新しい創傷治療:ザ・アビス 首都沈没

《ザ・アビス 首都沈没》★★(2008年,ドイツ)


 ドイツのテレビ映画で,いわゆるディザスターパニックもの。テレビ映画なんでCGはちょっとアレですが,話のテンポはいいし,登場人物はそれなりにきちんと描き分けられているし,謎解きの要素なんかもあったりして暇つぶしにはちょうどいい感じですね。それ以上でもそれ以下でもないですけど・・・。


 舞台は確かドイツのケルン。若い馬鹿ップルちゃんが夜の湖で泳ごうとしております。女の子がちょっとお見事な巨乳ちゃんでございますが,パニック映画冒頭で裸になるカップルはすぐに死ぬ,というお約束に従って,二人は突然起きた渦巻きに飲み込まれてしまいます。なんと湖の底に穴が開き,湖の水が全て飲み込まれしまったのです。

 そして主人公の女性地質学者ニーナが登場。彼女は地層の断面図を映像化する装置を開発していて,その地域の地下に空洞が広がっていることを突き止めます。どうやら,埋められたはずの地下坑道が埋められずに残っていて,そこに湖の水が入り込んだと推理します。そして,柔らかな砂の層に染み込んだ水が坑道に流れ込み,巨大な空間ができている可能性があるのです。ニーナは坑道を所有しているモンタン・エネルギー社に出向き,危険が迫っていると訴えますが,もちろん会社社長は一笑に付して追い出します。

 しかし,このままでは坑道の直上にある病院が崩壊してしまいます。そこでニーナはその坑道に入り,病院隣の駐車場の地下部分に爆薬を仕掛けて爆破し,駐車場地下を土砂で埋めて病院倒壊を防ぐ方法を思いつきます。そして,ニーナの父親(かつてその坑道で働いていた),ニーナのかつての恋人でモンタン社の社員のトーマス,そして父のかつての同僚たち4人が集まり,地下坑道に降り立ちます。

 しかし,落盤事故に見舞われたり,殺人事件が起きたり,かつてその坑道で起きた事故(この事故でニーナの兄が亡くなっている)の真相を示す証拠が見つかったり,殺人事件の犯人探しがあったり,時間は刻々と過ぎていきます。

 一方,地上では公園が大きく陥没したり,道路の真中に突然大きな穴が開いたりと,あちこちで陥没が始まります。まさにニーナが予言したとおりでした。そして2人の警官(?)がニーナの研究室に出向き,彼女が残したデータからサッカースタジアムが新しくできつつある地下巨大空間の直上にあることを知りますが,まさしくその時,スタジアムでは地元サッカーチームの試合が始まったばかりで,スタジアムは超満員。

 果たして,ニーナたちは爆破に成功して病院倒壊とスタジアム倒壊を防げるのか,病院の患者は避難できるのか,スタジアムの中のサッカーファンは逃げ出せるのか,そして何よりニーナと元カレは地下から生還してラブラブ状態に戻れるのでしょうか・・・という盛り沢山な90分映画です。


 このように文章化してみると,最初の「病院倒壊を防ぐ」という目的が途中からどっかに行っちゃって,途中から「スタジアム倒壊を防ぐ」にすり替わっていることがわかりますが,見ている時にはあまり気になりません。地下坑道であまりにもいろいろな事件が次から次へと起こるからです。殺人事件が起きてその犯人が誰かも突き止めないといけないし,その犯人の動機が何なのかも説明しなければいけません。おまけに,兄が事故で死んだ時になぜ恋人が彼女の元を去ったのかというエピソードも絡んでくるし,そもそも兄が死んだ事故は本当に事故だったのか,という謎解きまで詰め込んでいます。それで90分ですから,前後の整合性をゆっくりと考える暇なんてありません。

 しかも,天井は崩れてくるわ,送風機は故障して酸欠になるわ,爆薬が足りなくなるわ,巨大空間(いわゆる,東京ドーム○個分,というサイズです)は姿を現すわ,その切り立った壁を降りてまた登るわ・・・の連続ですから,一番最初に降りた時からもう何日も経過しているんじゃないの,と思ってしまいます。そのため,ヘッドランプの電池は何日も点けっ放しでも大丈夫なんだな,とか,水と食料はどうしているんだろう,とか,水を飲んでいるシーンはないけど地下数百メートルの坑道だとすぐに脱水になるんじゃないかとか(何しろ,爆薬は持って行っているのに,水は誰も持ち込んでいないのだ),余計な心配をする始末です。

 しかも,サッカースタジアムでは1箇所のトイレの床が穴が開いていると言うのに,その他の異変は起きていないらしく,観客は試合に熱中しています。どうやらトイレの部分だけピンポイントで地盤が弱かった模様です。しかも,「スタジアムの観客がパニックを起こさないように外に非難させなければ」とか言っている割には,具体的な避難誘導の様子は描かれていないので,かなり拍子抜けしてしまいます。もちろん,予算の関係で大規模な陥没の様子を撮影できなかったという事情はわかりますが,公園の広場とか湖とか,ちょっと地味めで建物の被害がない土地でしか陥没が起きないのは,ディザスターパニックものとしてはちょっと苦しいですね。特に,ジョギングお姉さんが一人だけが広場の陥没に飲み込まれるシーンは,ちょっとお笑いでした。


 ちなみに,邦題の《ザ・アビス》は原題とは無関係なもので,恐らく配給会社が適当に付けたものでしょうが,母音で始まる言葉に付く定冠詞の発音は「ザ」でなく「ジ」となるという知識がなかったものと思われます。人間,思わぬところで恥をかくものですね。

 というわけで,暇つぶしとしてみるにはちょうどいい感じでした。超ド派手なパニック映画かもしれない,という過剰な期待さえ持たなければ,最後までそれなりに楽しめるかも。

(2011/04/21)

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