サム・ライミ監督という名前を聞いて「ああ,《スパイダーマン》の監督だね」という映画ファンと,「確か,《死霊のはらわた》の監督だったっけ?」という映画マニアがいると思います。前者は正統派映画好きで,後者はキワモノ映画好き。もちろん私は後者でございます。最近の映画ファンにとってはライミ監督は青春アクション映画の監督と思われていますが,この人は基本的にスプラッターホラー映画サイドの人間です。その彼が,構想10年,「俺って,本当はこういう映画が撮りたかったんだ」と作っちゃったのがこの作品。「さあ,次はどうやって観客を驚かそうか。楽しいなぁ」というライミ監督の声が聞こえてきそうな作品です。
この映画は,映画史上最強にして最恐の婆さんクレーマーに付きまとわれた若い女性の恐怖を描いたもので,確かに怖いには怖いんだけど,どこか笑えちゃうんですよ。オイオイ,こいつはギャグだろ,ってね。このあたりのセンスは抜群でしたね。
とある銀行に勤めるクリスティン(アリソン・ローマン)は貸付部門のトップを務めるキャリア・ウーマン。そして,野心満々の彼女は副支店長の座を巡って強力なライバルと熾烈な競争の毎日だ。
そんなある日,みすぼらしい風体の老女ガナシュ(ローナ・レイヴァー)が銀行を訪れ,彼女が対応に当たる。彼女はローン返済が滞り,自宅が差し押さえられそうだ,と訴え,返済の猶予をしてほしいと頼み込む。彼女は支店長に一旦相談するが,銀行の利益を考え,返済猶予を拒否する。その答えを聞いてもガナシュは諦めきれず,クリスティンの土下座するが,クリスティンは思わず警備員を呼んでしまう。するとガナシュは鬼の形相となり,彼女に飛びかかってくる。結局,ガナシュは警備員に取り押さえられて,銀行の外に連れ出される。
その夜,仕事を終えたクリスティンは地下駐車場に向かうが,そこでガナシュが待ち構えていた。クリスティンは必死に反撃するが,ガナシュは執拗に襲ってきて,ついにクリスティンは車の外に引きずり出され気を失ってしまう。するとガナシュはクリスティンのコートのボタンを引きちぎり,そのボタンに不吉な言葉を言い,クリスティンに握らせる。そしてクリスティンが気がついた時,ガナシュの姿はなかった。
そしてその時から,クリスティンの周りで次々と怪事件が続く。そして,霊能力者から彼女にとり憑いているものの正体を知る。それはガナシュが呼び寄せた悪魔ラミアだった・・・という映画です。
とにかく,ガナシュ婆さん,インパクトありすぎ! 彼女の顔が何度かアップになるのですが,何度見ても怖いっす。「史上最恐の婆さん」という歌い文句に嘘はありません。こいつがクレーマーと化して付きまとうのですから,たまったものじゃございません。
しかも,よく考えるとクリスティンには落ち度はなく,むしろガナシュ婆さんの方が悪いんじゃないかと思うのです。ライミ監督は『ヒロインは善良なんだけど,仕事で成功したいと思っている余り,一度だけ間違った選択をしてしまうんだ。それがきっかけとなって彼女は災厄に見舞われるのだ」・・・というように説明しているのですが,どう考えても婆さんの逆恨みにしか思えないんですね。だって,クリスティンの対応は銀行として決まっているものであって,いくら可哀想に思っても彼女は本来,中小企業への貸付担当ですから,住宅ローンについては彼女の裁量でどうこうできるわけではないのですよ。しかも婆さんだって,数ヶ月前から返済を滞らせていたし,「返済が遅れたらだめよ」というのは契約条項に入っています。それなのに,いきなり悪魔を呼び出して嫌がらせだもんなぁ。そりゃ,クリスティンちゃん,たまったもんじゃないよな。
それにしても,悪魔は3日間嫌がらせをするだけしといて4日目に魂を奪うのですが,逆に言えば,3日間は嫌がらせだけで命は大丈夫ということになります。その嫌がらせはエゲツないと言えばえげつないのですが,鼻血ブーさせるとか,ケーキの中から婆さんの目玉が睨むとか,開いた口に腕丸ごと一本とか,ビジュアル重視だけど何だか子供っぽいんですよ。しかも,気色は悪いけど体に直接危害を加えてないし・・・。
そうそう,「腕つっこみ」シーンの所で,上から落ちてきた重石みたいなのが当たった婆さんの目玉が・・・というところは超笑えました。ライミ監督,こういうのが心底好きなんでしょうね。
最後のオチも早い時期から予想がつきます。あれほど何度もコインを登場させ,急ブレーキで書類と封筒がゴチャゴチャになりますから,誰が考えてもああなるわけですな。だけど,もう一捻りさせて別の形の結末にした方がよかった気がします。
あと,オカシかったのが,霊能力者が除霊するシーンで,クリスティンが「悪い人? それは支店長です!」って口走ってしまい,それを受けて霊能力者が「悪魔ラミアよ,こんな詰まらん女の魂なんか放っておけ。奪うだけの価値はないぞ!」が言うところ。クリスティンちゃん,それだけは言われたくなかったと思うぞ。
というわけで,婆さんの顔はすげぇ怖いけど,笑えるシーンでは大笑いできる映画です。私はこういう映画,好きです。
(2011/06/03)