《フェスティバル・エクスプレス》★★★★(2003年,イギリス/オランダ)


 この異色のドキュメンタリー映画は見る人を選ぶんじゃないかと思う。「グレイトフル・デッド,ジャニス・ジョップリン,ザ・バンド,デラニー&ボニー,フライング・ブリトー・ブラザース,バディ・ガイ,シャナナらの幻のライブ映像」という一文を読んで,「すげぇ! マジ? この顔ぶれが一堂に会したライブなんて夢みたい!」と興奮した人は絶対に観た方がいい。最初から最後まで興奮と感動の連続だと思う。つまり,1960年代後半にロックをリアルタイムで聞いてきた世代(団塊の世代のあたりでしょうか?)には神からの贈り物みたいなDVDだと思う。

 しかし,これらのミュージシャン(・・・それにしても,ミュージシャンのことをアーチストと呼ぶようになったのはいつ頃からなんでしょうか?)の名前を見ても,「全然知らないよ」という人とか,「昔,こういうバンドがあったのは知ってるけど,演奏は聞いたことはないな」という人にとってはちょっと難しいかもしれない。DVDを見ても「演奏も曲も悪くないけどね・・・」という感じじゃないだろうか。

 ちなみに私(1957年生まれ)は,これらのロック・ミュージシャンの演奏は実はほとんど聴いたことがない。私は高校生頃になって初めてロックを聴き始め(それまでは,クラシック・ピアノ一辺倒だった),最初に聞いたロックはレッド・ツェッペリンやピンク・フロイド,そしてイーグルスなどだった。


 1970年6月27日,「フェスティバル・エクスプレス」と名付けられた一台の列車がカナダのトロントを出発する。ウェニペグを経由してカルガリーまでカナダの大地を横断する特別列車だったが,乗客がすごかった。それは超有名なロックバンド,ロックミュージシャンだけを乗せた特別編成の列車だったのだ。通常,大観客を集めて行われるロック・イベントはイベント会場に客が集まるが,これは,バンドがツアーを組んで観客の待つ町に出向くというものだった。

 それならバスのツアーと同じだが,このエクスプレスが唯一無二のものとなったのは,ミュージシャンたちが何日間も同じ列車の中で生活しながら過ごしたため,車両のあちこちで即席のジャム・セッションが開かれたことだった。その様子はこのDVDにたっぷりと納められているが,普段は忙しくて碌に言葉を交わしたこともないロック・スターたちが,グループの枠を越え,音楽のジャンルを越えて丁々発止のアドリブを繰り広げていくのだが,それが本当に楽しそうなのだ。

 そして,コンサート会場での演奏がこれまた凄いのである。中でも圧巻なのは,死の数ヶ月前のジャニス・ジョプリンが歌う "Cry Baby!" だ。まさに命を振り絞るような圧倒的な魂の歌である。これだけでもこのDVDを観る価値がある。


 そういうわけで,ジャニスやグレイトフル・デッドを夢中になって聞いていた中年後期の皆様,あるいは1960年代後半のロックシーンに興味を持っている人には絶対おすすめのDVDである。

(2011/05/24)

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