《ゾーン・オブ・ザ・デッド》★★★(2009年,イタリア/スペイン/セルビア)


 これはちょっと珍しいセルビア製のゾンビ映画。以前にも《ギリシャ・ゾンビ》とか《パキスタン・ゾンビ》とか世界各地のゾンビ映画を紹介してきたが,セルビアにもコアなゾンビ映画ファンがいることがわかってなんだか嬉しくなってしまう。「世界をつなぐゾンビの輪」ってやつだ。そしてこの映画は何より,ゾンビ映画に対する愛に溢れていて,それが観客にビンビンとストレートに伝わってくるのがいい。各所にちりばめられた「ロメロ・ゾンビ」に対するオマージュやらパロディーシーンを見ているだけで楽しい。

 ただし,ゾンビ映画と言えば内臓グチャグチャシーンが必須だが,この作品ではそっちの方面はちょっと弱目,控え目,当社比30%減,という感じなので,カルトなゾンビ映画ファンにはちょっと物足りないかもしれない。


 舞台はセルビアのパンチェボ地域。ここで軍隊の大規模訓練が行われていたが,事故があって有毒ガスが噴出し,それを吸い込んだ人々は次々に倒れて死んでいくが,彼らはゾンビとして蘇っていく。

 その近くの街に暮らしているインターポールの初老の捜査官レイエス(ケン・フォーリー)は引退前の最後の仕事として,囚人を乗せた護送車の警護を引き受けた。ベオグラードに向かう道を走らせ,工業地帯のパンチェボにさしかかった所で,いきなり車の前に人が立ちはだかり,車はよけきれずにひいてしまうが,倒れて死んだはずの男が襲ってくる。そして周りを見ると同じような連中が群となって襲ってきた。

 レイエスはかつてコンビを組んでいた老刑事,新人女性刑事ミーナ(クリスティーナ・クレベ)と護送囚人を伴い,辛くも近くの警察署に逃げ込むが,老刑事は途中でゾンビに噛まれてしまう。そして署内は携帯電話も固定電話も通じず停電状態だ。

 警察署に立て籠もったレイエスたちは,同様に警察署に逃げ込んできた新聞記者と女子学生,大学の老教授と合流し,護送している囚人にも協力を求める。レイエスと囚人は外部との連絡を取るために非常用電源のスイッチを入れようとして地下に降りていき,何とか電源を復活させるが,その時大群のゾンビが襲ってくる。

 レイエスたちはゾンビを撃ち殺しながら奥の部屋に移動し,窓から外に逃げ出し川を目指す。船で逃げようと考えたのだ。しかし,そこで彼らは驚くべき光景を目にし・・・という映画である。


 まずなんと言っても,レイエス役のケン・フォーリーがいい。彼はロメロ監督の最初の《ゾンビ》でSWAT隊員として出演し,そのリメイク版の《ドーン・オブ・ザ・デッド》にも牧師役で出演しているゾンビ映画になくてはならない役者であり,その彼が歴戦の勇士の老捜査官に扮して主人公を演じているのである。これだけでも,この映画の作り手がどれほどロメロの映画に惚れ込んでいるかがわかるはずだ。しかもこのレイエス捜査官,数々の修羅場をくぐり抜けてきた伝説の男なのだが,奥さんを事故で亡くしてしまい,それ以来,安定剤を手放せなくなっているという設定もいいし,伝説の男と一緒に仕事ができるだけで嬉しい! という新人のミーナに対し,実の娘に対するように優しく,そして厳しく指導していく姿もなんだかいいのである。

 映画の中でレイエスがミーナに「俺が小さい頃,近くに頭のおかしい奴で住んでいて,”地獄が一杯になると死者がオーバーフローして地上に出てくる”って喚いていたんだ」と言うシーンがあるが,このセリフは実はロメロの《ゾンビ》で他ならぬケン・フォリーが口にするセリフなのである。このシーン,最高である。

 あるいは,警察署を抜けだして歩くシーンで「どこか,ショッピングセンターにでも逃げ込めばいいんじゃないか?」という意見が出たときのレイエスの「ショッピングセンター?そりゃ駄目だ。奴ら,すぐに破って襲ってくるぞ」というセリフもいいなぁ。もちろん,ゾンビ映画ファンなら「あの映画のあのシーンだ!」とわかるだろう。


 また,護送中の囚人が警官と協力して敵を撃退する,という設定も《アサルト13 要塞警察》《ゴースト・オブ・マーズ》と同じである。このゾンビ映画で活躍する謎の囚人も強いのなんのって格好いいんですよ。しかも,宗教狂信者が持ち込んだ武器の山から彼が選ぶのはなんと日本刀(みたいなの)で,スコン,スコンとゾンビの首を落としていくシーンは爽快そのもの。それにしても,この囚人さんは戦闘能力は極めて高く,頭も切れ,しかも体系は細マッチョときていて,すごく魅力的なキャラなんですが,最後の最後までこいつがどこの誰で,どんな罪を犯したのかも,なぜこんなに強いのかも最後まで不明。多分,映画監督は説明シーンを入れるの忘れちゃったんだろうな。

 そしてこの囚人に引きずられるように,頼りなかったひよっこミーナちゃんも後半は銃を構えてゾンビの群れを倒しまくるのだ(・・・映画の前半で「私,パソコンの使い方は得意なんだけど,射撃は上手くないの」というセリフは聞かなかった事にしておこう)

 それにしても,ロケットランチャーを含む大量の武器を持ち込んで戦う宗教狂信者さん,あなたは一体誰なんでしょうか? 多分この部分も,説明シーンを入れ忘れてしまったのかな? でも,こいつはキャラが立っているから許しちゃうのだ。


 もちろん,前述したように映画としては穴だらけである。登場人物は十分に説明がないまま活躍しちゃうし,前後で矛盾している箇所も一つや二つではない。また,警察署に立て篭もってからの展開がなんだかダラダラしていて,特に,地下室に入っていって電源をつけるまでが遅いし,レイエスの古くからの友達の老刑事がゾンビに噛まれてから変身するまでもちょっと間延びしている。少なくとも,電源をさっさと入れて次の展開に持っていった方が引き締まった映画になった気がする。

 新米刑事のミーナちゃん役の女優さん,ちょっと地味で華がないのが残念。もうちょっと別のタイプの女優さん(例:妖艶セクシー系とか巨乳系とか,あるいはボーイッシュなファイター系とか)で撮影して欲しかった気がする。

 そうそう,ゾンビ映画として面白かったのは,最後の「地面の上に仰向けに横たわるゾンビの集団」である。「何しているんだ?」「死人だから体温が低いだろ。だから日光浴して体を温めているんじゃないか?」というセリフもいいが,ゾンビが死人のように(?)集団で横たわっている様子はちょっと迫力があり,ある意味,非常に不気味なものがあった。こういう映像センス,非常にいいのである。


 というわけで,ヒロイン役の女優さんを取り替えて,途中の展開を引き締めた脚本に書き直し,リメイクして欲しいと切に願うのでありました。

(2011/05/18)

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