ケイト・ベッキンセール,いつもながら素敵ですね・・・と,これだけで映画のレビュー終わり,ってしちゃおうかと本気で思ってしまったのがこの南極を舞台にしたサスペンス映画です。彼女しか見どころがないからです。この映画から彼女を抜いたら何も残りません。せいぜい,南極の吹雪「ホワイトアウト」の凄まじい迫力が記憶に残っているくらいです。主要登場人物が多くないため真犯人というか事件の真相は早々に分かってしまうし(・・・だって,怪しいのはこの人しかいないんだもの),最後に明かされる真相は「オイオイ,それかよ」という程度です。南極大陸という壮大な舞台を選んだのにもかかわらず,事件そのものはチンケというかチマチマ程度です。
でも,南極の氷を背景にさらに美白が映えるベッキンセールが美しいから,まぁいいか。
ちなみにタイトルの「ホワイトアウト」とは,吹雪で発生したガスと舞い上がった雪が一面を覆い,完全に視界が奪われて方向感覚を喪失するような状態を示す気象用語のようです。
映画は60年前,南極上空を飛ぶロシア機内で始まる。機内で仲間割れ(?)から発砲事件があり,飛行機は南極に不時着し,炎上する。
そして舞台は60年後の南極,アムンゼン・スコット基地に移る。この基地で働く女性連邦保安官のキャリー・ステッコ(ケイト・ベッキンセール)は過去のある事件の捜査でトラウマを負い,南極基地で働くことになったが,雪と氷だけの世界で基地唯一の初老の医師(トム・スケリット)らと退屈な日々を送っていた。彼女はその生活に飽き飽きしていて,3日後に出発する輸送機で本国に戻り,連邦保安官の仕事も辞めることを決めていた。
そんな時,基地から離れた場所で死体が発見され,それは殺人事件によるものだった。つまりそれは「南極で史上初めて起きた殺人事件」の犠牲者だったのだ。しかも彼は南極なのに防寒具を着ていなかった。そこに国連調査員と名乗るロバート(ガブリエル・マクト)が登場してキャリーに捜査協力を要請するが,彼の言動はどこか胡散臭い。やがて,基地からほど近いところで氷雪に埋もれた古いロシア機が発見されたことから,殺人事件との繋がりがおぼろげながら見えてくる。そして第2の殺人事件が起きてしまう。
基地を出発する飛行機が出てしまうとあと半年間はこの氷の世界に閉じこめられてしまう。刻々と迫るタイムリミットを前に,キャリーは殺人犯を捕らえ,事件の真相を明らかにすることができるだろうか・・・という映画でございます。
へぇ,南極に連邦保安官がいるのか,と一番最初に驚きましたね。調べてみると連邦保安官の仕事は囚人の護送とか証人の警護とか逃亡犯人の追跡などであり,南極では最も必要のない職業なんですね。いわば,赤道直下の暖房器具,南極基地のクーラーみたいなものでしょうか。何しろちょっと油断するとマイナス60℃以下という気候ですから,基地から一歩出たら凍死体です。つまり,「人殺ししちゃったから外に逃げちゃおう」という選択肢はありません。しかも映画の舞台となった時期は風速160km/hrという猛烈な嵐(ホワイトアウト)が時々やってくるわけで,下手をすると「外に逃げる⇒フリーズドライ状態」になるだけですから,余程うまくやらないと犯罪は割に合わないと思われます。
そういう南極で史上初の殺人事件を描いたのがこの映画なんですが,舞台が雄大な割には事件そのものはチマチマしています。真相が分かってしまうと「何だ,それだけかよ」感たっぷりです。
というか,1957年のロシアの輸送機が○○を積んで運ぶ意味が分かりません。確かに,1957年は南極の国際観測年に定められて世界各国の基地が南極に作られ,さまざまな観測が始まった年です。もちろんロシアもこの年に南極点に近いところにボストーク基地を開設しています(ちなみに,舞台となるアムンゼン・スコット基地が開設されるのは1956年)。ちなみに,ボストーク基地では過去の気候変動を調べるために,氷の層を深くボーリングする調査などをしていたようです。そういう南極のボストーク基地に,ロシアがなぜ○○を運ぶのか,全く意味不明です。もっと南極ライフに役立つものを運んだ方がいいと思いますよ。
で,その不時着した飛行機を60年ぶりに,隕石探しをしている研究隊が偶然発見する,というのはいいとしましょう。そして6メートルの氷を掘り進んで飛行機を発見する,というのもいいとしましょう。でも,その飛行機のハッチを開けるのも大変だろうし(何しろ60年そのままだし,緻密で重い6メートルの氷の圧力を受けているし),普通ならハッチを開けて中に入れないんじゃないかと思うのですよ。しかも,中を見ると死体がゴロゴロ! そういう状態で「うむ,これは何かお宝を積んでいる飛行機に違いない」と家捜しを始めるか,ということです。何しろ発見したのはトレジャーハンターでもインディ・ジョーンズでもなく,隕石の研究者なんですぜ。普通なら,死体さんたちを見つけた時点で腰を抜かして逃げ出すはずです。しかも,彼らが○○を見つけたとしても「オオ,これは○○だ」とどうしてわかったのか,それも不明です。
その○○を死体に隠す,というのはアイディアとしては珍しくありませんが,それはあくまでも「後で見つけやすい」という条件があってのことです。この場合は,南極の雪原で,しかも死体は飛行機から落とすのですから,後で見つけるのは大変じゃないかと思います。しかも,落としたショックで傷が開いたら「雪原の中の水」同然ですから,「藁の中の針を探す」,「リオのカーニバルの中でウォーリーを探す」より困難です(・・・多分)。どうせ,○○の量は大したことがないのですから,こんな面倒なことをするよりみんなで山分けしてポケットにでも入れて帰国すればよかっただけじゃないかという気がします。
ちなみに,この映画の製作会社のダークキャッスルはホラー専門らしく,この手の映画としては珍しいくらい死体の描写に力が入っていてかなりエグいです(だからPG12指定になっています)。また,ベッキンセール様が凍傷になり(手袋をつける暇なしにマイナス60℃の外に逃げたため),指2本を切断するシーンも見ていうだけで痛くなってきます。この手の映像が苦手の人はちょっと辛いでしょうね。
映画の撮影は南極ではなくカナダのマニトバ州で行われたそうです。まさに極寒の地そのもので,撮影は困難を極めたとか。その甲斐あって,ホワイトアウトの様子は迫力満点です。外気温がマイナス60℃で風速160km/hrの猛烈な風が吹いているのですから,体感温度は想像したくないです。それはそれでいいのですが,最後の対決シーンは何が起きているのか,画面を見てもよくわからなくなってしまいました。キャリーと連邦保安官がピッケルを振り回して襲ってくる謎の犯人と対決するシーンですが,みんな似たような防寒具+ゴーグル姿だし,嵐がすごすぎて画面が真っ白けのためです。せめて防寒具の色だけでも変えるなどして(ベッキンセールは真っ赤,連邦保安官は白,犯人は黒ずくめ,とかね),見せる工夫をしてほしかったです。ホワイトアウトの凄まじさを伝えるか科学番組ならこれでいいですが,この映画はあくまでもサスペンス映画なんですから・・・。
犯人探しに関しては,かろうじて及第点と言ったところでしょうか。何しろ,登場人物がそれほど多くなく,「犯人は普段は善良そうにしている奴」という定石からすると,余程鈍い人でなければ「こいつが犯人」とわかるはずです。その意味では意外性は全くありません。また,犯行の動機もわかってしまうと「オイオイ,それだけ?」でした。
というわけで,普通なら「本格的サスペンス映画を作ろうとしてけどB級以下になっちゃった映画」なんですが,それを補って余りあるのがヒロイン役のケイト・ベッキンセールです。最初の方で,オールヌードの後ろ姿というサービスカットがあり,それだけで「ありがたや,ありがたや」という感じなんですが,この人,年齢を重ねるごとに美しさと色気を増しています(ちなみに,撮影当時36歳)。とにかく,彼女が映っているだけで画面が引き締まり,華があります。南極の氷雪よりさらに白い美白肌が本当に美しいです。
というわけで,ケイト・ベッキンセールが出ているならどんな映画でもいいんだけど,というコアなファンと,南極のホワイトアウトの凄まじさ(本当はカナダのホワイトアウトだけど)を映像で見てみたい,というコアなファンにのみオススメできる映画でした。
(2011/05/13)