスだろうと説明します。自宅に戻ったアルチュールはその言葉の意味を求めて,無理矢理封印していた記憶のブラック・ボックスの扉を一つ一つ開けていき,ついに恐るべき真実が・・・ってなお話です。


 いわゆる「ネタバレ」しないように内容を説明するのが難しい映画ですが,一言で言えば「幼い頃に自分と兄を襲った事件の真相と,父母の秘密」ってことになるでしょうか。わかってみれば,「ふーん,そんなことだったのね」となりますが,最後までそう思わせないように,観客の推理をミスディレクションさせるためのコネタをちりばめているわけです。例えば「お前は本当に手に負えない子供だね,とババアは言った」なんて,物語の本筋には全く絡んでいない「謎」です。この映画の中心となる謎の言葉,「シルヴァン・ガネムに殺される」の人名のガネムについては確かに謎解きされますが,なぜアルチュールがア○グラムしたのかも不明なら,「殺される」という受け身表現になっている理由も不明です。

 おまけに,現在の彼の目の前で起きている事件が本当に起きているのか,彼の脳味噌の中だけにある幻覚なのか,わからせないような作りをしているわけですね。例えば,看護師のイザベル殺害事件も何だか変だし,主人公と恋人(キャビン・アテンダントをしております)の関係も本筋に絡んでいないような気がします。そして何より,イザベル殺害の容疑者(?)として警察署に連行されるのはいいとしても,イザベルの体内からDNAが見つかったアルチュールをあっさりと釈放しちゃうのはおかしいです。普通なら,こういう容疑者を釈放したりしませんよね。ここってもしかしたら,アルチュールの幻覚? イザベルの体内から見つかった「もう1人のDNA」って誰? ここも未解決のまま終わっちゃいます。


 さらに,最初の方でアルチュールが会う母親は準寝たきり状態なんですが,後半に登場する母親は元気そのものです。ということは,最初の母親はアルチュールの頭の中の心象風景? それと,「テキサスは存在しない」という謎の真相もちょっとひどすぎ。

 それと,最後に明かされる「RP50」の謎はいいとしても,この「犯人」が登場するのは映画の後半になってからなんで(私の認識では・・・),いきなりこいつが犯人だと言われても困っちゃうんだよね。それと,大人になったアルチュールにこいつが絡んでくる経緯も説明不足だと思います。いくら「忘れられない過去の罪」だったとしても,フランスの別の地域に移住すれば過去を消せるわけで(何しろ,それを知っているのは子供だったアルチュールだけ),普通ならそっちを選ぶんじゃないでしょうか。


 そういえば,パリで暮らしているアルチュールがシェルブール(子供の頃のあの事件が起きたのはどうもここらしい)で交通事故を起こしたのはなぜなんでしょうか。時間軸をたどれば「交通事故を起こす」⇒「記憶のブラックボックスが開く」⇒「子供の頃の事件を思い出す」⇒「シェルブールで真相解明」となりますから,映画冒頭の場面でアルチュールがシェルブールに向かう理由がありませんし,この謎についてはその後,全く触れられていません。もしかしたら,脚本家が「最初の事故はパリでなくシェルブールで起きた」ことをすっかり忘れていたから・・・というのが真相じゃないかと疑っちゃうのですよ。

 そういえば,「向精神薬(みたいな薬草?)を飲んで鳥に教われ幻覚を見る」というのも,意味がない,なくてもいいエピソードでしたね。なぜこんなシーンを入れたんでしょうか。

 実は私,「冒頭の車にはねられる自転車の子供と運転手の意識が・・・・」系か,「冒頭の自転車の子供は実は○○の過去の姿だった」系のどちらかで,たぶん真相は後者だろうな,とかなり早い時期に推理できていました。アルチュールの交通事故は起きたが車にはねられた自転車の子供はいない,と警察官が説明したからです。


 というわけで,観客騙し系映画が好きな人は見てもいいと思いますが,謎解きなんて面倒くさい,そんな訳の分からない謎解きにいちいち付き合っていられるかよ,という映画ファンはスルーしていい映画ですね。

(2011/04/08)

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