新しい創傷治療:エアポート2010

《エアポート2010 "Faktor 8 - Der Tag ist gekommen"★★★(2009年,ドイツ)


 「航空機パニック+新型ウイルス感染パニック」という一粒で二度美味しい路線を狙ったと思われるドイツ製のテレビ向け映画。内容は可もなく不可もない,という感じで手堅く作っています。最初は快調すぎるくらいに物語がどんどん進み,オイオイ,これじゃ早すぎるよ,と思っていたら案の定,中だるみがあり,最後は解決を放棄しちゃいます。

 ちなみにこれはアルバトロスが《エアポート》シリーズとして年に1作ずつ配給しているものの2010年版ですが,もちろんシリーズとして作られた映画ではなく,似たような雰囲気の航空機パニック映画を買い付けては適当なタイトルを付けているんだとか。

 原題は "Faktor 8 - Der Tag ist gekommen" ,つまり「血液凝固第8因子」です。もちろん,血友病治療薬ですが,これが重要な役割を果たすことから付けられた模様です。

 テレビ向け映画の常として潤沢な予算で作られたものではありませんが,飛行機内部の様子やコックピットは「それほど安っぽさは感じさせない」作りになっています。


 タイのプーケット空港を飛び立ってベルリン空港に向かおうとしているドイツ航空111便がインド洋上空に差し掛かった時,異変が起こる。一人の乗客とキャビン・アテンダント(CA)の一人が体調を崩したのだ。乗客のただならぬ様子を見た他のCAは乗客名簿から一人の女性医師アンネ(ムリエル・バウマイスター)に声をかける。アンネは臨床医ではなかったが乗客を診察するが,乗客の様子は急激に悪化し,鼻腔や眼窩から出血し,体には不気味な斑点が出現する。それを見たアンネはウイルス感染であることを見ぬくが,打つ手はなく乗客は死亡してしまう。そして,乗客の中で次々と同様の症状の患者が発生する。急激な出血をきたした患者の一人は実は血友病の患者であり,アンネは彼が持参している血友病治療薬の「第8因子」を注射するが,この時誤って自分の指も傷つけてしまう。

 未知の致死性ウイルスであることを知ったアンネはパイロットに緊急着陸を進言し,機長は最寄りの空港に連絡するが,なぜか着陸を拒否され,その結果,ドイツに行かざるを得なくなり,その旨をドイツに連絡する。この連絡を受けたドイツでは未知のウイルスに汚染された飛行機の扱いについて対策本部を設置し,対策を協議する。そしてその頃,飛行機内部ではサッカーチームの若者たち数人が,「俺達は死にたくない」と騒ぎ始め,後部にバリケードを張り,次第に統制が取れなくなっていく。そしてアンネの傷口からも血液が流れ始める。彼女も感染してしまったのだ。

 ドイツ政府は111便をベルリン空港でなく,バイエルンの空軍基地に誘導し,飛行機は無事に着陸するが,向かった先は格納庫だった。外部から完全に遮断された格納庫内に乗客を閉じ込め,ウイルス感染に対する治療が確立するまで彼らを隔離することを決めたのだ。そして医療班が飛行機内部に入り,患者の血液が採取されてウイルス研究が始まるが,この時,アンネは自分の出血が止まっていることを知り,それが「第8因子」の効果であることを確信し,医療チームに伝えられ,乗客たちへの「第8因子」投与が始まる。格納庫内に設置された研究室内でもその効果は確かめられる。

 しかし,ウイルスは次々に変異を重ね,数世代の後に「第8因子」の効果はなくなり,逆に変異ウイルスを持っている患者の血液を凝固させることがわかるが,時すでに遅しで,投与した患者の数人が死亡する。その様子を見たサッカーチームのリーダーは「ここにいたら殺される」と騒ぎ出し,ついに医療班は飛行機から撤退することを決める。

 一方,政府の対策会議室にタイ政府が患者が発生した島を爆撃し,ナパーム弾で住民ごと焼き払ったという連絡が入る。恐ろしい感染症の蔓延を防ぐための苦渋の選択だった。それを受け,対策会議に参加している内務大臣から「格納庫ごと飛行機を爆破する」という最終手段が提案される。

 その頃,アンネと娘の安否を気遣うアンネの夫(ドイツ航空のパイロットをしている)は一目、妻と娘に会おうと格納庫内に身分を偽って潜入するが,ここで飛行機爆破計画が持ち上がっていることを知り,妻と娘を救うために一つの計画を思いつく。飛行機を飛ばして無人島に向かい,そこでウイルス感染症の治療が確立するのを待つ,という計画だった。しかしその頃,飛行機のコックピットではパイロットが・・・という映画です。


 というように筋書きを要約してみると改めてわかりますが,はっきり言って中身詰め込み過ぎです。映画の原題になっている「第8因子」が特効薬かと思っていたら,瞬く間にウイルスが変異し,それが効かないどころが全身の血液をゼラチンみたいに固めちゃって逆に死んじゃう,という展開だけでも十分過ぎるのに,その後さらにウイルスは変異を重ねて,あっという間に人間に無害なものに変化しちゃうらしいのです。ということは,そのまま飛行機内にいれば数日で無害化して治療も必要なくなり,感染症ですらなくなるはずなんですが,ここまでくると脚本を書いている人間も手に余り、最後の方になるとウイルス変異と感染の話はどっかに行っちゃって,とにかく飛行機を飛び立たせて強引にエンドロールに持っていきます。


 この手の航空機パニック映画,感染症パニック映画では専門知識を持った人間が偶然乗り合わせていて,こいつがリーダーシップを取って難局を乗り切る,というのが定石ですが,この映画ではそういう人物はいません。一応,アンネがヒロイン役なんですが,最初の方の早い時期にウイルスに感染しちゃうため,映画の中頃ではあまり活躍しません。パイロットも美人CAもリーダーとして行動するわけではありません。

 ではどうなるかというと,これが見事なほどに皆さん,自分勝手な行動をします。前述のサッカーチーの連中を筆頭に,その他の乗客も「自分さえ助かればいい」と行動するだけです。ドイツ人,大惨事になると全く統制が採れていません。おまけに,政府対策会議の女性内務大臣は碌に状況を把握できてない段階で「8000万人の国民を助けるためには40人を犠牲にしましょう!」という方針を決めちゃっているみたいだし,アンネの夫も妻と娘を助けたい一心で次々ととんでもない行動に出て,最後のほうでは銃で人を撃ち殺そうとします。ここまで自分勝手な人物しか登場しないパニック映画というのも珍しいです。


 そうそう,サッカーチームのリーダー(こいつがまたキレやすい)が医療チームが持ち込んだメスを奪って振り回し,飛行機の機長に「ここにいたら殺されるだけだ。早く飛びたて!」と脅すシーンがあるのですが,ここで機長さん,なんでこいつの言うとおりにしたのか意味不明。だって普通なら「刃物を下ろせ。俺を傷つけたら飛行機は飛ばないぞ。それが分かっているのか?」と一喝するはずですよね。なぜ機長はそれを思いつかないのか,意味がわかりません。で,サッカー・リーダーは機長に斬りつけちゃって墓穴を掘るんで、こいつ,真正生粋のアホだとわかりますが、この「機長刃傷事件」は実は,アンネの夫を飛行機に乗り込ませるための伏線だったんですよ。オイオイ,それってあまりにも強引すぎるぞ。

 そういえば,このウイルスは状況から考えて空気感染すると考えられるのですが(最初に発症する2人は全くの赤の他人ですから),密室である飛行機内なのに感染者は最初の方の6,7人だけでその後は発生していません。ということは,「致死率は高いが感染率は実はあまり高くない」ような気がします。もちろん,それでも十分怖いですけどね。

 そういえば,第8因子を乗客全員に投与した後に,「第8因子を投与すると,変異ウイルスが全身の血液が凝固する」と言うことがわかるんですが,それで実際に死ぬ人が2,3人しかいないのはなぜなんでしょうか。この説明で言えば,投与された全員が死亡するはずでは? もちろん,全員死んじゃえば問題解決になってしまい,物語が終わってしまいますけどね。


 このタイプの映画は大体,最後の決着だけが気になっておしまいまで見たりするものですが,この映画はかなり強引で無理やりな終わらせ方をします。アイデアが尽きたというか,予算が尽きちゃったんでしょうね。風呂敷を広げすぎちゃって,畳めなくなったようです。

 ではこの映画,見所がないかというとそうではありません。アンネ先生の美巨乳の素晴らしさとアンネの娘ユリア(エミリア・シュール)のキュートさです。アンネ先生はリゾート帰りということで胸の谷間が大きく開いた服装でサービスしてくれますが,この胸に太刀打ちできる谷間といえば,フィリピンのマニラからご帰還した小谷美奈子さんの「スライム巨乳」くらいのものでしょう。

 というわけで,傑作航空パニック映画だと思って観なければ,最後までそれなりに楽しめると思います。

(2011/04/30)

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