私,好きですね,こういう映画。何というかセンスがいいんですよ。監督は《0:34 レイジ34フン》のクリストファー・スミスで,スラッシャー系サバイバル映画にコメディーの要素をふんだんに入れて,しかもかなりブラックなギャグがちりばめられています。笑いと恐怖のバランスがすごくよくて,おまけに場違いな音楽の選び方が最高。こういう「バカやってるけど,バカに徹してやるぜ!」という映画,私は大好きです。
もちろん,「よい子は見ちゃダメだぞ」系の映画なんで万人にはお勧めしませんが,多少の残虐シーンくらいなら大丈夫なんで面白い映画がいいな,という人だけご覧ください。
対テロ戦用の武器を開発しては世界中に売り込んでいる兵器メーカーの「パリセード」は,次の売り込み先としてハンガリーをターゲットにしていた。そのため,社員7人をハンガリーの会社施設で研修をする予定だった。7人を乗せたバスが山道にかかるが,途中で倒木が道を塞いで先に進めなくなる。上司のリチャードは迂回路を行くようにバスの運転手に命じるが,運転手はその命令を聞かず,7人と荷物を降ろしたと思ったら,いきなりバスを走らせて姿を消してしまう。
7人は徒歩で施設を目指すが,ようやくたどり着いた建物は社長の言う「豪華ホテル級の建物」ではなく古ぼけたロッジだった。7人は何とか食事をすませ,翌日の研修(サバイバルゲーム)のために休むが,その頃から彼らを見張っている不気味な人影がちらほら見え始める。
翌日,研修が始まるが,この時,一人が狩猟用の大きなトラバサミに足を挟まれ,足を切断してしまう。そこらに罠が仕掛けられていたのだ。何とか怪我をした仲間をロッジに運び入れ,翌朝,二人が助けを求めて外に出るが,ここであのバスが乗り捨てられ,傍らに死体が転がっているのを発見する。バスの運転手だった。そして,謎の襲撃者により,一人,また一人と犠牲者が増え・・・という映画です。
このような「森に迷い込んだら怪物・連続殺人鬼・怨霊に襲われ,仲間が一人ずつ消えていく,という映画は珍しくも何ともありません。むしろ,ホラー映画の王道という感じすらして,襲ってくる敵が何か,そしてそれにどうやって反撃するかが映画の見所になります。この映画の場合,「パリセード社に恨みを持つテロリスト(みたいなの)」が襲ってきます。なぜこの会社に恨みを持つのかについては映画の中で説明されていますが,かなりいい加減というか,どうでもいいような説明です。ま,こういう映画なんで説明は適当でいいわけですけどね。
基本的にスラッシャー映画なんで,足はチョン切れるわ,首はチョン切れるわ,《ホステル》みたいな拷問シーンはあるわ,生きたまま焼き殺される女子社員はいるわ・・・と,文字で書くとなんかスゴいのですが,実際の映像ではそれほど大したことはありません。むしろこの手の映画としてはかなり大人しいというか押さえ気味で,むしろお笑いシーンになっています。
たとえば足チョン切れシーン(大体,この罠に足を挟まれて足が切れちゃう,ってところからしてお笑いだよね)では,「足が挟まれた! 痛いよ!」,「そっち側を引っ張って。今,足を出してあげるからね」,「わぁ,痛てて!」,「どうしたのよ」,「ごめん,ごめん。手が滑っちゃって」なんてのが3回も繰り返されて笑いをとります。また,首チョン切れシーンでは,その前に「ギロチンで首が落ちても数分は意識があるって話だぜ」という会話があって,その後に話した奴の首が落とされるのですが,落ちた頭がこちらを向き,「ほら,俺が言った通りだろ」と言わんばかりにニヤって笑ってウインクするんですよ。いやぁ,笑える,笑える。
あるいは,走って逃げるリチャードさんが地雷を踏んじゃうシーン。さすがは会社の重役,踏んだだけでそれが自社製品であり,しかも型番号までわかっちゃう。そのちょっと前に,リチャードと部下が「新型の人道的地雷」について話し合うシーンがあるから余計にブラックです。しかもリチャードさん,敵を引きつけるだけ引きつけてから,地雷から足をあげて敵もろとも自爆しちゃうのです。それまでのリチャードがヘタレキャラだっただけに,このシーンでの彼の男気と勇気にはマジで泣けます。
ブラックと言えば,最後の方で登場するパリセード社の社長さんもいい味だしてます。マギーとスティーブが何とかテロリストの襲撃から逃れて社長の豪華ロッジに行くんですが,この社長さんは「テロリストの襲撃」と聞いて,「よっしゃ,それなら我が社の新製品だ!」とバズーカを取り出して,やってきたテロリストたちめがけて発射するシーンはマジ笑えます。しかも,バックにはスーザの『星条旗よ永遠なれ』の勇壮なメロディーが流れます。おお,ここで社長が活躍か,と思ったら,ぶっ放した砲弾は敵に当たらずに上昇し,飛んできた旅客機に見事命中! オイオイ,お前がテロ行為をしてどうする!
そうそう,パリセード社は武器製造メーカーだというのに,社員が揃いも揃って銃の撃ち方もろくに知らない,というのも面白かったな。何しろこの7人,ホワイトカラーでして,銃をぶっ放すなんて労働には一切関与していなかったのです。だから,テロリストからマシンガンを奪ったけど撃ち方がわからなくて右往左往しちゃう。これがアメリカ映画だったら,素人がマシンガンをいきなり撃てちゃうんだよね。このあたりもよかったな。
そして,最高に笑えるワンシーンが,最後の方でスティーブ君がテロリストと戦うシーン。片方は「マジック・マッシュルームでラリるのが好き」というヘタレ社員,もう片方は歴戦の勇士と言うことで,ヘタレ・スティーブはボコボコにされちゃうんだけど,隙を見て相手のナイフを抜き取って敵のケツにおもいっきり突き刺しちゃう。そして,なおも追ってくるテロリストに,「おい,今度は覚悟しとけよ!」と言って,押し倒しちゃう。哀れテロリスト君,ケツのナイフごと座り込んじゃって! ここはマジ,笑いました。
ちなみに,映画の冒頭,走って逃げる3人(若いナイスバディ女性2人,初老のメタボ男性1人)の姿で始まります。そして女性は落とし穴に落ち,男性は殺されちゃうのですが,この3人,映画本編ではなかなか登場しないため,「あいつら,誰だったの?」とずっと気になってしょうがなかったのですが,最後の最後に正体が分かります。そうか,あのシーンの伏線として「服を脱いでブラもはずして紐にしちゃう」わけなんだね。そこにスティーブ君が絡んでくるわけね。そしてマギー姉さんを窮地から救うために走るわけね。ここはうまく作ったなと感心しましたね。お見事です。
見ている時は,最初の方のテンポがちょっと遅い感じだったのですが,後半の怒濤の展開が見事なため,全体を通してみると「ああ,面白かったな」という印象しか残っていません。その意味で,作り方がうまいと思います。
この映画は典型的なB級スラッシャー映画で,眉をひそめる映画ファンの方が多いと思いますが,私はこの作品,大好きです。
(2011/06/09)